デザイナーは現実泥棒――「ルパン三世 PART6」16話レビュー&感想

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©モンキー・パンチ/TMS・NTV
付かず離れず「ルパン三世 PART6」。16話は五ェ門がファッションショーに出る異色の話だ。今回のゲスト、ギャビーはデザイナーであり一流の"泥棒"である。
 
 

ルパン三世 PART6 第16話「サムライ・コレクション」

独創的なセンスで世界中を熱狂させるカリスマデザイナー・ギャビー。5年ぶりとなる新作ファッションショーで、なんと五ェ門がミューズに選ばれた!? 剣士としての飢えた目が琴線に触れたのだというギャビー。ファッションの世界でも武士道を貫く五ェ門は、慣れないモデル修行にも真剣に向き合っていき……? サムライとデザイナー。二人の道が、今交差する。
 

1.現実にがんじがらめ

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©モンキー・パンチ/TMS・NTV
「女」をキーワードに展開するPART6第2クール、この16話ではギャビーというファッションデザイナーの女性が登場する。若くしてカリスマデザイナーと崇められ、5年ぶりにファッションショーを開くと報道されれば皆大盛りあがり。しかし脚光を浴び続けながらも内心、彼女は不満だらけだ。
 

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ギャビー「(ショーの会場について)こんな手垢でベッタリなとこ御免だ」
 

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ギャビー「(服をめちゃくちゃにして)どうせ!こうして!こうしたって!評価されるんだろ!」

 

ギャビーは定番の豪華な会場でファッションショーを開くことを拒み、また自分としては平凡な出来にしか思えない服が絶賛されるであろうことに絶望している。これらは奇人のワガママなどではない。彼女はありきたりなショーや褒め言葉と言った「見え透いた現実」にウンザリしているのだ。ファッションショーのミューズ(モデル)に対するギャビーの指導は「空飛ぶ象のように」「灼熱のマグマを地球の裏側まで解き放て」など抽象的で不可思議だが、これは彼女が見え透いていない、現実離れした現実の実現を目指しているからなのだろう。
 

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ギャビー「自分の心を自由にするために服を作ってきたつもりが、いつの間にかがんじがらめだ。自分がどうしたいのか、ここ何年も見えずにいる」
 
服をデザインすることはかつて、ギャビーの心を現実から解放してくれる行為だった。しかし栄光が伴ってきた責務は彼女を縛り、現実でがんじがらめにする。どこに行けば現実離れした現実を取り戻せるのか?おそらくそれを求めて訪れたのであろう北極でギャビーが出会ったのが"サムライ"石川五ェ門であった。
 
 

2.現実離れを現実に変える男、五ェ門

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ギャビーが北極で出会った男、石川五ェ門ルパン三世のメイン・キャラクターの中でも際立って非現実的な人物だ。常に着物1枚、愛刀である斬鉄剣を肌身離さぬ姿はもはや地球上のほぼどこでも浮いているし、その思考は現世的な欲から離れ常に修行の一念で占められている。ダイオウイカを真っ二つにしてブラジルに現れた9話に続き、今回も北極で修行中とその現実離れした様子は留まるところを知らない。しかしだからと言って彼はけして、劇中で浮いた存在ではない。
 

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五ェ門にはやりたい放題なほどの現実離れしたありようと、そして同時に野暮なツッコミをさせない説得力がある。彼がどこに行っても薄着だろうが、刀1本で何を斬ろうが作品世界のリアリティは壊れない。五ェ門はギャビーの求める現実離れした現実を体現した存在であり、そのミューズに選ばれたのは奇妙なようでむしろ必然だと言える。
 

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五ェ門「それがしにモデルを依頼したこと感謝いたす。良い修行になっている」
 
実際五ェ門は、ミューズとしての練習の日々でもいくつも現実離れしたことをやってのけている。ギャビーに1日1,000回ウォーキング練習しろと言われれば本当にやってのけるし、倒れるほど続けた結果ウォーキング練習を体捌きや反応速度の向上に繋げてしまう。そんな彼だからこそギャビーは心を開くし、見え透いた現実に囚われた自分の現状を打ち明けもする。
 

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五ェ門「これよりそれがしが歩むのは武士道ではなくランウェイだ。しかと見届けよ」
 
今回五ェ門の目的は、北極で誤って死にかけた自分を助けてくれたギャビーへの恩返しにある。どうすれば彼女に報いることができるのか?……決まっている。それは五ェ門が自身ではなくギャビーのフィールドで現実離れした現実を見せることだ。不似合いなはずのサムライがファッションショーで見事ミューズの役割を果たすことこそ、彼のなすべき恩返しなのである。
 
 

3.デザイナーは現実泥棒

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ルパン「あ!もしかしてお前、例のカリスマデザイナーちゃんにお前惚れちゃったりなんかしちゃってお前、ワン!」
五ェ門「下世話なことを。お主と一緒にするニャ!」

 

かくて開かれたファッションショー、ギャビーの要望で古城を会場としたそれに観客は大いに沸くが、その実情は相当に複雑だ。ミューズの中には不二子のためにギャビーの服を盗もうとしたルパンが潜入しており、それに気付いた五ェ門とのやりとりは当初の予定から逸脱していく。またそれに刺激を受けたギャビーも演出も服もショーの真っ只中で変更を加え、彼女のビジネスパートナーのラガーフェルドはルパンが大仕掛けで服を盗もうとしてももはや演出なのかどうか判別できない。はっきり言ってメチャクチャだ。……しかし、その混沌を見てギャビーは嬉しそうにこう言う。「メチャクチャでいい」と。
 

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ギャビー「石川、受け取れ!」
五ェ門「かたじけない!」

 

服を盗もうとするルパンと止めようとする五ェ門のドタバタやギャビーの演出変更など、当初の予定から大幅な変化を加えられメチャクチャになるファッションショー。だがここでメチャクチャになっているものはショーそのものではない。それは台本とアドリブ、そして見え透いた現実と非現実の境界線だ。
現実には存在しない飛行マシンで服を盗もうとするルパンとそれを抑える五ェ門の綱引きの間で境界線は揺れに揺れ、しかしどちらにも偏りきらない。そしてギャビーが渡した斬鉄剣で五ェ門が飛行マシンを切れば、トラブルとアドリブに満ちた一連の出来事は全て常識外れのファッション"ショー"の範疇に収まる。現実離れした、しかし確かに存在する現実に収まる。
 

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©モンキー・パンチ/TMS・NTV
ギャビー「これだ……これだ、これだーーっ!」
 
ギャビーは、服を作るのは自分の心を自由にするためだと言った。人は本当の意味で現実から自由になることはできない。しかし例えばディズニーランドが夢の国と呼ばれるように、現実離れした現実は時に人に現実を忘れさせてくれる。いや、盗んでしまう。大盛況の内に終わったギャビーのファッションショーは見事、人々から現実を盗み出していた。
 

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ラガーフェルド「また一緒に、世界を驚かそう!」
ギャビー「ああ!」

 

ギャビーは今後も革新的な服を作り、それを見た人を驚かせ続けるだろう。現実離れした服を実現し続ける限り、ギャビーは現実という宝を盗む怪盗なのである。

 
 

感想

というわけでルパン三世TV6期16話のレビューでした。いやー、エキセントリックだったな!ダンディズムあふれる話も好きですが、こういう内容でもできるのがルパン三世の懐の広さだと思います。キタエリ演じるギャビーも「かわいい」に収まらない魅力があって素敵なゲストで。「私の心は燃えている」にルパンが反応しつつも何もしなかったのは今後の伏線なのかどうなのか。
愉快痛快、一視聴者としても現実を盗んでもらった素敵な回でした。次回も楽しみに待ちたいと思います。
 
 

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