兄弟の境界――「境界戦機」3話レビュー&感想

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©2021 SUNRISE BEYOND INC.
逃走の日々から変わる「境界戦機」。3話ではもう一人のメインキャラクター・鉄塚ガシンとそのメイレス・ジョウガンが登場する。ケンブと同じ有人機、同じ自立思考型AIの搭載……彼を始めとしたレジスタンスとアモウの接触から見えてくるものはなんだろうか?
 
 

境界戦機 第3話「戦う理由」

1.兄弟の境界

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アモウ「あの、鉄塚くん」
ガシン「"くん"はやめろ、気持ち悪い」

 

最初に触れたように、アモウとガシンにはいくつかの共通点がある。無人機が主流の世界で有人機を操ること、そのため自律思考型AIが行動を共にしていること。年齢も変わらぬ少年という点もそうだ。二人の乗るケンブとジョウガンは兄弟機であることが今回明かされるが、それはアモウとガイをもまた兄弟のような関係に仕立て上げている。
 
ただ、兄弟は類似はしても一致はしない。ガシンの所属する組織・ヤタガラス(公式でまだ記載がないので漢字かカタカナか不明)と生活を共にする中で、アモウは自分と彼らの違いをこそ意識していくことになる。
 

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アモウ「俺には、理由がありません」
 
テロリストではなくレジスタンス(つまりこれも兄弟だ)を標榜するヤタガラスの人々には大なり小なり家族を占領軍に奪われた経験があるが、アモウが家族を持たないのは単純に不運の結果でしかない。ガシンにとってメイレスは遊び道具ではないが(それが正しいのだが)、アモウがケンブを組み上げたのは遊び心によるものだし初陣で感じたのは何より楽しさだった。よく似た立場にありながら、アモウとヤタガラスの人々の間には明確な境界がある。
 
 

2.境界あれども

兄弟は類似しても一致はしない。似てはいても境界がある。アモウはそれ故ヤタガラスへの参加を即決できないが、共に過ごす時間は自分と彼らの違いが手を取り合えないものではないことも学んでいく。
 

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リサ「もし弟が君と同じ立場だったら、仲間になれって言うかなって。どこかに逃げて、穏やかに暮らしてほしいって言うんじゃないかなって」
 
例えばアモウに優しく接する甲咲リサは自分と彼の環境の違いを、境界を認識してなお彼に死んだ弟を重ねている。そして重ねるからこそ、行動を共にせず穏やかに暮らしてほしい気持ちもあることを吐露する。
 

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アモウ「ううん、違うよ。感動してるんだ。やっぱりプロの仕事だって。細かい仕上げも俺がやった時より全然良くなってる」
 
例えばヤタガラスのメカニックの整備によって完成したケンブはアモウが一人で組み上げた時とは段違いの性能を発揮し、少年とプロの境界を見せつける。しかしそこに違いがあるからこそ、アモウは感動もする。
 

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悪い人ではないと分かったから、ケンブと別れたくないから、学びたいこともあるから。アモウがヤタガラスへの参加を決める理由はふわふわして曖昧だ。およそ主人公らしいものとは言えない。魅力的でもない。しかし前回も書いたようにこの中途半端さこそアモウがアモウたる所以であり、他者との境界線を無碍に踏み潰さない彼独特の手つきなのだろう。
 
 

3.アモウが守ったもの

アモウは他者の境界線に無理に踏み込もうとしない。しかしそれには同時に、自分の境界線をきちんと守る力も必要になる。"兄弟"たるガシンの登場は今回、その証明もまたアモウに求めている。
 

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ガシン「有事の際には互いの機体を入れ替えて乗ることもある。そのための備えだ」
アモウ「そんな有事、起きてほしくないけど……」

 

これまでアモウはケンブを他の誰かが操縦する可能性を考えたことはなかった。ガイと自分だけの行動だったのだから当然だ。だがケンブの出自がヤタガラスにあり、また同じくメイレスを操縦するガシンが登場すれば話は別だ。劇中で言われるように「パイロットには替えが効く」のである。アモウでなければいけないわけではないから、ヤタガラスの指導者の一人であるゴウケンレジスタンスに参加しない選択肢も否定しない。実際、ケンブを返してヤタガラスの支援で穏やかな暮らしに戻るのは、本来ただの少年に過ぎないアモウにとって非常に合理的な選択のはずだ。
 

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しかしリサにヤタガラスへの参加を伝えた時の理由の一つにもあったように、アモウにはケンブと別れたくない気持ちがある。なぜか?生身で戦ったわけではなくとも、ケンブから感じた衝撃や振動はアモウ自身のものに違いはないからだ。彼の"境界"はケンブによって拡張されており、すなわちケンブを手放せばアモウは自分の境界をも手放してしまう。だから彼は守らねばならない、ケンブというもう一つの自分の境界を。
 

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ガイ「引き分けか?」
アモウ「……ふう」

 

アモウにとって、メイレスを交換してのガシンとの模擬戦は二重の意味を持つ。一つはパイロットとしての力量の証明。特性も大きく異なるメイレスを交換してガシンと引き分けに持ち込んだ結果は、けしてアモウが使い物にならないパイロットなどではないことを証明する。
もう一つはアモウとケンブの不可分さの証明だ。ケンブに乗ったガシンは、わずか2戦で機体にアモウのクセが染み付いているのを感じ取る。自分が乗っても戦えないわけではないが、アモウより上手く扱えはしないとこの模擬戦でガシンは理解できた。それはアモウをある程度認めたということだ。彼は自分とアモウの間の"境界"を理解したのだ。
 

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ガシン「そいつにはたった2戦でお前のクセが染み付いている。お前専用機のようになっているな」
 
"兄弟"は類似しても一致はせず、そこには境界がある。しかし境界を保つことでこそ、手を取り合えもする。アモウとガシン、そしてヤタガラスの邂逅はそれを示してみせたのである。
 
 

感想

というわけで境界戦機の3話レビューでした。前回感じたアモウらしさが本作らしさなのだな、と感じました。受けは悪そうだなあとは思いますが。
 

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さて、次回はOPで出ている強敵っぽい機体の本格登場回になるようですね。片腕が大きいデザインに惹かれますが、バリバリ悪役ムーブを披露してくれそうで被害が心配です。
 
 

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