尊厳もすぐ死ぬ――「吸血鬼すぐ死ぬ」5話レビュー&感想

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©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会すぐ死ぬ
誰もが形無しになる「吸血鬼すぐ死ぬ」。5話では危険度Aオーバーの吸血鬼・辻斬りナギリが登場する。彼は自らの魂を分離することで不死性を得ているとされるが、本当にそうだろうか? 肉体が死ななければ人は死なないのだろうか?
 
 

吸血鬼すぐ死ぬ 第5話「辻斬りナギリのいちばん長い日」「猫はかわいい」「半田・オフの日・ヒストリー」

辻斬りナギリは不死の肉体を持ち、己の血液を刃にする強力な吸血鬼。ロナルドたちは吸血鬼対策課と協力して行方を追う。一方、ドラルクとジョンは散歩の途中で謎の人形を拾う。それは辻斬りナギリの魂が閉じ込められた人形だった。
 

1.形無しの辻斬りナギリ

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©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会すぐ死ぬ
ヒナイチ「超自然的な方法でも魂とでも言うものを肉体から分離させて隠している。それを破壊しない限り、辻斬りは杭を打とうが日に晒そうがびくともしない不死身の相手だ」
 
アバンで吸血鬼対策課のヒナイチがハンターギルドに協力を求めるように、今回の1本目「辻斬りナギリのいちばん長い日」に登場するナギリは非常に凶悪な吸血鬼だ。自らの血液で作った刃を振るう攻撃力はもちろん、自らの魂を封じ込めた分霊体を傷つけられない限り一切のダメージを負うことがない。これまで4話さんざんバカをやってきた本作もさすがに真面目にならざるを得ない……アバンは視聴者にそういう覚悟をさせる。
 

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©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会すぐ死ぬ
ナギリ「嫌だああ!せめて辻斬りとして捕まりたい!」
 
だがOPと提供明けで描かれるナギリはむしろ、ひたすら惨めで哀れにすら思えてくる存在である。たまたま分霊体を拾ったドラルクが、それと知らずに分霊体をぞんざいに扱う度にナギリはひどい目に遭う。金的にダメージを負ったり服を脱がされたり、逆にボンデージファッションをさせられたり……そこにはアバンで警官のケイ・カンタロウを襲った時の恐ろしさは微塵もない。そう、今回ナギリは恐怖の辻斬り吸血鬼としての尊厳を何度も殺されているのだ。
 
 

2.尊厳もすぐ死ぬ

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©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会すぐ死ぬ
ヒナイチ「はい、ボサツ様」
ロナルド「操られてるぅー!?」

 

肉体に限らず尊厳もまた死ぬものであると考えると、5話を構成する3本の話はいずれも同様の話であることが見えてくる。2本目の「猫はかわいい」では吸血鬼退治のプロフェッショナルであるはずのヒナイチやロナルドが吸血猫ボサツに操られる失態を演じるし、3本目「半田・オフの日・ヒストリー」に登場する下級吸血鬼・陸クリオネは吸血そのものよりも雑に服を溶かすせいで捕食されたものがハイレグになってしまうことこそが恐ろしい。これら3本はいずれも尊厳の死に関わる話なのである。
 

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©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会すぐ死ぬ
半田「何も知らずにハイレグで礼を言うヤツは傑作だった……うぅあー!」
 
同時に今回、尊厳の死に関してもっとも悲惨な目に遭うのは自らも尊厳を侮辱した者達だ。ナギリの分霊体による不死は肉体の生死の尊厳の侮辱であったし、吸血猫として人間を猫缶を開けるためだけの存在にしようとしたボサツはフクマによって瞳から生気を失う。半田にしても前回の家探しとその結果には同情の余地があったが、ロナルドを助けた(自分に尊厳を持たせた)過去が実は仕込みだったと知れれば彼に殴られても文句は言えない。
 

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©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会すぐ死ぬ
ナギリの分霊体に限らず、人(?)は尊厳を破壊されることでも死を迎える。しかしこれはある意味、本作の世界に住むための住民登録のようなものなのだろう。吸血鬼、退治人、警官、ダンピール……尊厳がすぐ死ぬ存在になってこそ、彼らは新横浜の住人たり得るのだ。
 
 

感想

というわけで吸死の5話レビューでした。やー今回も面白い。ナギリさん関俊彦だったとはクレジット見るまで気付かなかった。ボサツの中尾隆聖と言い相変わらず豪華で、それを抜きにしてもどのパートも笑えて素晴らしい。
 
今回は尊厳がすぐ死ぬことが本作の住人の条件とは書きましたが、例外もいますね。ボサツを飼って生気を失わせるフクマさんもそうだし、吸血鬼に襲われたりハイレグになってもカメラを止めないカメ谷も自らの尊厳を死なせない。本作における不死の存在とは彼らみたいなのをいうのでしょう。
 

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©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会すぐ死ぬ
明らかに名乗りがおかしくなってるのに律儀に「辻アバゥァー」とか呼んであげるヒナイチが今回もかわいい。
 
 

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