謎こそミステリーの宝――「ルパン三世 PART6」1話レビュー

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©モンキー・パンチ/TMS・NTV
英国を舞台に幕を開ける「ルパン三世 PART6」。1話アバンは包囲され動機を不審がられるアルベールを遠くから見るルパンで幕を開ける。今回のルパン三世のターゲットは「それ」だ。
 
 
英国・ロンドン。初老の男、フォークナー卿の仕事場に飾られた一枚の「絵」――それは、「レイブン」と呼ばれる組織の隠し財宝に繋がっていた。ルパンにとっては、十年も前から狙っている因縁の宝。スコットランドヤードやMI6の妨害をかわしながら絵を盗み去るが、逃走劇のドサクサで絵は半分に破れてしまう。そして事態は、ロンドンに眠る名探偵――シャーロック・ホームズを呼び覚ますこととなる。
 
 

1.謎こそミステリーの宝

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©モンキー・パンチ/TMS・NTV
アルベール「馬鹿な!私が立案した計画……」
 
2018年のPART5以来3年ぶりとなるルパン三世の新作TVシリーズ。1クール目のテーマはミステリーだそうで、新キャラクターの「シャーロック・ホームズ」の早々の登場も強くそれを感じさせるものだ。彼は名探偵の代名詞とも言えるその名に恥じず、自分の事務所から映画のポスターのような絵を持ち出すフォークナー卿の不審な行動の謎を見事解き明かしてみせる。そして面白いのは、変装したフォークナー卿の正体でありルパン三世の好敵手でもある泥棒・アルベールが自分の作戦を見破られたのを不思議がる点だろう。そう、彼からすれば完璧なはずの作戦を見破られた理由もまた「謎」には違いない。
 

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©モンキー・パンチ/TMS・NTV
ホームズ「初歩だよ、アルベール・ダンドレジー。君の計画を見抜くことなど容易いことだ、このシャーロック・ホームズにかかればね」
 
ミステリー(この場合は推理小説)は読者や視聴者に謎を提示して惹きつけるもの。最大の関心となるのはもちろん「誰が、いったいどのようにして犯行を行ったか」で、探偵がそれを解き明かすのを私達は胸を躍らせながら物語を読み進めていく。
ただ、探偵はいつも謎を解き明かす側とは限らない。先のアルベールのように、計画が成功しほくそ笑む真犯人が探偵に冷水を浴びせられ「なぜ?」と戸惑う場面は多くの人が目にしたことがあるはずだ。探偵はこの時むしろ謎を提示する側にあり、それによって作品はより魅力的な仕上がりとなる。ミステリーは単一の大きな謎によってではなく、複数の謎を散りばめたり連続させてこそ上質な作品となるのだ。
 

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町の人「どうして浮気相手と夫が逃げたと分かったんですか?」
ホームズ「依頼人のしていた首飾りだよ、偽物とすり替わっていたんだ」

 

読者や視聴者、そして真犯人には皆目検討もつかない方法で真実を解き明かす行為もまた「謎」であり、謎とは中心に据えられるものばかりとは限らない。今回ホームズは一篇の推理小説にも足りるアルベールの事件と取るに足りない浮気調査の両方で「なぜ事件を解き明かせたのか?」=「謎」の種明かしをするが、これは本作がミステリーの何たるかに自覚的に作られている証と言えるだろう。謎こそはミステリーの"お宝"である。
 
 

2.今回ルパンが盗むもの

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ルパン「アルベール、フォークナー卿の情報はどっから手に入れた?」
 
謎とはミステリーのお宝である。この視点に立つと今回、ルパン三世(以下ルパン)の手口は鮮やかだ。ホームズは確かにアルベールの策謀を見抜いたが、探偵料の不足を理由にその動機までは探らなかった。つまりここには未解明の謎が残されている。フランスの高官でもあるアルベールがなぜ英国ロンドンで泥棒を、しかもただのポスターにしか見えない絵を盗み出したのか? 秘密情報部MI6までも乗り出すそれこそはこの事件最大の謎であり、すなわち最大のお宝だ。ルパンにとってアルベールの救出は単なる友情の発露(二人の関係は複雑なものだそうだが、PART5を見ていないので単純にこう表現するのをお許し頂きたい)ではなく、謎というお宝を盗み出す非常に怪盗らしい行為なのである。
 

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ルパン「リリー、大きくなったなあ……」
 
始まりとなる1話、本作は多くの謎を覗かせる。英国を影で操ってきたとされる組織レイブンの正体、優れた能力を持つホームズがしがない探偵業をしている現状、ホームズと共に暮らす少女リリーのずば抜けた利発さ……これらの謎は一見すると全て点に過ぎない。まとまりがあるわけではない。しかしどれにもルパンが関わっているとなれば話は変わってくる。
ルパンとレイブンは単に怪盗と獲物の関係に留まらず、ホームズはルパンと浅からぬ因縁を持ち、リリーに至ってはルパンを見て悲鳴をあげるほどの強い何かを抱えている。私達の関心も自然、これらとルパンの関わりに目が向くことになる。1話で提示される謎は全てルパンが絡んでおり、そのミステリー的価値こそは今回のルパンのターゲットなのだ。
 
ミステリーを取り込むことでより深みを増したお宝を、本作はどのように磨き上げていくのか。これからの物語に大いに期待できることだけは間違いなさそうだ。
 
 

感想

というわけでルパン三世の6期1話レビューでした。先に書いたようにPART5未視聴なのでそちらからの継続キャラに最初は戸惑いましたが、新シリーズのあり方を伝えてくれる最高の幕開けだったのではないかと思います。推理の種明かしを始めとしたホームズを感じさせる手付きが滑らかで、一気にこの世界に引き込まれてしまいました。これから日曜は特に楽しくアニメを見られそうです。
 

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©モンキー・パンチ/TMS・NTV
来た!眼鏡っ娘美人来た!と思ってたら沢城みゆきの声で「変装か」とガッカリした時の気持ち。しかし変装でもこの曲線美と眼鏡っ娘の組み合わせは素晴らしい。
 
 

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