道を開くための本質――「月とライカと吸血姫」6話レビュー&感想

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© 牧野圭祐小学館/「月とライカと吸血姫」製作委員会
爆発の時を迎える「月とライカと吸血姫」。6話では爆発事故を目にしたイリナが悪夢を見るようになり、訓練に支障をきたしてしまう。彼女が、いや物語が再び歩みだすため必要だったのはなんだろう?
 
 

月とライカと吸血姫 第6話「吸血姫」

訓練中『パールスヌイ6号』の事故現場を見てしまったイリナは、そのショックから悪夢を見るようになる。食事もとれず、ついには訓練中に倒れてしまうイリナ。吸血鬼の彼女を回復させるため、レフはある手段を取る。
 
 

1.本質の露出

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© 牧野圭祐小学館/「月とライカと吸血姫」製作委員会
6話の始まり、怯えながらベッドに入ったイリナは悪夢を見る。爆発するロケット、黒焦げになった実験犬達、同じように崩れていくイリナの体……特に黒焦げの犬が頭蓋骨を晒す様はなんとも恐ろしい。骨を晒すとはすなわち、本質の露出である。
 

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© 牧野圭祐小学館/「月とライカと吸血姫」製作委員会
アーニャ「慣れない環境で無理してたのが、弾けてしまったんでしょう」
 
本来頭蓋骨が外に晒すものではないように、むき出しになった本質は脆くまた危険なものだ。悪夢を見るようになったイリナは単に恐怖するのでなく疲労貧血を起こしてしまうが、これも人間に負けないよう必死で平気なフリをしてきた彼女が本質を晒してしまった一例と言えるだろう。レフが言うように、偉ぶっていてもイリナは17歳の少女に過ぎないのである。
 
 

2.道を開くための本質

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© 牧野圭祐小学館/「月とライカと吸血姫」製作委員会
レフ「眠れなかったのか?」
 
一度むき出しになった本質は、隠そうとして隠せるものではない。イリナがいくら大丈夫と言っても目の隈や血色は嘘をつかないし、安全性を無視した打ち上げ強行や宇宙船への爆弾の搭載は宇宙開発が連合王国との競争であることを嫌でも意識させる。平気なふりをしても体調や安全性が獲得できるわけではない。
だからレフは、そうしたアプローチを選ばない。彼がイリナを救うために採った方法とは、自身もまた本質をさらけ出すことにあった。
 

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© 牧野圭祐小学館/「月とライカと吸血姫」製作委員会
レフ「本気だ、試せることは試したい。宇宙へ行くという、君の夢を叶えたいから」
 
レフは今回これまで以上に献身的にイリナを支えようとするが、それは彼がイリナの本質に自らも本質をぶつけて為されている。イリナが吸血鬼であるなら自分の血を与えるし、爆発が恐ろしくないのか問われれば恐怖は認めつつもそれ以上に夢が大きいことを語る。振り返ってみればこれまでにしても、イリナが少しずつ本音を語るようになっていったのはレフが常に彼女に本心をさらけ出していたからだろう。
 

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© 牧野圭祐小学館/「月とライカと吸血姫」製作委員会
レフ「イリナの思いを踏みにじりやがって、どっちが穢れだよ!」
 
吸血のため上着を脱ぐ行為が象徴的だが、レフはもう、イリナのために自分をさらけ出すことを厭わない。イリナの乗る船に爆弾が搭載されると聞けば計画が中止になればいいとすら口にするし、何を企んだのかフランツが仕組んだ機器のトラブルでイリナが死にかければ装置を破壊してまで彼女を救おうとする。そして彼はイリナのため、自らの夢を断った上官への反抗すら再び行ってみせた。
 
こうした彼の本質はけして、イリナに感化されて変化したものではない。上官への反抗がかつての繰り返しであるように、元々備わっていた本質に過ぎない。イリナのレフに対する態度がどうであったように、二人が互いに与えた影響とはそれぞれの本質以上にその覆いの取り扱いに関する部分なのだろう。
 

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© 牧野圭祐小学館/「月とライカと吸血姫」製作委員会
イリナ「あの、レフはどうなるの?」
 
人の本質は、自らも本質でぶつかることでしか知ることはできない。レフがそうであったように、イリナが歩むのに必要なのもおそらくまた、自分の中の感謝や信頼にいっそう素直になることにある。打ち上げが迫る残り少ない時間で、二人はまだ何かを交わすことができるだろうか?
 
 

感想

というわけで月とライカと吸血姫の6話レビューでした。毎度テーマを探るのが難しい作品ですが、イリナの名前通りの吸血やレフが再び上官に逆らうことを結びつけて考えられるならこれかな、という感じです。イリナの吸血、エロティックでプラトニックと相反する要素が重なり合っているのが良い場面でした。そりゃアーニャも人払いしようとするわ。
さてさて、レフの運命や打ち上げ実験の行方は。次回は映像的にも一つの山場になりそうです。
 
 

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