バケモノはバカモノ――「吸血鬼すぐ死ぬ」3話レビュー&感想

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©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会すぐ死ぬ
バカが増殖する「吸血鬼すぐ死ぬ」。3話、若くして吸血鬼対策課に所属するヒナイチは警官から畏怖を込めて「バケモノ」と呼ばれる。今回はこの言葉の示す所を考えてみたい。
 
 

吸血鬼すぐ死ぬ 第3話「出世街道転落道」「バカ騒ぎ退治人ギルド」「まだバカ騒ぎ退治人ギルド」

ロナルドはドラルクを連れて退治人組合を訪れる。 同じ退治人のシーニャがドラルクを気に入ったことで急遽ロナルドVSシーニャの『ドラルク争奪戦』が開催される。わざと負けようとするロナルドだが、途中、絶対に負けられない理由ができる。
 

1.化け物を退治するのはバケモノ

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©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会すぐ死ぬ
ヒナイチ「隊長、侮ってはなりません!奴は200年以上生きるバンパイアロードです!」
 
1話レビューで書いたように、吸血鬼退治とは本来大変に困難なものだ。弱点も多いとは言え超常的な能力を持つ彼らに人間が立ち向かうのは並大抵のことではない。吸血鬼という化け物を倒せる人間は、その時点で人間の領域からはみ出しかけていると言ってもいいだろう。ならば同様の人間が集まる吸血鬼対策課に最年少で入隊したヒナイチが「バケモノ」と呼ばれるのも無理はない。下等とは言え巨大な吸血鬼を一瞬で倒した時の手並みや体術を見ても、彼女の戦闘能力が人間離れして優秀なのは疑う余地がない。
……ただ、本作の吸血鬼はそういう力で立ち向かう相手とは限らない。
 
 

2.変わるバケモノの定義

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©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会すぐ死ぬ
本作にはこれまで、ドラルクとゼンラニウムの2人の吸血鬼が登場している。どちらもバンパイアロード、吸血鬼の中でも高位の存在だ。普通の吸血鬼ものなら新横浜が阿鼻叫喚の地獄絵図と化しているところだろう。
 

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©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会すぐ死ぬ
ヒナイチ「死んでる!?」
 
しかし実際のところ、彼らがもたらしているのは阿鼻叫喚ではなく抱腹絶倒のバカバカしさだ。ポストにぶつかっても死ぬ吸血鬼、名前通り全裸で徘徊する吸血鬼……恐怖の対象とはまた違った意味で、本作の吸血鬼は化け物としての地位を確立している。ならばそれに対抗できる吸血鬼退治人のバケモノぶりもまた、その意味は変わってくる。
 

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©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会すぐ死ぬ
ヒナイチ(馬鹿な! 冷血非道の吸血鬼にも捨てきれない人の心、すなわち愛が存在するというのか!?)
 
アバンの優秀さと打って変わって、Aパートでヒナイチが見せる行動はポンコツ度100%だ。ドラルクは本当にただ死んでいるだけなのに勝手に深読みしていく様は想像を軽く超えていて、これまた常人の及ぶところではない――「バケモノ」じみている。
このAパートで「バケモノ」は、強さからおバカさに対する形容に意味するところを変えているのだ。
 
 

3.バケモノはバカモノ

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©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会すぐ死ぬ
「バケモノ」は強さに対する形容とは限らない。そう考えた時、B・Cパートもまた様相は変わってくる。なにせこちらに登場するのはギルドに所属する吸血鬼退治人達、すなわち「バケモノ」揃いなのだから。
 

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©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会すぐ死ぬ
マリア「うるせえ売れないとか言うな!」
ター・チャン「人気商売ネ、目立ってなんぼアル!」
メドキ「結構衣装代もかさむんだぞクソー!」
ショーカ「かさむかさむ」

 

困難な吸血鬼退治をロナルド同様に生業とする退治人は屈強な戦士のはずだが、ギルドが酒場を兼ねていることもあって今回退治人達にその威厳はない。むしろ目立つのは野球選手の格好や被り物をする退治人までいるイロモノっぷりだ。ドラルクが売れない芸人の楽屋裏だのチンドン屋だのと呼ぶのも無理はない。

 

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©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会すぐ死ぬ
シーニャ「この子が例の吸血鬼ね!?ヤダもうスイート大金星!」
 
挙句の果てにはドラルクすら怖気づく奇装に身を包んだシーニャ・シリスキーの登場や彼とロナルドの勝負で、ここでもやはり「バケモノ」は強さからおバカさに対する形容へとその意味を変えてしまう。吸血鬼がバカだから退治人もバカなのか、退治人がバカだから吸血鬼もバカなのか?鶏と卵のどちらが先かに意味はない。
吸血鬼も退治人も関係なく、ここに至って「化け物」「バケモノ」はもはや「バカモノ」でしかなくなるのだ。
 

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©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会すぐ死ぬ
ロナルド「黙ってろ馬鹿野郎どもお買い上げありがとう!」
 
強者たるバケモノを死なせ、バカモノとして蘇らせる街。本作の新横浜とはきっと、そういう場所なのである。
 
 

感想

というわけでアニメ吸死の3話レビューでした。笑えるけど何を書いたものか?と見返している内、ヒナイチのバケモノ呼ばわりが引っかかってこんなのができました。やはりギャグ作品は自由度が高い、頭の体操になる……
 

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©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会すぐ死ぬ
有名声優陣が賑やかにワチャワチャやってる感じが楽しかったです。豪勢な回でした。あとヒナイチがリアクションになると年齢下がる感が相変わらずかわいい。
 
 

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