運命の駒――「平家物語」2話レビュー&感想

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©️「平家物語」製作委員会
逃れ難き「平家物語」。2話では妓王と仏御前の挿話を挟んで人の不自由さが描かれる。不自由さから逃れる術は、はたしてあるのだろうか?
 
 

平家物語 第2話「娑婆の栄華は夢のゆめ」

資盛が天皇の摂政に無礼を働いて制裁を受け、それに清盛が報復したことで、平家に対する批判が噴出する。
重盛は資盛を伊勢に謹慎させ、自身も職を辞することで少しでも批判を治めようとするが、それがおもしろくない清盛。
そんな中、徳子が後白河法皇の息子・高倉天皇に入内することが決まる。

公式サイトあらすじより)

 
 

1.駒の身を語り直す

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©️「平家物語」製作委員会
徳子「まあ、父上は私達を自分の駒としか思っていないのよ。私達だけではないけれど」
 
この2話では、二人の人間が期せずして繰り返す言葉がある。「駒」だ。清盛の娘徳子は年端も行かぬ妹が政略結婚に利用された経緯を話し、また白拍子の妓王は清盛からの寵愛と冷遇に振り回される自分を振り返り、自分達は清盛にとって駒のように扱われていると嘆く。人の身はもちろんその人間のものだが、力あるものはそれをしばしば己の所有物のように書き換えてしまう。語り直してしまう。権力者とは人の尊厳の「別なる語り手」である。
 

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©️「平家物語」製作委員会
妓王「恨めしかった。良い時ばかり相手され、興味が移ればそれに従う。まるで清盛様の駒みたいだったわ。でも、これからは穏やかに暮らせるわね」
 
別なる語り手から自由になるにはどうすればいいか?妓王はこの苦しみに対し、出家という答えを出す。己を白拍子から尼僧として「語り直す」ことで、彼女は清盛の駒であることから逃れられる。自分に代わり清盛から寵愛を受けていた同業の仏御前も出家し、互いに僧形となった二人はしがらみを乗り越え共に穏やかに暮らす。平家と後白河法皇の政争の間に挿し込まれた妓王の話は、大雑把に言えばこのように解釈できる。
 

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©️「平家物語」製作委員会
びわ「いつか、というのはいい言葉だな。明日、明後日、先のことが少し楽しみになるの」
 
語り直すことで、人は尊厳を取り戻すことができる。未来を見ることのできるびわが恐れる"先"も、「いつか」や「また今度」に語り直せば暗い気持ちばかりにはならない。……だが、これだけで本当に自由は勝ち得ているのだろうか。
 
 

2.運命の駒

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©️「平家物語」製作委員会
重盛「わたくしは父ではなく、法皇さま憲仁さまにお仕えする所存です」
 
「駒」はけして徳子や妓王だけではない。筆頭として挙げられるのは清盛の長男にして彼の振る舞いに心を痛める重盛だ。清盛が報復を指示した殿下乗合事件に対し、彼は騒動の発端となった息子資盛を謹慎、摂政基房に狼藉を働いた者を解雇、自らも権大納言を辞任する。後白河法皇が言うように重盛は律儀で、事件に対する平家の意思を語り直している。だが、それは彼を駒の役割から解放してはいない。
 

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©️「平家物語」製作委員会
後白河法皇「思うようにならぬのが双六の賽の目、鴨川の水、山法師とはよく言ったものよ。さあて、平家はどうなるかの」
 
重盛は自分は父ではなく法皇天皇に仕えると言う。それは自分の意思を告げているのではあるが、法皇天皇の駒になると見ることもできる。実際、後白河法皇の妻・滋子が期待するのは彼によって平家が自分達の駒となってくれることだ。一方で後白河法皇は、清盛の手綱を握る時子の子ではない重盛は立場が弱く、結局は彼も清盛の駒にならざるを得ないのではないか――語り直されるのではないかと懸念している。
 
人が駒の立場から逃れるのは簡単なことではない。重盛にしても資盛や配下を自分の駒にしているし、また言葉の上なら平家だってかたつむりに語り直して駒にすることはできるのだ。
 

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©️「平家物語」製作委員会
徳子「ありがとう、心配してくれているのね。でも私は大丈夫、これからだって会えなくなるわけじゃない。また今度……ね」
 
駒から逃れるのがいかに困難か。その壁の高さは最後、絶望の渦となってびわに襲いかかる。未来を見通せる彼女には、天皇家に輿入れする徳子が海に飲まれんとする過酷な将来が見えている。政略結婚とは言え華やかで晴れやかな入内が処刑台に向かうようなものだとびわの中では「語り直されて」いるわけだが、それを知ったところで何ができるわけではない。徳子が「また今度」と語り直したところでそれは力を持たない。
 

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©️「平家物語」製作委員会
びわ「覚えておけ!一寸先は闇ってな!」
 
びわは先が怖いと言う。重盛は闇が怖いと言う。
賽の目が分からぬように、一寸"先"の"闇"は人には見えない。そして物語が過去を語り直す時、そこに現れる人はみな運命の駒である。
それでも自由になる道は、あるのだろうか。
 
 

感想

というわけでアニメ平家物語の2話レビューでした。ううん、消耗に回復が追いついてないな……ぼんやり結論は浮かんでいましたが、理路の整理にちょっと手間取りました。
 
千葉繁の演じる後白河法皇がいいですね!抜け目ないだけじゃなく滑稽さもあって。業績にロマンの香り漂う清盛や頼朝に比べタヌキぶりばかり印象に残る人ですが、見てて楽しい。あと前回からそうなんですが資盛とびわの関係が好きですね。別れ際でもツンとしようとする資盛も、びわの怒りは資盛が清盛の分まで咎を負う羽目になったのも一因なんじゃないかとか、君らほんと喧嘩するほど仲がいい。
さてさて、テーマ的にはジョジョ5部を思い出すところがありますが、本作がどういう結論を持ってくるか楽しみにしたいと思います。
 
 

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