お宝は3つ――「ルパン三世 PART6」12話レビュー&感想

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©モンキー・パンチ/TMS・NTV
夜明けへともがく「ルパン三世 PART6」。12話ではついにレイブンの財宝の正体が判明する。だが、ルパン達が手にするのはそれとは異なる3つのお宝だ。
 
 

ルパン三世 PART6 第12話「英国の亡霊」

爆発炎上するフォークナービル。それは殺されたフォークナーに、自身も把握していなかった「真の役割」があったことを意味する。そしてその事実は、レイブンという組織の構造が、あまりにも複雑であることを物語っていた……。白紙に戻ってしまった推理。しかしホームズは、前へ進むために頭脳を働かせる。ルパンもまた、果たすべき目的のため、真実へと歩みを進める――
 

1.第1のお宝

レイブンの財宝の正体、ワトソン殺しの真犯人。この12話でルパンとホームズはミステリーらしい謎の数々を明らかにするが、そんな中でホームズにも解けない謎が一つだけあった。
 

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ホームズ「なぜここまでリリーにこだわる?お前の目的はレイブンの財宝だったはずだ」
 
レイブンの財宝を目的としていたルパンが、なぜリリーを大切にするのか?……少女を助けるルパンという構図自体は「カリオストロの城」でも見られるものだが、リリーは別にかつてルパンを助けてくれた恩人などではない。世界でただ一人の諮問探偵にも解けぬその謎は、謎こそミステリーの宝と提示してきたこのPART6前半において確かに最高の謎だろう。問いに対するルパンの答えは意外な、しかし納得のものであった。
 

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ルパン「頼まれたんだよ、ワトソンに」
 
ルパンがリリーを助け続けたのは、致命傷を負ったワトソンが自分をホームズと見間違えて口にした遺言を叶えるためであった。もちろん、文章としてだけならこれまでも伝える機会はあったかもしれない。だが、ルパンが口にしたところでそれはどれほどの重みを、真実味を持てたろう?嘘だって平気で言うし人だって殺す悪党の言葉には説得力がない。10年前、ルパンは望みもしない遺言を"盗んで"しまった。
 

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ホームズ「お前が私の前に現れたのは……」
 
言葉が説得力を持たない時、人はいかにして信用を勝ち取ろうとするか?もちろん、行動でだ。ルパンは10年間、ワトソンの遺言という宝を大切に守ってきた。ホームズが負傷すれば代わりにリリーを刺客から保護し、前に進むべき時と判断すれば彼女の前に姿を現し記憶の回復を促す。本来遺言を聞き実行すべきホームズの至らない部分をルパンは補い続け、ようやくルパンはホームズからの信用を得ることができた。「なぜここまでリリーにこだわる?」というホームズの質問はルパンが勝ち取った信用の証であり、望まず盗んだ"第1のお宝"を返す機会だったのだ。
 
 

2.第2のお宝

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ルパン「俺のことをお前だと信じて、ワトソンは眠ったんだ」
 
先の段では、ワトソンの遺言はルパンが望まず盗んだ宝であったことに触れた。その返還には10年の月日を要したが、そのために彼がしたのはワトソンに代わってホームズを助けることだった。ホームズが負傷した時の代役も、足踏みした時に背中を押す役割も生きていればワトソンこそが務めていたはずのものだ。この10年、それを代わりに実行したのはルパンだった。遺言を聞いたことでルパンは10年間、諮問探偵助手の座を盗んでいた・・・・・・・・・・・・・・とも言える。
 
天下の大泥棒が世界でただ一人の諮問探偵の助手!なんとも滑稽な話だ。ルパンはこの座を望んで盗んだわけではない。しかし返そうにも元の持ち主は死んでいる。返せないのなら、託すに足りる者を見つけなければならない。
死者となったジョン・H・ワトソンでもなく、本来資格のない泥棒のルパンでもなく、その資格を持つ正当な後継者とは誰か?……言うまでもない。ワトソンの娘にして探偵の素質を持った少女、リリー以外にそれが務まる者などいない。彼女の利発さは当初から示されていたし、11話ではホームズに気づかれず尾行すらしてのけた。資格としては十分だろう。
 

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リリー「ホームズさん、今わたしのことワトソンて……」
 
事件が解決した後の会見で、ホームズはリリーをリリーではなく「ワトソン」と呼ぶ。それは彼がリリーを保護対象としてではなく、頼るべきパートナーとして認めた証だ。ルパンが盗んでしまった諮問探偵助手の座という"第2のお宝"は、こうしてようやくリリーへと託されたのである。
 
 

3.第3のお宝

ワトソンの遺言、諮問探偵の助手の座。ルパンが盗んだお宝はこうしてホームズとリリーに返された。では本シリーズのルパンはただ宝を返すだけのお人好しだったのか?と言えばそんなことはない。彼が手にしたお宝を考える上で注目したいのは、本作の敗者とも言えるフォークナー達の存在だ。
 

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ルパン「ただの番人だろ。ひょっとすると部屋の仕掛けのことすら知らされていなかったかもな」
 
フォークナーが番人を務めていたブラック・ドローイングはレイブンの財宝の手がかりが眠る場所とされていたが、実際は近づく者を始末するデス・トラップが隠されていたに過ぎず、フォークナー自身もそれを知らなかった可能性が劇中では指摘されている。
フォークナーは自分の意志で動いているつもりでレイブンの操り人形でしかなかった。そして、これはエリオットやレストレードにも言えることだ。
 

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レストレード「そんな……俺はワトソンまで殺してしまったのに……!」
 
MI6のエリオットはホームズ達の会話を盗み聞きして彼らを出し抜いたつもりが、実際は濡れ衣を着せるためにおびき寄せられたに過ぎなかった。
レイブンの一員にしてワトソン殺しの真犯人だったレストレードはレイブンの財宝を手にして組織の頂点に立つつもりが、財宝の正体は不発弾で所有できるようなものではなかった。そしてそもそもレイブンは実は90年代以前に崩壊しており、レストレードのような末端の構成員はそれを知らずに無意味に活動を続けていたに過ぎなかった。レイブンとしての活動に嫌気が差して起こした行動が亡霊に踊らされていたに過ぎなかったのだから、彼の立場は滑稽を通り越して悲惨なほどだ。
 

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ルパン「俺はお前のな、そういう人を見下したような態度が大嫌いなんだよ」
 
人が自らの意思で動くことは難しい。現実でもトランピストはもちろんのこと、この国でも情報強者を自認する人間がよく引用していたSNSアカウントが組織的に運営されたアカウントであった疑惑があるし、取り巻きが著名人等に従って対象を攻撃する「犬笛」や「ファンネル」と呼ばれる現象はもはやネットでは日常茶飯事だ。
自分が誰かより高い位置に、あるいは誰かが自分より低い位置に立っていると自惚れた時、人は自分こそが誰かの操り人形に堕ちていることが少なくない。ルパンがアルベールの「悪くない取引」をにべもなく断るのは、それが味方を増やすものであれ自らの意思を侵す結果になると分かっているからなのだろう。
 
誰かの操り人形に、亡霊になることをルパンは拒絶する。しかしこれまで述べたように、彼は10年に渡ってワトソンの代わりを務めてきた。悪意のある言い方をするなら、ワトソンに縛られてきた。もちろんルパンはフォークナー達と違って状況を把握してこの道を選んだわけではあるが、泥棒らしい行動ができているとは言えないだろう。なにせルパンの行動は、諮問探偵にすら解けない難問と化してしまっていたほどだ。
 

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ルパン「やなこった!お前とはもう二度と会いたくねえ」
 
物語が終幕を迎えるにあたって、ホームズは表舞台への復帰を宣言しリリーをワトソンと呼ぶ。おまけに教授と呼ばれる犯罪者の正体がモリアーティであることも判明し、ロンドンはシャーロック・ホームズの原典の世界へ否応なく近づいていく。ならそこにルパンの出番などはない。これからのロンドンでは、彼は晴れてお役御免だ。
この街にもうルパンの居場所はない。だが逆に言えばそれは、原典から外れた動きが許される身になったということだ。短編でも見せた、破天荒にして縦横無尽の活躍を本シリーズ後半の彼は見せてくれることだろう。当然と言えば当然だ。彼は「アルセーヌ・ルパン」ではなく「ルパン三世」なのだから。
 

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不二子が見つけたロンドンの地下通路地図などというお宝にルパンは目もくれない。地図に従って歩かされる道などに価値はないのだ。ルパンはこれからこそ気の向くままに動くことができる。
第1・第2のお宝を返すことで得られた、束縛からの解放。自由こそはルパンが手に入れた、”第3のお宝”だったのである。
 
 

感想

というわけでルパン三世TV6期12話のレビューでした。いやー書き甲斐があったな。自由こそルパンが手にしたお宝なんだ!というひらめきは割と早期に浮かんだのですが、書き始めて見るとそれだけでは説明できない部分が多くてですね。お宝を3つに分けて2回小さな結論を経てからゴールに達するように再構成して書き直すことになりました。
 

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しかしレストレードが真犯人なのは予想通りでしたが、最後の言葉がリリーへの謝罪なのは悲しかったなあ。人を殺せる残酷さと身近な人への愛情は矛盾なく同居するものだし、だから彼は悪魔でもなければけしてただの犠牲者でもない。”レストレード”でありきれなかった彼はとても人間的な人物だったのだと思います。
 
さて、年が明けてからの後半は新展開!前半とはまた違った、どんな顔をPART6は見せてくれるのか?再会を楽しみに待ってます。
 
 

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