ガンマンと聖女の空――「ルパン三世 PART6」15話レビュー&感想

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©モンキー・パンチ/TMS・NTV
涙雨に別れを告げる「ルパン三世 PART6」。15話では次元の去りゆくロマンスが描かれる。ハードボイルド・ガンマンに思い出の爪痕を残す女は、けして一筋縄で捕えられるような相手ではない。
 
 

ルパン三世 PART6 第15話「祝福の鐘に響けよ、銃声」

フランスの名門貴族・フェルナン伯爵の結婚。ルパンは、結婚式で花嫁に贈られるという伝統の宝石「マルセイユの涙」に狙いをつける。しかし花嫁の姿を見た次元には、いつもと違う表情が浮かんでいた。伯爵の結婚相手は、貴族の出身ではない一介の町医者・ミレーヌ。聖女のような優しさを持った彼女は、次元にとっても忘れられない存在で……。
 

1.非の打ち所がないという嘘っぽさ

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©モンキー・パンチ/TMS・NTV
フェルナン「幸せ過ぎて怖いくらいですよ。僕にとって彼女は最高の女神ですから」
 
「女」をキーワードにオムニバスエピソードで構成されるPART6 第2クール。今回の舞台は名門貴族の結婚を巡る騒動だが、特徴的なのは絵に描いたような登場人物や要素の多さだろう。優しい貴族の青年フェルナン伯爵と一介の町医者ミレーヌの身分差を越えた結婚はシンデレラ・ストーリーに類するし、営利誘拐のプロフェッショナルと称されミレーヌを狙う敵役にはジャッカルというあだ名じみた名前がある。またフェルナン伯爵の家には代々花嫁に贈る「マルセイユの涙」なる特別な宝石が秘蔵されている。アダルトな雰囲気で視聴者を楽しませるルパン三世シリーズだが、この15話の設定はどこかおとぎ話のようですらある。
 

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©モンキー・パンチ/TMS・NTV
ルパン「まあ俺的にはあっちの宝石の方が好みなんだがな。ぐふふ、いい女……」
 
絵に描いたような、おとぎ話のような存在の最たるは今回のヒロイン・ミレーヌであり、婚約発表パーティや次元の回想で描かれる彼女は聖女と呼ぶにふさわしいものだ。両親が満足な治療を受けられず死んだ過去をバネに貧しい人のために医者となり、命の危機を迎えた人なら誰であっても救いの手を差し伸べる。およそ非の打ち所の見つからない完璧な人間――100点満点のその美しさにはしかし、どこか歯の浮くような嘘っぽさがある。
 
 

2.ガンマンと聖女の空

架空の人間がしばしば現実味を失うのは、それが人間として出来過ぎているからだ。優しく紳士的な青年貴族、慈愛に満ちた女医、動物の名前を冠する外道の犯罪者……役柄にあまりに忠実に見える登場人物は面白みに欠ける。しかし物語は後半、彼らからそのヴェールを剥ぎ取っていく。
 

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フェルナン「彼女はとても強い人です、自分の力で道を切り開いてきた。それに比べて僕は、与えられたものの中で生きてきたに過ぎません」
 
例えばフェルナンは結婚式の直前になって、全てを親から受け継いだだけの自分はミレーヌに相応しい人間なのか思い悩む。ミレーヌの周囲の貧しい人間にも嫌な目を向けなかった彼はしかし、けして完璧な王子様ではなかった。
 

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ジャッカル「セド……次元大介、貴様にあの女の血を嘗めさせてやる」
 
例えばジャッカルは、弟のセドを殺された恨みから誘拐ではなく次元への復讐が目的となりミレーヌを殺そうとした。身代金をせしめた上に人質を殺す血も涙もない外道にも、親族への愛情は確かにあった。
 

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©モンキー・パンチ/TMS・NTV
ミレーヌ「あなたの目が"生きたい"って言ってるように見えたの、私には」
 
絵に描いたような人間が、いや絵に描いたに過ぎない漫画やアニメのキャラクターがふとそこから逸脱した時、私達はそこになんとも言えない人間味を感じる。彼らの演じる役割にある種の敬意を抱くからこそ、それに縛られぬ瞬間に安心を覚える。
人とキャラクターの関係は不思議なもので、役割が強固であればあるほどそれに匹敵する逸脱が必要とされるものだ。そしてそれは、同じく強固な役割を持つ者を相手にしなければ引き受けられない。次元の持つ「ハードボイルド・ガンマン」の役割に匹敵できる強固な役割、それこそはかつて彼を助け恋に落ちたミレーヌのまとった「聖女」の役割であった。
 

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©モンキー・パンチ/TMS・NTV
聖職者に化けてミレーヌを殺そうとしたジャッカルを、祝福の花火の音に紛れて次元が撃つ。キザなほどよくできた決着の後、ルパンのもとを訪れたのはミレーヌだった。ルパンが彼女の結婚に目をつけたのはマルセイユの涙の実物画像がネットに上がったからだったが、それは次元にもう一度会いたいばかりにミレーヌが仕組んだものだったのだ。
 

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©モンキー・パンチ/TMS・NTV
ルパン「あんた、今でも次元を……」
 
かつて次元を救い彼と恋に落ちたミレーヌは、今もまだ彼を愛していた。かくて非の打ち所のないはずの聖女は、夫とする男性を選びながら別の男も忘れられていなかったシミを顕にする。だがそれはけして彼女を貶めない。好青年にも悩みがあったように、外道にも親愛があったように、ハードボイルド・ガンマンにもロマンスがあったように聖女にも不実というシミはある。むしろ逸脱のシミを胸に抱えてこそ、彼らはその役割をいっそう輝かせることができる。
 

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次元「俺に涙は似合わない」
 
ミレーヌは報酬としてルパンにマルセイユの涙を託し、受け取った次元は惜しげもなく海へと投げ捨てる。それは二人が出会った雨の日の象徴であり、役割から逸脱した思い出であり、表に出すようなものではないからだ。
雨のシミを海に隠して、ハードボイルド・ガンマンと聖女の空は青く晴れるのである。
 
 

感想

というわけでルパン三世TV6期15話レビューでした。作品の抱えるキザっぽさを最大限に出してひっくり返し、更にもう一回ひっくり返す。そんな感じのお話でしょうか。上手いこと掌の上で転がされた気がします。なるほど、テーマが変わってもオムニバスなのは変わらないのね。
次回は五ェ門が主役のエピソードになるようで、それだけでまた他とは違った面白さがありそう。期待してます。
 
 

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