逢魔時は祭りの時間――「吸血鬼すぐ死ぬ」10話レビュー&感想

f:id:yhaniwa:20211208215143j:plain

©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会すぐ死ぬ
境が消え去る「吸血鬼すぐ死ぬ」。10話でロナルド達は祭りの見回りに訪れるが彼ら自身大いに祭りを楽しんでいる。そして今回、ごっちゃになっているのは仕事と祭りだけではない。
 
 

吸血鬼すぐ死ぬ 第10話「祭り囃子が君を呼ぶ」「平成迷惑な吸血鬼合戦シンヨコ」「ドラルクのオールナイト・シンヨコ」

"吸血鬼研究センター(VRC)"所長のヨモツザカは、大天才と名高い吸血鬼研究者。彼に突然呼び出されたロナルドたちは、センターから逃げ出した吸血鬼を捕獲するよう命じられる。逃げた吸血鬼は強い魅了性のフェロモンを出す、寄生型の厄介な相手だった。
 
 

1.ごっちゃの世界

f:id:yhaniwa:20211208215204j:plain

©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会すぐ死ぬ
吸血デメキン「愚かな同胞よ、下等な人間とつるんでおる。人間は全てこの吸血デメキンの下僕になるとも知らずにな……うぇべべべべべ」
(中略)
ヒナイチ「やめてやれ」

 

この10話は、吸血鬼がいつも以上に日常に溶け込んでいる話だ。1本目「祭り囃子が君を呼ぶ」ではゼンラニウムを始めとした多数の吸血鬼が当たり前のように屋台を構えていたりデメキンの吸血鬼まで登場するし、2本目「平成迷惑な吸血鬼合戦」の吸血虫は寄生型で宿主は睾丸が巨大化したような状態になる。3本目「ドラルクのオールナイト・シンヨコ」に至ってはドラルクはハンターズギルドをラジオの収録現場に見立てる始末で、吸血鬼がいるのは本作の新横浜では当たり前の光景と化している。吸血鬼と人間の生活はもはやごっちゃ・・・・だ。
 

f:id:yhaniwa:20211208215252j:plain

©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会すぐ死ぬ
武々夫「やあロナルドくん偶然だねえ」
ロナルド「アーばーか!お前吸血虫に寄生されてんだよ!そいつが女の子を引き寄せてんだ!」

 

ごっちゃの状態からは、通常考えられない様々なものが生まれるものだ。人間と吸血鬼が一緒に営む祭りは珍妙な屋台だらけだし、強烈なフェロモンを放つ吸血虫に寄生されればモテとはおよそ無縁な者にも魅了された人間が群がってくる。ごっちゃの状態は可能性に満ちている。が、可能性はあって嬉しいものばかりではない。
 
 

2.夢と現の逢魔が時

ごっちゃの中から可能性は生まれる。しかしそれは危険や厄介ごとに巻き込まれる恐れとも無縁ではない。
 

f:id:yhaniwa:20211208215331j:plain

©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会すぐ死ぬ
1本目のお祭りでは、ヒナイチは吸血鬼ともまた違う「魔」とでも呼ぶべきものに魅入られさらわれそうになった。また2本目では、吸血虫によるモテを満喫していた武々夫やヴァミマの店長はそれに去られれば罵詈雑言を投げかけられる痛ましい事態に陥っている。
これらに共通するのは、その関係が一方的なことだろう。「魔」は自分がヒナイチを騙していることを明かしていなかったし、武々夫や店長はモテを自分だけの力によるものと勘違いしていた。これはつまり、劇中で肯定される「ごっちゃ」とは別物だったのだ。
 

f:id:yhaniwa:20211208215358j:plain

©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会すぐ死ぬ
ラルク「これは……なんて強烈な魅了の力!(中略)吸血虫の最大限に高まった魅了の力とジョンの生来の魅力とが共鳴したのか……おお、砂ぁ……」
 
2本目、力を増し手に負えなくなった吸血虫の事件が解決したのは最後の宿主・ジョンのおかげだった。生来愛くるしさにあふれたジョンの前では吸血虫は一方的に力を与奪する存在ではなく。むしろ相互に魅力を高め合っていた。
 

f:id:yhaniwa:20211208215424j:plain

©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会すぐ死ぬ
また1本目、「魔」からもう一つの影によって守られたヒナイチは当初それが夢だったのか現実だったのかはっきり判別できないが、後に気付いたように現実でドラルクが片方靴をなくしていたことはもう一つの影が「魔」から靴を奪われながらもヒナイチを逃してくれたことと合致する。「魔」の正体を含め何が起きたのかは相変わらず分からないが、ヒナイチの見たものがただの幻ではなかったことだけははっきり証明されている。これらはいずれも「ごっちゃ」、それも間違いなく肯定されている側のものだ。
 

f:id:yhaniwa:20211208215514j:plain

©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会すぐ死ぬ
希美「晴れの祭りを汚すのは無粋なことよ。今宵くらい喧嘩はやめて、仲良くしましょう。折角のお祭りよ?人間も吸血鬼も楽しまなきゃね」
 
人と吸血鬼、笑いと感動、バカバカしさと切実さ。本作は色々なものがごっちゃになった存在そのものがお祭りのような作品だが、それらはけして片方がもう片方に寄りかかった関係にはない。人も吸血鬼も本作ではけして一方が暴れ回らず、どちらにも厄介な者やバカバカしい連中が同じようにあふれている。本作で肯定される「ごっちゃ」の状態とは、2つのものが五分とはいかずとも対等の関係にあってこそ成立するものなのだろう。
 

f:id:yhaniwa:20211208215544j:plain

©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会すぐ死ぬ
ラルク「また次回……」
ロナルド「うぉぁぁぁぁーーーーーー!」
ラルク「お会いしましょーーーーっ………」

 

故に3本目、暇つぶしに新横浜の人々で思うまま遊び回ったドラルクは、自分が仕掛けた吸血セロリに錯乱したロナルドに突き落とされて毎度安っぽく、夢みたいに簡単に死ぬことになる。そうでなければバランスは取れないし、コメディとしてオチがつかない。
死んで取ったバランスの先にこそ、お祭りのような夢と現の逢魔時にこそ、本作固有の「ごっちゃ」は存在するのである。
 
 

感想

というわけでアニメ吸死の10話レビューでした。「夢と現の逢魔が時」というのは割と早々に浮かんだのですが、オチとして「バランス」を考えつくのに少々手間取りました。まあ因果応報はコメディの終わりの定番だったりもするし。
1本目でヒナイチが神隠しに会いそうになった場面は吸血鬼すらギャグになる本作でやるからこその怖さがあったし、まだまだ底が知れませんねこの作品。次回も楽しみです。
 

f:id:yhaniwa:20211208215612j:plain

©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会すぐ死ぬ
かわいい(かわいい)
 
 

<いいねやコメント等、反応いただけるととても嬉しいです>