天井裏の正道――「吸血鬼すぐ死ぬ」6話レビュー&感想

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©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会すぐ死ぬ
化け物の上を行く「吸血鬼すぐ死ぬ」。6話では2人の怪物が物語を大きく動かす。恐怖の存在であるはずの吸血鬼すら恐れる怪物とは、そしてそこから逃れる道はいったいどんなものであろうか?
 
 

吸血鬼すぐ死ぬ 第6話「女帝誕生物語」「ドラルク家の一族」「続・ドラルク家の一族」

ラルクに誘われたロナルドは、ドラルク一族の新年会に行くことになった。目的は吸血鬼退治人として監督するためである。ドラルクの父をはじめ多くの吸血鬼たちが集うなか、正体がバレないよう、ロナルドは監視を続ける。
 

1.恐怖の理由

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©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会すぐ死ぬ
アダム「頼む、彼女をなんとかしてくれ!」
ロナルド「帰れ!」

 

今回は吸血鬼がよく怯える回だ。「女帝誕生物語」ではアダムという人間に紛れて暮らす吸血鬼、「(続・)ドラルク家の一族」ではドラルクの家系に連なる吸血鬼達が登場するが、彼らは皆怯えている。本来は吸血鬼こそ人間を恐怖させる存在にも関わらずだ。だが、彼らは別に対象が腕力で自分を上回るから恐れているわけではない。その程度で恐怖するなら、吸血鬼が束になってかかってきても怖くないと豪語するロナルド相手でも彼らは恐怖しているだろう。
 

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©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会すぐ死ぬ
希美「あ、やだ間違えちゃった。誰このサラサラしてる人ー?」
 

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©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会すぐ死ぬ
ラルク「違う!本当に厄介なんだお祖父様は!体力気力も化け物並みで、自分の趣味や思いつきに一族みんな付き合わせて振り回す!」

 

吸血鬼達が今回恐れるもの、それは種族の埒外にいる存在だ。アダムを追いかけ回す月光院希美が恐ろしいのはただの人間に過ぎないにも関わらず吸血鬼以上に暴れているからだし、吸血鬼の能力をほぼ全て使えるドラルクの父を始めとした一族が"御真祖様"を恐れるのはその行動が無茶ぶりの連続だから。制御不能のものほど恐ろしい存在はないのだ。
 
 

2.天井裏の正道

希美や御真祖様といった埒外の存在に対抗するには、尋常一様の行動ではとうてい足りない。対抗するには自らも埒外に出なければならない。
 

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©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会すぐ死ぬ
吸血鬼達「バニーのマスなら安全だ!」「地雷より千倍マシ!」「なんとしても4を出すのよ!」
ロナルド(人の尊厳は、脆い)

 

例えばアダムは、誤解が理由とは言え本来自分の敵であるはずのロナルドのところへ助けを求めに行った。また例えばドラルクの一族の吸血鬼達は地雷や吸血ウツボカズラから逃れるため、本来は恥のはずのバニーの格好をさせられるマスへ積極的に進もうとする。
これらはある種の邪道だ。吸血鬼が吸血鬼退治人に助けを求めるなど馬鹿げているし、優秀な吸血鬼が人を畏怖させる力をすごろくに使うなど情けないほどだ。アダムが希美から逃げた時のように、例えるなら彼らは天井裏を進んでいるようなものに他ならない。しかしだからこそ、それは埒外なのだ。
 

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©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会すぐ死ぬ
御真祖様「ドラルク
ラルク「はい」
御真祖様「人間の友人を大切にな」
ラルク「はい、お祖父様」

 

天井裏を移動する発想自体から言えるように、埒外の邪道は時に新たな可能性を生み出す。吸血鬼の吸血は本来相手の生命と尊厳を奪う行為だが、身を挺してトラックから自分をかばった希美をアダムが噛めばそれはむしろ再生の手段となる。吸血鬼も恐れさせるアグレッシブさだった希美が強大な吸血鬼になる素質を秘めていたり、またロナルドの存在が御真祖様にドラルクの祖父らしい言動をさせたことなども同様だろう。
 

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©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会すぐ死ぬ
希美「とても晴れやかな気分だわ。あるべき姿に戻ったような……」
 
埒外の可能性こそは人に、世界に、笑いに新しい可能性をもたらす。いや、新たな道を指し示す。世の中、意外な所に正道が隠れているのである。
 
 

感想

というわけで吸死の6話レビューでした。予告でドラルクのご先祖が出てくる話なんだなと想像してたらぜんぜん違う始まりにびっくり。花澤香菜のキャスティングもあってすごい存在感だった……当初はネタとしてはちょっと古い印象を受けたのが、最終的にはこりゃ惚れるしかないとなるのもなんだかズルい。正に女帝だ。あとすごろくの時のロナルドの奇声、よく演技で出せるなと思ってしまうレベルでした。すごいな。
 

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ゴルゴナ「わたしも、若い男のポールダンスが見てみたくてたまらないわ!」

 

欲望に素直なゴルゴナ叔母さん、地味に好き。
 
 

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