心の自治区――「境界戦機」9話レビュー&感想

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©2021 SUNRISE BEYOND INC.
道を分かつ「境界戦機」。9話ではガシンの兄貴分である末永ユウセイと彼の作った自治区が登場する。だが、それは本当に自治と言えるものだろうか?
 
 

1.包容力あふれる男の懐

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ユウセイ「非公式だが、人口3482名という小さな村程度の規模で日本人の自治が認められている。そして、この自治区の初代区長がこの俺ってわけだ」
 
今回のゲストキャラクター・末永ユウセイは八咫烏の元構成員にしてガシンの兄貴分だ。3年前に失踪した彼はなんとアジア軍と交渉し、非公式ながらに作り上げた自治区の区長となっていた。
 

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ユウセイ「大丈夫だ、絶対俺が守ってやる。俺はお前のお兄ちゃんだろう?俺を信じろ」
 
ガシンが今回はいつになく柔らかな表情を見せるように、ユウセイは優しい男だ。かつて遭難した時はガシンを励まし、ガシンの父が死んだ時は彼に寄り添い代わりに涙した。ユウセイは要するに大きな包容力を持った人間なのであり、戦いではなく人々を包み込む町作りに奔走したのは気質としても当然の帰結だったのだろう。
だが、包み込む町が自治区と言えるかどうかはまた別の話だ。
 
 

2.包み込まれて損なわれるもの

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ケイ「人間とは贅沢な生き物だな。ここの日本人達の生活水準は高い。だが、それに慣れてしまえば別の不満が生まれる」
 
自治区に住む人間はユウセイに感謝しているが、同時に物資の配給が滞りがちだったり町の補修工事が遅れることに不満を抱いてもいる。ユウセイは確かに市井の人々を包み込んだが、人々はそれに甘えるばかりで"自ら治める"気概を持っているわけではない。包み込まれることは、自らの境界線を人に委ねてしまう危険性も秘めているのだ。そしてその陥穽に落ちているのは、けして町の人々だけではなかった。
 

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アジア軍兵士「下手な勘ぐりはやめてくれよ?この町は自治区とは言え非公式。こちらも危ない橋を渡っていることを理解してくれ」
 
ユウセイは自治区を作りまた維持するため、アジア軍に様々な形で協力していた。土地の接収や情報漏洩、反乱勢力の摘発や贈収賄に恐喝……ユウセイの裏を掴んでいたジェルマンが言うようにそれはアジア軍の手足であり、そして手足には頭がない。自らの境界線がない。
 

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大きな包容力を持つユウセイはしかし、彼自身もまたアジア軍に包まれる存在となってしまっていた。だが本作は、こうした話の類型のようにただユウセイを間違いとは断じない。
 
 

3.心の自治区

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ガシン「情報を盗んだことで任務は完了する。八咫烏の行動が迅速で慎重だったと言えば言い訳は立つだろう」
 
ユウセイは自治区を守るため八咫烏を売ろうとしていたが、事前にそれを知ったガシンは宇堂や熊井に頼んで一芝居打っていた。ユウセイにわざと偽の情報を掴ませ、更にその情報よりも早く拠点から退去することでユウセイにも言い訳が立つ形でことを収めようとしていたのだ。
ガシンは幼き日と逆に、自らがユウセイを包み込もうとした。しかし、包み込まれることはユウセイにとってこれもまた"自ら治める"領域へ踏み込まれることであった。
 

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ユウセイ「お前達とは違う。俺は俺のやり方を貫く、例えどれだけ泥にまみれようとも!」
 
ユウセイはガシンに二度と兄と呼ぶなと言い捨て背を向ける。彼に甘えることなく、どれだけ汚れようと自治区を作るという自らの道を進もうとする。
それはけして正しい道ではない。彼が守ろうとする町のために、これからも多くの人が犠牲になるだろう。だが間違っているとしても、それは確かに彼が自分で決めたことだ。
 

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己の道を歩んでいるかどうかは、それが論理や利害の上で正解かどうかとは全く問題を異にする。これは兄貴分との穏やかな日々を捨て、わざわざ危険な戦いに身を投じ続ける選択をしたガシンにしても同様だろう。幼き日を共に過ごした兄弟同然の二人は、"自ら治め"ようととするからこそ道を分かつこととなった。
心の自治区は正しさの先には無い。ただただ己の境界線を守った先にこそ広がっているのだ。
 
 

感想

というわけで境界戦機の9話レビューでした。本文中でも触れたようにこういった話は「与えられた自治区なんて偽物だ、戦おう!」というのが定番だったと思うのですが、テーマが近くともこういった描き方になるのは現代的だなと思います。相変わらず本作で触れられる「日本人」のくくり方は素朴過ぎるなとも感じますが。今回はガシンの独り立ちの回だったと言えるでしょうか。
 
さて、次回は4つの経済圏最後の勢力が現れるようで。バトル回でもありますが、どんな展開になるんでしょうね。
 
 

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