消えた宝は母の愛――「ルパン三世 PART6」14話レビュー&感想

f:id:yhaniwa:20220116185557j:plain

©モンキー・パンチ/TMS・NTV
消えた筈の影を追う「ルパン三世 PART6」。14話、ルパンに見舞われたマティアは変わらぬ愛を忘れてはいけないと言う。これは彼女の強さだけでなく、ルパンが追うべきものを示す言葉だ。
 
 

ルパン三世 PART6 第14話「蜃気楼の女たち」

女の名は、メルセデス。強盗グループ『エルヴィラ』を率い、各地を騒がせている女盗賊だ。入院したマティアの無事を確認したルパンは、メルセデスを追ってメキシコへと足を運ぶ。その道中、一味に語られるルパンの過去――メルセデスが口にした「トモエ」という女のこと。そして彼女にまつわる、不可解な「謎」のこと……。ルパンは真実を探るため、メルセデスとの勝負に向かう。
 

1.二重三重の先は得体が知れない

前回オークションハウスに乱入し、ルパンを出し抜いたメルセデスが口にした「保険」という言葉。今回見えてくるのは、それが彼女にとってもルパンにとっても重要な存在であるトモエの言葉の延長線上にあることだ。
 

f:id:yhaniwa:20220116185615j:plain

©モンキー・パンチ/TMS・NTV
トモエ「人を欺く時には必ず、二重三重に策を練っておきなさい」
 
相手に出し抜かれても更に上回れるよう何重にも仕掛けを用意しておけ、というトモエの教えを元にしたのがメルセデスの言う「保険」。
 

f:id:yhaniwa:20220116185630j:plain

©モンキー・パンチ/TMS・NTV
ルパン「五ェ門さんよ。俺の記憶だと昨日もそばだった気がすんだよなあ」
五ェ門「5日前からだ」

 

実際、二重三重の備えがあることは重要だ。そばばかり作る五ェ門にルパンが文句を言うように、どれだけ素晴らしいものもそれ一辺倒ではいずれ通じなくなってしまう。長い歴史を持つ本作をいかに二重三重にするかはスタッフが常に苦心しているところであるし、「ルパンの母」トモエを生母ではなく盗みの師匠とすることでルパン自体のルーツは不明のままとするのもこの一環と言えるだろう。
 

f:id:yhaniwa:20220116185643j:plain

©モンキー・パンチ/TMS・NTV
二重三重の仕掛は底を知れなくする。繊細で可憐なだけに見えたマティアが草木のしぶとさを持っていたように、今回のルパンとメルセデスの対決が相手の底の見抜き合いであるように。そして今回もっとも得体が知れないのは、最後に生存の可能性が浮上するトモエである。
 
 

2.消えた宝は母の愛

f:id:yhaniwa:20220116185653j:plain

©モンキー・パンチ/TMS・NTV
ルパン「ガキの頃、俺がじいさんの名を継ぐ資格があるか確かめるためじいさまが教育係をよこしてな。それがトモエだ」
 
「怪盗ルパン三世」の母にして、アルセーヌ・ルパンの屋敷から財宝を盗み出したただ一人の女性、トモエ。14話ではルパンとの関係が詳細に語られるが、それだけで全貌が見えるほど彼女は甘い存在ではない。血を分けているわけでなく盗みの教育係という意味での母に過ぎず、しかし教え子は自分の子供だとも言い、かと思えば屋敷から財宝を盗み出して追われ崖下に消えた。生存の可能性を含め、彼女は知れば知るほど謎が深まるヴェールに包まれている。そう、彼女の正体は二重三重の策・・・・・・でルパンや私達を欺くように仕掛られているのだ。
 

f:id:yhaniwa:20220116185707j:plain

©モンキー・パンチ/TMS・NTV
使用人「屋敷の宝が盗まれました!犯人はトモエ様です!」
 
今回明らかになったように、ルパンとトモエには血の繋がりはない。だから彼はその関係性を信じられずにいる。「そうやって突然、トモエは俺の前からいなくなっちまった」という述懐は、崖から落ちて消えた時に自分にとっての彼女が何者なのかも消えてしまったことを示している。……だが、重要なのはむしろその繋がりのなさだ。
繰り返しになるが、ルパンとトモエには血の繋がりがない。母と子のように見えたとしてもそれは嘘であり、そう見る者を欺いているに過ぎない。しかしトモエがルパンやメルセデスに叩き込んだのは何より、その欺くための心構えではなかったか?
 

f:id:yhaniwa:20220116185717j:plain

©モンキー・パンチ/TMS・NTV
ルパン「もしも本当に生きてるなら、いつか必ず探し出す。あの日の真実を知るためにな」
 
盗みの教育係という意味であってもトモエを母親と呼ぶルパンは、彼女に欺かれている。だが、そう呼べるのは彼女の本心が掴めないからだ。もしトモエが疑う余地なくルパンに愛情を注いでいたら、彼女を母と呼ぶルパンの姿は途端に感傷的で弱々しいものになってしまう。いわゆる「ルパン三世」からはかけ離れてしまう。ルパンがトモエを曲がりなりにも母と呼ぶのを許されるのは謎に包まれているからであり、それこそは彼女がルパンや私達を欺く二重三重の策なのだ。嘘を真にするものなのだ。そしてそれが何を輝かせるものなのか、本作は既に答えを口にしている。
 

f:id:yhaniwa:20220116185730j:plain

©モンキー・パンチ/TMS・NTV
マティア「忘れちゃいけないのは……"変わらぬ愛"です」
 

f:id:yhaniwa:20220116185740j:plain

©モンキー・パンチ/TMS・NTV
メルセデス「覚えておかないとね。母の愛、ってのはさ」
 
トモエが崖下に消えたその日、ルパンは彼女に感じていた思いが何だったのかを見失ってしまった。しかし本当は、だからこそその思いはその胸の奥深くにしまわれている。ルパンはこの物語できっと、母の愛という消えた宝を盗みに行くのだ。
 
 

感想

というわけでルパン三世TV6期の14話レビューでした。うーん、書き方がちょっと観念的かしらん。5日連続そばの見立てなんかは個人的にも気に入っているのですが、そこから先は自分の中でちょっと強引に通してしまった感もある。メルセデスの早々の退場は意外なような、今後もたくさんのキャラが登場するんだから当然のような。
予告を見ていると次回は再びオムニバスエピソードになるようで、また頭を切り替えて臨みたいと思います。
 
 

<いいねやコメント等、反応いただけるととても嬉しいです>