ケンカップルは韻を踏む――「ラブライブ!スーパースター!!」10話レビュー&感想

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©2021 プロジェクトラブライブ!スーパースター!!
思いあらわに「ラブライブ!スーパースター!!」。10話ではラブライブ!地区予選が始まり、かのん達はラップをお題に出される。これは単に最後にラップを歌えばいいのではなく、10話全体に求められる課題だ。
 
 

ラブライブ!スーパースター!! 第10話「チェケラッ!!」

グループ名が「Liella!」に決まり、ラブライブ!にエントリーした5人。地区予選の説明会では、各地区ごとに設けられた課題を盛り込んで、パフォーマンスを行うルールが発表される。結ヶ丘の地区の課題は、ラップだった。ラップにいまいちピンとこないLiella!だったが、すみれは即興でラップを披露する。これならいけるかもと、かのんはすみれをセンターにするのだが――。
 

1.10話に課せられたもの

ラップとはどのようなものか?本作10話におけるそれは、何も知らない恋にかのんが説明した台詞を見れば分かりやすい。
 

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©2021 プロジェクトラブライブ!スーパースター!!
かのん「大丈夫、とりあえず韻を踏んで、思ったことを歌にすればいいだけ!」
 
ラップで重要なのは韻を踏むことだ。少し前のものと音が重なる言葉を連ねる……少し前のものと近くしかし同じではない、付かず離れずな点に妙味がある。ラップのお題に戸惑うかのん達だが、「結ぶ」を命題に誕生したLiella!と前後の言葉を「結ぶ」ラップの押韻は実はとても近いところにあると言えるだろう。すなわちかのん達が何かを結べば、その時点でこの10話は韻を踏んだ物語として成り立つ=課題を達成できるのだ。
 
 

2.韻を踏めない平安名すみれ

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すみれ「ちょ、ちょっと待って!」
 
かのん達が何かを結べば物語もまた韻を踏む。少し前のものと近くしかし同じではない結果を生めば、それは何かを結ぶことになる。今回のそれが何か?と言えばもちろんすみれの初センターだろう。これまで望んでなれなかったセンターの座を掴めば、それはまさしく少し前のものと近くしかし同じでない結果となる。ただ、すみれが苦悩するようにそれはけして簡単な道ではない。
 

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すみれ「そんなこと言っても分かってるの!どうせ最後はいつもわたしじゃなくなるんだから!」
 
ラップのお題には当初かのん達も挑戦しようとしたが、ダンスに夢中になってしまったり短歌になってしまったりとすみれ以外は誰も満足にできなかった。人は自分の経験や獲得物から何かを再生産していく生き物だから、元手がなければそもそも繰り返すことすらできない。すみれがショウビジネスの世界で踏んできた場数とはすなわち、繰り返しのための元手である。
しかし同時に、繰り返しは積み重ねれば積み重ねるほど違いを出すのを――韻を踏むのを難しくもする。幼い頃から繰り返した挫折にすみれの心はすっかりすり減っており、内心では誰よりも彼女自身がセンターに立つのを諦めてしまっている。「少し違う」結果など出せはしないと思い込んでいる。それでは韻は踏めない。
 

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すみれ「分かってるわよ!ショウビジネスの世界で生きてきたわたしをなんだと……」
可可「それが甘く見ていると言うのデス!」

 

すみれはことあるごとに自分はショウビジネスの世界で生きてきたのだと"繰り返す"。きっとその度に彼女は、経験を誇示すると同時にセンターに立てなかった挫折も自分に擦り込んでいる。これはすみれのプライドを守ると同時に彼女を縛り付ける呪いの言葉であり、故にスクールアイドルへと立場を変えても彼女は「センターになれない自分」を繰り返してしまうのだ。
 
 

3.ケンカップルは韻を踏む

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すみれ「あんた、絶対勝たなきゃいけないんでしょ」
 
経験ゆえに繰り返しに長けているが、それが呪縛となってセンターの韻を踏めないすみれ。しかしここには見落としが一つある。彼女に課せられたのは押韻であり、センター要素以外で押韻するなとは言われていない。今回彼女が踏んだもう一つの韻、センター要素と劣らず重要だったもの――それは可可との関係だった。
 

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かのん「ああ見えて気にしていると思う。スクールアイドルのことで、可可ちゃんを怒らせちゃったこと」
 
加入の経緯もあり、すみれと可可はややもするとにらみ合う関係だ。もちろんこれがいわゆるケンカップルなのは明らかだが、ケンカップルとは「素直になれない関係の繰り返し」という一面では停滞の象徴でもある。ならば、ただケンカップルのままではすみれと可可もまた韻を踏むことができない。
 

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可可「だから受け取りなさい、わたしが思いの全てを込めてあなたのために作ったのですから!」
 
この10話ですみれと可可は今までのように喧嘩しながら、しかしそれでも少しずつ互いへの思いに素直になっていく。可可はツンデレ気味にすみれへの特別な衣装を用意して、すみれはいつものように卑屈で偽悪的に振る舞っていたはずが可可に帰ってほしくない気持ちをさらけ出す。だから可可もまた、その実力であなたを認めたのだとツンデレもやめてティアラを差し出す。
一番自分を認めていないと思っていた相手が、一番自分を思ってくれていた――"センター"に据えてくれていた。それがすみれをただの繰り返しから一歩先に進ませる。
 

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すみれ「届いて、届いて……っ!」
 
可可の作ってくれた、風に飛ばされたティアラを追いかけてすみれは跳ぶ。もちろん本当に飛べたわけではなく、彼女は直後に転びもする。けれどそれは彼女が地面と、これまでと付かず離れずを果たせた象徴だ。「韻を踏めた」瞬間だ。なら、同じ悩みを抱えていたセンターの問題でも韻を踏めたとしても何の不思議もないだろう。改めてセンターを任されて「当然でしょ、誰だと思ってんの」と返す彼女はもう、「ショウジビネス」を繰り返す呪縛からは解き放たれている。
 

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©2021 プロジェクトラブライブ!スーパースター!!
すみれ「ありがとう、可可」
可可「すみれ……」

 

すみれの可可への感謝の言葉と、互いに名前で呼び合うようになった二人の関係。それこそはすみれが、Liella!が、この10話が韻を踏んだ証なのである。
 
 

感想

というわけでラ!ス!!の10話レビューでした。遅くなりましてすみません。まず「韻を踏む」=「結ぶ」を思いつくのに時間がかかり、そうだねオッドタクシーだねと思ってたらすみれの変化だけでは説明できず可可との関係も押韻の内に含められると気付くのに更に時間がかかりました。
 
数回見たけどすみれの「勝たなきゃいけないんでしょ!」の場面は何回見てもウルウルしてしまいます。可可相手だからこんな表情するのだよなあ。見ててつらい気持ちにもなりますが、やっぱりギャラクシーに魅力的な回でした。
 
 

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