泥棒vsトレジャーハンター!――「ルパン三世 PART6」9話レビュー&感想

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©モンキー・パンチ/TMS・NTV
時を超えた宝を見つけ出す「ルパン三世 PART6」。湊かなえが脚本を務める9話では海賊王ジークの所持していた漆黒のダイヤモンドという魅惑的な財宝を巡る物語と、その意外な正体が描かれる。しかし、今回の本当のお宝は別にある。
 
 

ルパン三世 PART6 第9話「漆黒のダイヤモンド」

ロンドンの地下で開かれた闇オークション。出品されたのは、百年前に大西洋で大暴れし、ブラジルの監獄で処刑された「海賊王ジーク」の秘宝。だがルパンの狙いは、その中にぽつんと紛れた、古びたこけしにあった。会場に乱入する警察。ルパンはそのドサクサで、こけしの中に秘められていた地図を入手する。それは、未発見のジークの宝、「漆黒のダイヤモンド」の在処を示すもので……。
 

1.泥棒vsトレジャーハンター!

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©モンキー・パンチ/TMS・NTV
さくら「あっ、もしかして……盗聴!?」
不二子「それはお互い様じゃないかしら?私としたことがこんなものを仕掛けられるなんて。あの時でしょ?」

 

今回はチェリーというトレジャーハンターが重要人物として登場する。後から分かるようにその正体はジークの愛人だった日本人女性の妹でありまた齢100近い老婦人だったわけだが、彼女の手並みは見事なものだ。漆黒のダイヤモンドのヒントとなるこけし人形をわざとルパンに盗ませ場所の特定に利用しようとしたり、不二子と互いに盗聴器を仕掛け合ったり……もし本人にその気があれば、彼女はルパン達に劣らぬ泥棒として名を馳せていたかもしれない。
 

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©モンキー・パンチ/TMS・NTV
そもそも彼女の職業であるトレジャーハンターとは文字通り財宝発掘を生業とする者の総称であるが、あくまで私的な発掘である以上その調査は学術的な価値の著しく劣ったものとなる。チェリーの場合も発掘した宝は闇オークションに流れるわけだから公にはされず学問には全く寄与しないわけであり、口の悪い言い方をすればこれは歴史からの窃盗行為だ。トレジャーハントは盗掘と紙一重のものであり、つまりこの9話はルパン&不二子vsチェリー、泥棒vsトレジャーハンターという同業者の騙し合いの図式になっていると言える。
 
 

2.漆黒のダイヤモンドにして幻の花

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銭形「おのれルパン!ドローンに胡椒を仕込むとは……ゲホ、ゲホ」
 
9話が泥棒とトレジャーハンターの対決とするなら、その勝敗はどちらが宝を盗んだかで判定するのがもっとも分かりやすい。だが、既に視聴した方はご存知のように漆黒のダイヤモンドの正体は胡椒――かつてはブラックダイヤモンドと呼ばれ珍重された、しかし今となってはありふれたものに過ぎなかった。これを知っていたチェリーは宝を掘ろうともせず、不二子が掘り出したそれも銭形からの逃走中に海に飛散してしまう。こんなもので勝敗を判定するなど馬鹿げているのは言うまでもなく、ここは視点を変えてみることが必要だろう。
今回のお宝はけして胡椒などではない。改めてお宝を探す上で注目したいのが、チェリーのひ孫のさくらの存在である。
 

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ルパン「会いたかったぜ、トレジャーハンター・チェリー」
さくら「わたしが?」
ルパン「あれ?」

 

話の進行だけ見た場合、さくらの存在意義は極めて薄い。曾祖母と違ってトレジャーハンターとしての技術を学んでいるわけではないようだし、チェリーが無力な老婦人を装うにしても別に彼女に車椅子を押させる必要はなかったろう。彼女が物語に不要な存在でない理由はただ一つ、チェリーの姉でありジークの愛人だった"さくら"と生き写しの姿を持っている点にある。
 

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チェリー「75年前のこの日、二人は約束を果たすことができなかった。だから、75年後に私が代わりにやってきたの」
 
既に書いたように、漆黒のダイヤモンドの正体が胡椒と知っていたチェリーは宝箱を掘り出そうとはしなかった。宝が隠された場所で再会したら永遠の愛を誓うつもりだったが果たせなかったジークと姉に代わり二人の持っていたこけしを再会させ、さくらに"さくら"との関わりを明かしただけだった。
 
チェリー「気に入らなかったかい?」
さくら「ううん、好きよ」
チェリー「……なら良かった」

 

事情を明かされたさくらはそれをけして迷惑がりはせず、ただ微笑んだ。"さくら"そっくりの顔で微笑んだ。それはチェリーにとって"さくら"が微笑んだに等しく、故に彼女は彼女の笑顔にジークと姉が再会を果たした姿を幻視する。もはや永遠に会えなくなったはずの愛しき姉の姿を見る。それはどんな金銀財宝を並べたとしても、さながらリオのカーニバルと形容されるジークの宝石群を並べたとしても手に入れることはできない。この笑顔こそはチェリーにとってあらゆる財宝に勝る、75年間追い求めたものだったのだろう。
75年前に失われた美しき黒髪の姉の幸せこそは本物の"漆黒のダイヤモンド"、すなわち今回のお宝であり、チェリーは見事それをハントしてみせたのだ。
 

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不二子「漆黒のダイヤモンドがまさか胡椒だったなんて……まあいいわ、幻の花を見られたから」
 
こうして泥棒とトレジャーハンターの対決はトレジャーハンターの勝利に終わった。だが、こんなお宝はハントはできても盗むのはどだい無理な話であろう。自分にはけして手に入れられない宝、"幻の花"に不二子が敬意を表して、この9話は幕を閉じるのである。
 
 

感想

というわけでルパン三世TV6期9話のレビューでした。いやー、今回も手強かった。いつものように共通点を探そうにも全然とっかかりが見つからなくてですね。胡椒ではなくかつ"幻の花"であり、"漆黒のダイヤモンド"と言えるものってなんだろう?チェリーはもう白髪だからその正体は"漆黒"ではないよね?とウンウン悩み、思いつきで浮かんだお宝の正体を演繹したらハマったのでこれで行こう!と書き進めた次第です。
こうやって見ると、孫に甘えるのが夢だったというチェリーの言葉も姉と離れ離れになった寂しさが感じられますね。傍目にはそうしたウェットさを全く感じさせないのがとても格好いいおばあちゃんでした。
 
さて、次回は再び押井守脚本!また身構えちゃうぞ!
 
 

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