競い合いは結び合い――「ラブライブ!スーパースター!!」12話レビュー&感想

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©2021 プロジェクトラブライブ!スーパースター!!
次へ向かって終わる「ラブライブ!スーパースター!!」。これまで本作は「結ぶ」を命題に進んできた。過去と現在、本物と偽物などなど……では、最終回となる12話が結んだものはいったいなんだろうか?
 
 

ラブライブ!スーパースター!! 第12話(最終回)「Song for All」

母校での一人舞台を成功させたかのん。学校の存続も決まり、意気揚々としている5人のもとに、ラブライブ!東京大会の概要が届く。その内容は、リモート形式とし、それぞれの地区代表がネットを使い、ライブを生中継でリレーしていくというものだった。つまり、ステージは自分たちで用意しなければならない。どんなステージにしようかみんなでアイディアを出すなか、かのんはあまりこだわりがないようで――。
 

1.終わりに向かう物語

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かのん「入学希望者が増えた!?」
恋「はい、今の数ならば生徒が足りなくなることはないと。来年以降も結ヶ丘は続いていきます!」

 

この12話は基本的に大きな問題の起きない話だ。会場をどうするかの課題はあるがそれを解決するのは学校の他の生徒達で、かのん達の背負う負担は大したものではない。センターになれない繰り返しへのすみれの悩みであるとか、歌えなかったことへのかのんのトラウマ払拭といったこれまでの難題のように涙を流して苦しんだりはしない。入学希望者の少なさによる廃校の危機も解消したことが語られ、かのん達に余計な悩みは一切ないのがこの12話と言える。最終回と言えばこれほど最終回らしい状況も無いと言えるだろう。全ては「終わり」に向かっている……だが、それは果たして喜んでばかりいられることなのだろうか?
 
 

2.終わりの先が見えなくて

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かのん「でもわたし、ずっと歌えないかもって不安があったから、自由に表現できるだけでもう、本当はそれだけで幸せで……」
 
先程大きな問題が起きないとは書いたが、かのんには問題とは言わずともひっかかっていることがあった。それは、歌で競う勝敗に自分が意味を見いだせないこと。歌えないかもしれない不安が解消された今、かのんは歌で自由に表現できるだけで十分幸せで、それ以上を求める必要性を感じられなかったのだ。
これまで抱えていた悩みが「終わった」からこそ、その先で目指すものを見つけられない壁にかのんは直面していた。そんな彼女に、神津島から買い出しに来ていたサニーパッションはこう助言する。
 

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悠奈「だとしても、競い合うことでより高め合うことができる」
(中略)
摩央「ラブライブで歌えばすぐ気付くはずよ。なぜみんな勝ちたいか、いや、勝たなきゃって思うのか」

 

言葉通り、助言の意味をかのんはラブライブ東京大会の結果を通して知ることになる。
 
 

3.始まりは終わりに抗う

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東京大会、かのん達Liella!のステージは非の打ち所のないものだった。仲間達に送り出される光の道。学校の他の生徒が街の人にかけあい準備してくれた、星をテーマにした美麗なステージ。感謝を込め歌う「Starlight Prologue」……これで優勝できたら皆、どれほど幸せだったろう。どれほど幸せな「終わり」を迎えただろう。しかしいくら完璧でも、優勝したのはサニーパッションであった。それがどれほどの差だったのかは分からないが、ともかくこれまでかのん達を包んでいた幸せな終わりの予感は一転、何も果たせぬままの無情な終わりへと変わってしまったのだ。そしてどちらにせよ、それは「終わり」であるのに変わりはない。
 

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かのん「ちいちゃん」
千砂都「ん?」
かのん「わたし、悔しい……!」
 
「終わり」に抗えるものは何か?もちろん「始まり」だ。悔しさに満ちた敗北によって、かのんは自分の中に新しい気持ちが生まれたのを認識する。これだけのことを積み重ねて、これだけのことをしてもらって、なのにこんなところで終わりだなんて耐えられない。次は勝ちたい、優勝したい――それはつまり、この12話の圧倒的な「終わり」に対抗できるだけの「始まり」が誕生した瞬間であった。
 
 

4.競い合いは結び合い

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かのん「わたし勝ちたい!勝って、ここにいる皆を笑顔にしたい!「やった」って皆で喜びたい!わたし達の歌で、Liella!の歌で、結ヶ丘の歌で優勝したい!いや……優勝しよう!」
 
サニーパッションの二人やかのんが口にする勝利への思い、競い合うことへの思いはもちろん、歌で競い合う他のグループの存在を念頭に置いたものだ。だが今回描かれるライブはLiella!のもののみで、サニーパッションのライブの様子は画面には映らない(そのためのリモート中継設定なのだろう)。ならば今回本当に競い合っているのはスクールアイドルのグループではない。
この12話で真に競い合っていたのは、好敵手だったものは、全てを押し流しそうな「終わり」と、それに抵抗する「始まり」だった。何かが始まる瞬間が好きというかのんには、この終わりに匹敵する始まりこそが必要だったのだ。
 
 

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そして悠奈が助言したように、本作の提示する競い合いはけして相手を蹴落とし滅ぼすような類のものではない。そうではなく相手がいるからこそ自分も高め合える、互いが互いに好循環をもたらすものだ。ならばそれはもはや自分と相手を、終わりと始まりを「結ぶ」行為とすら言えるだろう。
 
人は終わりも始まりも片方だけでは生きていけない。両者が競い合ってこそ、結び合ってこそ物語は生まれ明日が紡がれていく。それをこそ描いて「ラブライブ!スーパースター!!」1期は幕を閉じるのである。
 
 

感想

というわけでラ!ス!!の最終回12話レビューでした。日曜の夜はウンウン言っても結局まとまらず、月曜も深夜になってようやく……という感じなのですが、まあ、今回は浮かんじゃったので。
 
クゥすみの名前呼びとか廃校危機がさほど問題にならないところとかかのんのトラウマ克服とか「これ問題全部解決しちゃってない?2期にやること残ってなくない?」みたいな印象があったのですが、なるほどこの最終回のためだったのかと納得の結末でした。いや、2期をやること自体はやっぱり大変だとは思いますが。
 
人数を5人に絞ったことでスピーディに、そして濃密に物語が展開され、またシリーズが歴史を重ねているのを強く感じられる内容でした。かのん達との再会を楽しみにしつつ、今はこの新たな始まりという終わりを祝福したいと思います。スタッフの皆様、お疲れ様でした。
 

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すみれが袴を着ている時に神社に初詣に行きたい。彼女のかわいさは本当にギャラクシーでした。
 
 

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