二重のプリズン――「ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン」2話レビュー&感想

f:id:yhaniwa:20220115213324j:plain

©荒木飛呂彦&LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社ジョジョの奇妙な冒険THE ANIMATION PROJECT
自由を求める「ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン」。2話ではいよいよ徐倫の牢獄での生活が始まる。だが、彼女が囚われているのは刑務所だけだろうか?
 
 
徐倫の刑務所生活が始まった。しかし、同じ監房の囚人・グェスの常軌を逸した行動によって、徐倫は窮地に追い詰められていく。グェスは徐倫のペンダントによって、不思議な力・スタンド能力が目覚めていたのだ!グェスの能力で身体を小さくされた徐倫は、自らのスタンド「ストーン・フリー」の能力でグェスに立ち向かうが…
 

1.傍に立つシャーロット

f:id:yhaniwa:20220115213340j:plain

©荒木飛呂彦&LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社ジョジョの奇妙な冒険THE ANIMATION PROJECT
シャーロット「でも所長、規則は当然あるんですよね?」
ロッコロッコ「それはそうだよシャーロット!」

 

この2話は、新たに収監される徐倫達へのG.D.st刑務所のガイダンスから始まる。説明するのは所長のロッコロッコと彼のアシスタントのシャーロット――ワニの腕人形だ。刑務所にも関わらず子供向け番組のようでなんとも反応に困る説明だが、面白いのはロッコロッコとシャーロットの関係が本作における特殊能力「スタンド」にもどこか似ている点である。
 

f:id:yhaniwa:20220115213356j:plain

©荒木飛呂彦&LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社ジョジョの奇妙な冒険THE ANIMATION PROJECT
徐倫「耳にピアスしていいですか?」
シャーロット「所長が話してんだッ――――黙ってろッ!!」

 

シャーロットはロッコロッコと全く別の存在のように行動するが、根はもちろん本体の人間にある。徐倫が説明に口を挟んだ時にはシャーロットは突然声を荒げたが、彼女はロッコロッコが平静を保ちながら相手を黙らせるためのスタンドのようなものなのだろう。
ただし、ロッコロッコとシャーロットをスタンドに見立てるなら見落としてはならない点がある。単なる腕人形だからシャーロットは誰の目でも見えるが、スタンドはスタンド使い以外の人間には見えないことだ。
 

f:id:yhaniwa:20220115213410j:plain

©荒木飛呂彦&LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社ジョジョの奇妙な冒険THE ANIMATION PROJECT
看守「朝食は7時からだが、寝てようがそれも個人の自由だ」
 
囚人にも非道は働かないG.D.st刑務所というのが建前でしかないのは前回のエルメェスの受けた仕打ちを見なければ分からないように ロッコロッコとシャーロットが説明するのは誰でも見える表向きのルールに過ぎない。実際は刑務所への金の持ち込みは身の安全のため当然のように必要とされたり食事も賄賂で左右されたり、世界には可視化されないルールが存在する。
 

f:id:yhaniwa:20220115213422j:plain

©荒木飛呂彦&LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社ジョジョの奇妙な冒険THE ANIMATION PROJECT
徐倫「人数分あるんじゃないの?牛乳とかバナナとかさあ!」
女囚パーマ「そこが刑務所の七不思議」

 

ルールとは人を制約する、一面では収監するものだ。徐倫を収監するのはけしてG.D.st刑務所だけではなく、彼女は自分を制約するルールが他にも存在することをこの2話を通して知っていく。
 
 

2.ルールの見えない世界は闇の中

f:id:yhaniwa:20220115213435j:plain

©荒木飛呂彦&LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社ジョジョの奇妙な冒険THE ANIMATION PROJECT
グェス「よーしよしよしよし!とってもとってもとってもキャワイイねえピーちゃん!よくできた!」
 
徐倫が割り当てられた206号監房は独房ではなく、二人部屋だった。彼女は先に収監されていたグェスという囚人と生活を共にすることになるが、このグェスがまたクセが強く徐倫を悩ませることとなる。穏やかに迎えたかと思えば直後にベッドを取られると勘違いしてダンベルで殴りかかるし、飼っているインコには優しいかと思えばその首からは人の腕が覗いてビスケットの欠片を拾い上げたりする。
 

f:id:yhaniwa:20220115213447j:plain

©荒木飛呂彦&LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社ジョジョの奇妙な冒険THE ANIMATION PROJECT
グェス「ヘイッ!!喋るなって言ってんだろッ!!」
 
グェスが手に負えないのは感情の動きが読めないからであり、つまり彼女を制約するルールが見えてこないためだ。ルールが分からない存在に接するのは闇の中を手探りで進むようなものであり、そんなことをすれば当然つまづきも転びもする。徐倫は一度はしおらしい態度をとったグェスに騙されて朝食を奪われてしまったし、捨てたはずがなぜかグェスの手に渡っていたペンダントの中には両親の写真など入っていなかったと嘘をつかれた。挙句の果てに実は彼女も身に着けていたスタンド能力によって体を小さくされ、ネズミの剥製を着せられおもちゃのように扱われる始末。
 

f:id:yhaniwa:20220115213502j:plain

©荒木飛呂彦&LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社ジョジョの奇妙な冒険THE ANIMATION PROJECT
グェス「それを調べるのがお前の仕事だ」
 
グェスに対抗するには、徐倫もまたルールを知らなければならない。ロッコロッコのガイダンスでは説明されるべくもない、人の目には見えないルールを知らなければならない。
 
 

3.二重のプリズン

f:id:yhaniwa:20220115213519j:plain

©荒木飛呂彦&LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社ジョジョの奇妙な冒険THE ANIMATION PROJECT
徐倫「こいつ……人形に見えるけど透けてる。あたしの糸と同じ。他人には見えない、グェスのエネルギーの形!」
 
徐倫が必要なのはルールを知ること。そう考えると、この2話は彼女が「スタンドのルール」を学習するのに最適なレッスンとなっている。スタンド能力は人形のようでも人には見えないこと、距離によって能力に影響が出ること。個々人の精神のエネルギーが形になったものでありダメージは本体にフィードバックされること。名前を付けて扱うべきものであること……
 

f:id:yhaniwa:20220115213533j:plain

©荒木飛呂彦&LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社ジョジョの奇妙な冒険THE ANIMATION PROJECT
グェス「看守さんンン――大変だ!ガンポイントを越えてる奴がいるよ、早く来いよぉ!」
 
常識から外れたスタンドもけして野放図に力を発揮できるわけではなく、その力はルールに制約されている――収監されている。スタンド能力について(そしておそらく、グェスが支配の形でなければ人との関係に安心できないことについても)把握した徐倫が狭い通路に閉じ込められ脱走扱いされる危機に瀕するのは、彼女が自分を囚えるもう一つの牢獄を把握した現れなのである。
 

f:id:yhaniwa:20220115213544j:plain

©荒木飛呂彦&LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社ジョジョの奇妙な冒険THE ANIMATION PROJECT
徐倫「この刑務所で上下関係があると言うのなら従うわ。ただし命令するのはあたし」
 
徐倫は法律に基づく刑務所だけでなくスタンドのルールという牢獄に、もっと言うならジョジョという物語に囚われている。だがその制約を、ルールを知ることができたのは彼女にとって大きな一歩だ。
人はルールを知らずに本当の意味でルールを破ることはできない。無知な人間が力で既存のそれを無効化することもあるが、道理を知らなければいずれまた同じようなルールに囚われてしまう。徐倫はルールを知ったからこそ、糸が集まって立体を形成する自らのスタンドの性質を利用して金網越しにグェスを攻撃できる。それはグェスにだけでなく、自らを縛るもの全てに対する反撃の狼煙である。
 

f:id:yhaniwa:20220115213555j:plain

©荒木飛呂彦&LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社ジョジョの奇妙な冒険THE ANIMATION PROJECT
徐倫「あたしも名前をつけるわ。『ストーン・フリー』……あたしはこの石の海から自由になる」
 
徐倫のスタンド「ストーン・フリー」は彼女をルールから自由にするためにある。刑務所とジョジョの物語、その二重のプリズンこそは徐倫が抜け出すべき”石の海ストーンオーシャン”なのだ。
 
 

感想

というわけでストーンオーシャンの2話レビューでした。アニメで見てもやっぱりグェスのテンションの上がり下がりは激しいな。「でも知らねーよマヌケ」のくだりは知ってても笑っちゃいます。あとインコ役が佐藤元て、あれ全部声真似なのかしらん……
 
物語のガイドラインであり、初めてジョジョを見る人にもスタンドがどんなものか分かる良い導入回だったと思います。さて、次回はまた大きく話の動く回で楽しみ。
 
 

<いいねやコメント等、反応いただけるととても嬉しいです>