お宝は常軌の外――「ルパン三世 PART6」3話レビュー&感想

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©モンキー・パンチ/TMS・NTV
価値のありかを問い直す「ルパン三世 PART6」。3話では副題通り嘘の冒険が繰り広げられる。以前レビューとしてまとめ損ねたこの3話について、「何がお宝だったのか?」と見つめ直して書いてみたい。
 
 

ルパン三世 PART6 第3話「大陸横断鉄道(嘘)の冒険」

マーキス侯爵は鉄道マニア。ご自慢の品は、リバプールマンチェスター鉄道が催した、伝説的な試乗会の切符。そしてもう一つの自慢は――広大な庭に築き上げた、こだわりの庭園鉄道! ルパン一味は切符を狙って、その庭園で開かれるパーティーに潜り込む。美女に目がない二人の少年・リーとダネイも、不二子を追ってパーティーへ……。線路をドタバタ駆け巡る、インチキだらけの冒険譚!
 

1.肥大化した嘘こそ現実

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©モンキー・パンチ/TMS・NTV
3話放送時、レビューがまとめられないなりに僕は上記のエントリで「嘘の肥大化」を共通点として指摘した。南アフド共和国の首相の訪問と言うけどパレードの人々は金で雇われたエキストラであったり、囲まれたルパンは花火で周囲を混乱させて逃げるが実はスモークと間違えただけだったり……ポニーに乗って繰り広げられるホース・チェイスなどは特にコミカルだが、この回では嘘は現実に匹敵するほど肥大化している。
 

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©モンキー・パンチ/TMS・NTV
現実に匹敵するほど肥大化した嘘。この3話はそれが様々な騒動を起こす話だと言えるが、それは発端である今回のルパン達のターゲット、リヴァプールマンチェスター鉄道が催した試乗会の切符にしてからがそうであろう。英国鉄道第1号の切符と言えば確かに確かに資料的価値は高いだろうが、それ自体はプラチナの延べ板でできているわけでもなく薄い紙切れに過ぎない。紙切れのために鉄道侯爵マーキスの執事モートンは主人を殺したし、不二子もまたギロチンにかけようとするのだから馬鹿げている。馬鹿げているが似たような話は世界中にあるはずで、こうした現実に匹敵するほど肥大化した嘘こそは私達の世界の"現実"でもある。嘘であろうと、そこに既に価値は生じてしまっているのだ。
 
 

2.お宝は常軌の外

現実に匹敵するほど巨大化した嘘の存在こそ現実的で、嘘だろうとそこに既に価値は生じている。この馬鹿馬鹿しくも見えるものがありふれていることを、3話は如実に示している。
 

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クイーン警視「やむを得ん、髪を全部切ろう!」
不二子「いや、坊主なんていやぁ!」

 

例えば鉄道ギロチンにかけられそうになった不二子は脱出のため髪を切られそうになると、坊主なんて嫌と半泣きで抵抗する。髪は女の命に例えられもするとは言え本当に命と天秤にかけるのは理屈としては馬鹿げていて、不二子の価値判断はこの時狂っていると言える。
 

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次元「もうひとつ!二度と俺をおじさんと呼ぶな」
リー・ダネイ「うわぁ、ごめんなさい!」

 

例えば次元は拳銃で列車を止めようとするなど無謀なことをせず跳弾で切り替えスイッチを動かすという冷静な判断をしてのけるが、一方で例え称賛であってもおじさん呼ばわりされることをよしとしない。髭を蓄えた風貌から言ってもおじさん呼ばわりは無茶な話ではないと思うが、彼にとっては判断が狂うくらい重要なことだ。
 

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偽マーキス「東の池に自由の女神、西の池には金門橋……途中の築山をロッキー山脈に見立てたマイ大陸横断鉄道ですよ」
 
そしてそもそもにして、事件の発端であるマーキス侯爵自身も大いに判断の狂った人物だ。5kmも続く庭園をミニサイズの大陸横断鉄道に仕立て上げるなど、鉄オタとしてもずいぶんな道楽であってその辺の人間がやれる話ではない。線路になぞらえて言うなら"常軌"を逸している。
 

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銭形「少々お話を伺いたいですな」
 
これらの例に描かれているように、宝というのは基本的に馬鹿げているし、往々にして実用的な価値を伴わないものだ。どんなに歴史的価値の高い絵画や陶器であろうが、例えプラチナの延べ板でできた物であろうがそれ自体は生活を便利にしてくれたりするわけではない。しかし人はその実用的価値を持たないものに血道を上げ、時には殺人すらする。常軌を逸してしまうのであり、次元の跳弾で常軌から外れた偽大陸横断鉄道が駅舎に突っ込んで壊れたようにその果てで人はたいてい破滅してしまう。
けれど破滅が待っているとしても、いや破滅が待っているからこそ人はそれに夢中になってしまうのかも知れない。それを"お宝"にしてしまうのかもしれない。
 

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ルパン「気の毒に。坊や達、当分顔が洗えねえぜ」
不二子「私のお宝をさらったバチね」

 

物語の最後、不二子を助けた少年リーとダネイはキスを贈られ、ルパンは当分顔を洗う気になれないであろう彼らを気の毒がってみせる。しょせんたかだか唇が触れただけのことであり、それで顔を洗わないなどとは不潔で不合理なことだ。けれど彼らは喜んでその常軌を逸するだろうし、それで破滅するなら望むところだろう。
人に常軌を逸脱させ、破滅へ導くものこそ"お宝"なのである。
 
 

感想

というわけでルパン三世TV6期3話のレビューでした。いやー、書けて良かった!最初に見た10月末は何をテーマにしたら良いのかどうしても掴めず降参したのですが、ふと「今回のお宝は人を狂わすものではないか」と思いついたのを先に書いた覚書と組み合わせてどうにかレビューの体裁に整えることができました。1話では「謎こそミステリーの宝」と解いてその後もゲスト脚本家回を中心に「今週のお宝は何か」で考えていますが、これはやはりPART6を見る上で共通の武器にできそうですね。
 
軽快でコミカルで、そして"お気持ち"って大事だよなと感じた回でした。ロジックだからしょせんたかだか唇の接触とは書きましたが、最高のお宝をゲットしたリーとダネイが実に羨ましいです。ぐぎぎ。
 
 

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