半分ずつの手がかり――「ルパン三世 PART6」11話レビュー&感想

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©モンキー・パンチ/TMS・NTV
闇に光を当てる「ルパン三世 PART6」。一挙放送の前編となる11話では半分に分かれていた絵が遂に揃う。そして、揃うのは絵だけではない。
 
 

ルパン三世 PART6 第11話「真実とワタリガラス

ロンドン市街で、あるデベロッパーが殺された。ホームズは、事件をレイブン絡みであると見て捜査。リリーも、ベイカー街のご近所さんを従えて、情報収集の手助けをする。一方、レイブンの財宝へと近づくために、ルパンもまた推理を展開。事件は、殺されたフォークナー卿へと繋がっていた。フォークナーが守っていた重大な秘密……「絵」が揃えば、それが解明出来るかもしれない。
 

1.同根の対立者

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©モンキー・パンチ/TMS・NTV
ホームズ「私は決めたのだ、ジョン・H・ワトソンを殺した犯人を見つけ出すとね。……たとえどんな手を使っても」

 

11話では事件解決のため精力的に動くホームズが描かれるが、その方法はかなり際どいものだ。レストレードに秘密で絵を持ち出し残り半分に賞金をかけたり、病人を装ってリリーをワトソン殺害の現場付近へ連れて行ったり……前者がレストレードの目を"盗む"行為である点が象徴的だが、もし泥棒に転職しようと思えばホームズは相当な知能犯となるだろう。
 

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©モンキー・パンチ/TMS・NTV
次元「なるほど、臭うな」
ルパン「だろう?で、問題の土地についてちょいと調べてみた」

 

そしてホームズの泥棒じみた行為と合わせて着目したいのはもちろん、彼と対になるルパンの存在である。ルパンは怨恨か強盗にしか見えないディベロッパー殺しにレイブンが絡んでいると指摘するが、その説明は途中でホームズの同様の説明にスイッチする。二人の言動が互換しているのであり、すなわち今回のルパンはホームズと逆に探偵じみていると言える。ルパンの持つ残り半分の絵に賞金をかけたのが絵を取り戻すためでなく足止めのためだと推測、いや推理する場面もこの一例として挙げることができる。探偵と泥棒。対照的なはずの二人はしかし今回、互いの立場を入れ替えられる関係にある。
 
言うまでもないが、アニメ「ルパン三世」は怪盗であるルパン三世を描いた作品だ。だが目のくらむようなお宝を手に入れてウハウハといった終わりになることは少ないし、どちらかと言えばお宝に隠された秘密を解き明かす様に主眼が置かれていることが多い。着想元であるアルセーヌ・ルパンシリーズが冒険小説や推理小説に分類されるように、ルパン(三世)は怪盗であると同時に探偵としての役割を持たされてきた。
またシャーロック・ホームズに代表される探偵の仕事とは、怪盗を始めとした犯人が隠蔽しようとする事件の真相を暴くことにある。そこで必要なのは犯人の思考の高精度シミュレーションであり、この時探偵の思考は極めて犯人に近いものになる。
 

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©モンキー・パンチ/TMS・NTV
創作における探偵と怪盗は、立場こそ正反対ながら求められる技能はむしろ似通っている。コインの裏表というよりは、元は一つのものが分かれていると言った方がいいだろう。――そう、本シリーズ冒頭で半分に分かれた絵のように。
 
 

2.半分ずつの手がかり

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©モンキー・パンチ/TMS・NTV
ホームズ「とぼけるのはよせ、その絵が無価値であることはお前も分かっているはずだ」
 
ブラック・ドローイングに飾られていた、ただの映画のポスターとしか思えぬ絵。レイブンの財宝を探すヒントとされていたその絵は、実は本当に単なる絵でしかなかったことが11話では明かされる。拍子抜けと言えば拍子抜けだが、注目したいのはこの絵が半分に分かれてルパンとホームズ達の手に渡っていた点だ。
 

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©モンキー・パンチ/TMS・NTV
ホームズ「彼女はワトソンを殺した犯人の顔を見ている」
 
これまでを振り返ってみれば分かるが、絵はこのルパン対ホームズの物語でさほど重要視されていたわけではない。どちらかと言えば焦点を合わせられていたのは父ワトソンを殺されたリリーの記憶であったし、それがレイブンの正体に大きく関わっているのはこれまで語られてきた通りだ。そして、彼女が記憶を失った時の状況を知る者はルパンとホームズの2人だけ。
比重を見れば、絵の正体が無価値なものであったのは当然の帰結と言えるだろう。本作におけるもっとも本質的な手がかりは、絵よりも遥か前に半分に分かれてルパンとホームズの手元へ渡っていた。
 

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ルパン「つまり、絵に目を奪われている内は本質が見えてこない」
 
絵には確かに価値は無かった。だが絵に象徴される半分ずつの手がかりが――それを所持していたルパンとホームズが揃ったことには大きな意味がある。ルパンが再びリリーの前に姿を現し、ホームズが覚悟を決めなければブラック・ドローイングの謎が解き明かされることはなかったろう。故に探偵と怪盗は共に謎を解く。立場は正反対でも同根の技能たる推理を、ミステリーのお宝である謎の解明に捧げる。
 

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©モンキー・パンチ/TMS・NTV
ルパン・ホームズ「「不可能を消去して最後に残ったものが」」
ルパン「いかに奇妙なことであっても」
ホームズ「それが真実となる」

 

推理における一つの鉄則をルパンとホームズが述べる様は二人の持つ半分ずつの手がかりが組み合わさった証であり、ブラック・ドローイングに差し込む光は隠されてきた真実を照らす光だ。ならば、そこで起きた爆発は物語がクライマックスを迎える象徴でもあろう。謎の組織レイブンの正体は、いよいよ明かされようとしている。
 
 

感想

というわけでルパン三世TV6期11話のレビューでした。短編のレビューは一期一会の勝負だしそちらに注力すると長編に慣れないし、本当このアニメはレビューを書くのが大変だ。当初は「探偵と怪盗の資質は同一」くらいしか浮かばずパンチが弱いよなあ……と悩みましたが、まあルパンの「絵に目を奪われている内は~」という台詞と二人が同じ名言を述べる場面のテーマ的な意味に合わせたものが書けたかな。
 
さて、1話1話テーマを探るブログですので実はまだ12話を見ておりません。銭形警部同様「分からん!」という状態なのですがいったいどうなってるんでしょう。これから見て明日レビューを考えたいと思います。
 
 

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