半熟の満月――「白い砂のアクアトープ」23話レビュー&感想

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©projectティンガーラ
逆しまが次のステージを生み出す「白い砂のアクアトープ」。23話、風花はいい感じにできたと半熟の目玉焼きをくくるに振る舞う。二人が今回得たものは、例えるならこの半熟の目玉焼きだ。
 
 

白い砂のアクアトープ 第23話「水族館の未来」

星野から、海洋生物の研究や環境問題に取り組む大型プロジェクトが発表される。以前、岬から環境汚染が原因でたくさんのウミガメが命を落としていることを聞いた風花は、強く心を惹かれる。だが、参加条件がハワイでの2年間の研修と言われ、くくると離れたくない風花は参加するか悩む。一方、飼育部への異動について、星野と面談をするくくる。その場で諏訪の過去を聞いて……?
 

1.ああ、世界よ半熟なれ

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星野「USTDとは!『U 海と S 水棲生物 T とっても D 大好き』!」
 
ティンガーラ館長である星野は今回、新たなビッグプロジェクトを発表する。「USTDアクアトーププロジェクト」――飼育する生き物の研究や未踏の海域の探索、環境問題など海に関する様々なトピックに取り組む夢のある計画だ。そして比嘉はこのUSTDは「ウミやん焼酎アイスとっても大好き」ではないかと推測して空也に即否定されるが、正解はなんと「海と水棲生物とっても大好き」の略であった。
 

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比嘉「『とっても大好き』は合ってました」
ウミやん「はは……」
空也「マジか」

 

比嘉の推測は半分は正解だったわけだが、これがコミカルなのは半分・・正解だからだ。全くの不正解なら「そりゃそうだ」としかならないし、逆に全て正解ならいくらなんでも館長の見識が問われる。半分正解半分外れだからこそコミカルなのであり、それは半熟の目玉焼きが生にも完熟にもないとろとろの美味しさを持っているのと同じことであろう。
 

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つまり、風花が振る舞った半熟の目玉焼きは今回の目標となるべき理想的なバランスを象徴している*1。UTSDのファーストクルー、先進的な思想で経営されているというハワイの水族館で研修する2名に薫と風花が選ばれたのも、極めて堅実な目線で成果を持ち帰ってくるであろう薫と子供達へ夢のような期待をかけている風花の組み合わせでバランスが取れることと無縁ではあるまい。
 
 

2.半熟の満月

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くくる「ごめんね。わたしが心配ばっかりかけて、風花をお姉ちゃんにさせちゃった」
 
半熟の目玉焼きこそが理想的なバランス。そう考えた時、くくると風花の関係は半熟かと言えばいささか疑問だ。くくるはこれまで、何度も何度も風花に助けられてばかりだった。がまがま水族館に立てこもった時も、不慣れな営業の仕事に詰まってしまった時も、無断で仕事を休んで離島に逃げてしまった時も風花に支えられてくくるは立ち直ることができた。くくるが「お姉ちゃんにさせちゃった」「甘えてた」と自分で言うのも無理はない。だが、それは実は一面的なものの見方に過ぎない。
 

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風花「違うよ!くくるが隣にいてくれたから今日までやってこれたの。くくるがいないとダメなのはわたし……」
 
風花は言う。自分が今までやってこれたのはむしろくくるのおかげだと。隣にいてもらわないとダメなのはむしろ自分の方だと。誰かを支えることで自分も元気になるのが風花の性であり、それもまた相手に甘えている点ではくくると何も変わらなかったのだ。
正反対に見える二人は実際は同じだったのであり、ならばくくるが自立を志すだけではそれは半熟の目玉焼きにはならない。だからくくるは自立を飛び越え、今度は自分が風花の"お姉ちゃん"になると告げる。今度は自分が彼女の背中を押す側になろうとする。
 

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くくる「今度はわたしがお姉ちゃんになるよ。お姉ちゃんはここで待ってる、だから安心して行ってきなさい!向こうでいっぱい勉強してきて!」
 
確かに二人の関係はそのまま続けるべき健全なものではなかったのかもしれない。だが人はいつも誰とも健全な関係を築けるほど強くはないし、時にはままごとのような関係が傷ついた心を癒やすこともある。
必要なのはそれに浸かったままでなく、ただ終わらせるのでもなく次へ繋げていくことなのだろう。両親を失ったくくるにとって家代わりであると同時に彼女に限界ももたらしていたがまがまが、閉館となり建物すらなくなっても全て消えてしまったわけではなかったように。
 

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夢か幻か、海岸に迷い込んでいたバンドウイルカは二人を祝福するように夜空を跳ぶ。それを照らす月は欠けることなき満月だ。"半熟の満月"に照らされて、くくると風花は新しくその手を結ぶのである。
 
 

感想

というわけで白い砂のアクアトープの23話レビューでした。テーマ探しでアバンをヒントにするのは僕の常套手段ですが、それにしたって半熟の目玉焼きで何か書けるんだろうか?と思ってたら書けちゃった。仮説を「ウミやん焼酎アイスとっても大好き」で演繹してみた時とか考えてて楽しかったですし、昨日「仕事も育児もどっちもごっこ遊びじゃない」16話を振り返ったところだったのでこの「どっちも」とも繋がりを感じることができました。
 
さて、いよいよ次回は最終回。前回も書きましたが「名残惜しい」んですよね。ラスボスとか最後の難題とかいったものがないので良い意味で最終回らしくなく、これからも色んなことが起きるであろうティンガーラを(いやもうそこにも留まらなくなってるのだが)私達がもう見られなくなるのがただ寂しい。ちょっと来週は忘年会でレビューを書くのが土曜になってしまうと思われるのですが、見届けたいと思います。
 
 

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*1:これはかつてくくるが見失った"波打ち際"と同じものだ