デブリなき評価――「プラネテス」4話レビュー&感想

真価を査定する「プラネテス」。4話ではテクノーラ社のドルフ事業部長がデブリ回収の報酬と費用の難しさを語る。今回は「評価」を巡るお話だ。
 
 

プラネテス 第4話「仕事として」

ハチマキたちのデブリ回収を見学に、連合議長の息子がやって来る。高飛車な彼に対し、部外者は禁止だとつっぱねるハチマキだが、議長の息子に気を使う上司たちに無理やり受け入れさせられてしまう。ToyBoxに乗っても傍若無人な行動をとる議長の息子。さらに彼のある一言に、ハチマキはついに我慢の限界に。
 

1.割に合わない仕事

ドルフ「知っての通り、デブリ回収の費用は連合の定める環境点数に応じて支払われる。だが所詮は官僚の数字、必ずしも費用に見合う数字は付いていない」
 
ドルフ事業部長は語る。デブリ回収の費用は連合の定める環境点数に応じて支払われるが、この数字は実際の費用に見合うとは限らない……と。デブリ回収部門がどこも稼げないのは、その業務と評価が一致しないためなのだ。
黒字化のためにドルフが採った方策は、環境点数の高いデブリを回してもらうため連合に恩を売ること。その接待の対象としてやってきたのが連合議長の息子、コリン・クリフォードであった。
 
コリン「こないだ宇宙遊泳やった時に置き忘れちゃってさあ」
ハチマキ「置き忘れってインストラクターは?」
コリン「君みたいに下品だったから先に船に戻しちゃった。でもホント無責任なヤツだよね、こっちは素人なんだから忘れ物ぐらいするさ」

 

父の権力をかさに来て横柄に振る舞うコリンの態度は、ほとんどその全てが人を苛立たせるものだ。デブリ課の仕事部屋に勝手に入り我が物顔、書類手続を無視してのデブリ回収船への搭乗、しかもそれは自分が半ば勝手にやった宇宙遊泳で忘れたカメラをこっそり回収するため……傍若無人な振る舞いは枚挙にいとまがない。
 
コリン「あったま悪いなあ。だから君たちなんかに頼んでこっそり拾ってきてもらうんだろう?」
 
ハチマキが怒りっぱなしであるように、礼儀も法律も守らないコリンのワガママは本来許されるものではない。連合の議長の息子だからという理由でそれが許されるのは評価・・として正しくない。
 
 

2.評価の目

正当な評価ができるかどうかがいかに重要か。このことを4話は、コリンだけでなくタナベやハチマキも交えて描いている。
 
ハチマキ「その新入りってのいいかげんやめてください、ここに来てからもう1ヶ月経つんですよ?」
 
例えばタナベは配属から1ヶ月経っても新入りとして呼ばれる(評価される)のをもどかしく感じている。しかしハチマキからすれば、フェイスパネルに無駄に大量の情報を出してしまう彼女は未だデブリ屋として必要なものと不要なものの判断ができていない。情報の評価ができていない彼女に、名前で呼ぶだけの価値を認めていないのだ。
 
フィー「あれはデブリじゃないの?例え誰が、そしてどんな理由で残したものだとしてもデブリが危険なことに変わりはないわ。そして、誰かが回収しなければならないことも」
 
しかしタナベをいまだ新入り呼ばわりするハチマキも、常に正しい評価ができているかと言われれば怪しいものだ。私物のカメラを通信衛星に付けっぱなしにしていたコリンにハチマキが激怒するのはボルトサイズのデブリでも宇宙船を壊しかねない恐れがあるからだが、彼が身勝手に腹を立てたからといってデブリを回収しなければそれこそ自分が懸念した事故が起きかねない。彼の上司フィーはデブリは誰がどんな理由で残したものであっても誰かが回収しなければならないとハチマキを諭すが、それはデブリ課ならデブリの評価を見誤るなという指導なのだと言えるだろう。
 
クレア「ドルフ事業部長はコネや学歴に縛られない人よ。結果を出せば彼は評価してくれる」
 
正当な評価というのは難しく、そして得難い。例えば今回の話ではハチマキと管制課のクレアは過去に恋人だったことが示唆されるが、既に終わったはずの関係を二人はまだきちんと評価できずにいる。またクレアは本来コリンのような親の七光りが大嫌いなのにも関わらず彼に積極的に便宜を図るが、これは上司であるドルフがコネや学歴に縛られない人――能力を正当に評価してくれる人だと考えていることに起因する。
 
ハチマキ「だからさあ、お前はなんでも出し過ぎなんだよ!もっとシンプルにしとけって言ったろ?」
 
フェイスパネルに過剰に表示される情報が視界を遮るように、私達が人や物事を見る目にはともすると余計な情報が付加されがちだ。ならば正当な評価をするためにはそれらを取り除かなければならない。"デブリ"を除去しなければならない。
 
 

3.デブリなき評価

コリン「な、なんで君が殴っちゃうわけ?せっかくこいつをクビにしてやろうと……」
タナベ「なにわけわかんないこと言ってんですか!」

 

カメラをハチマキ達に回収させ帰還したコリンは、宇宙ステーションに帰還しても相変わらず王様のような態度を崩さない。遊びに来た友人と再び無茶な遊びをしようと持ちかけ、またデブリを出したらデブリ屋に回収させればいいと全く反省の色を見せない。腹に据えかけたハチマキが殴りかかろうとすれば、デブリ屋なんて親に言えない恥ずかしい仕事であるとか宇宙のゴミみたいなものだと嘲りすらする。
堪忍袋の緒が切れたハチマキはいよいよ拳を振り上げるが――コリンの顔面に拳を叩き込んだのはなんと、ハチマキではなくタナベだった。
 
タナベ「デブリ屋は最高にかっこいいです!宇宙を安全にするんです、人の命を守ってるんです。縁の下の力持ちなんですよ!?」
 
戸惑うコリンにタナベは言う。デブリ屋は最高にかっこいいと。宇宙を安全にして人の命を守る縁の下の力持ちなのだと。接待の相手をぶん殴るという、社会人としてはもってのほかの筈のこの行動が視聴者にとって胸のすくものなのはなぜか?それはこれが"デブリなき評価"だからだ。
 
デブリ屋は確かに連合の議長に比べれば遥かにちっぽけな力しかない。報酬も苦労に見合わない。けれどそんなものは本来、仕事の価値とは関係ないはずだ。タナベは権力に屈することなく、世界を支えるその職務に就く者の尊さを讃えてみせた。デブリを除去し、正当に評価してみせたのだ。
 
ハチマキ「一般ブロックの飯はちょっと高いけど美味いんだよ。まだ行ったことないだろ、タナベはよ?」
 
きれいに着飾っていたつもりでデブリを身にまとっていただけのコリンはかくて去り、タナベはハチマキ達から食事に誘われる。普段は行かない一般ブロックで、ちょっと贅沢にやろうと誘われる。その時ハチマキはもう、彼女を新入りとは呼ばない。
 
タナベ「タナベって……はい!」
 
ようやく呼ばれる"タナベ"の名は、デブリ屋として立派に仕事を果たした彼女が受ける"正当な評価"なのである。
 
 

感想

というわけでプラネテスの4話レビューでした。昨日はちょっと気合い入れてこの4話を5回見てですね、「感情のデブリ除去」みたいな感じで書けそうだな……という腹づもりでいたのですが、今日仕事が終わった後2回見たら全然別の結論になってました。やはり僕のレビューを書く上でアバンは大事。
今回描かれたような仕事に対する評価の問題は19年全然変わらず……というよりコロナ禍も合わせて一層増しているように思いますが、社会というものがある限りずっと解決を試み続けなければいけないことなのだと思います。
 
「I copyです!」とか「ともかくソフトに、ね、ね?」とか今週もタナベが聞いてて耳がとろけそうな勢いでかわいい。毎回かわいい言い続けるんじゃなかろうか僕……
 
 

<いいねやコメント等、反応いただけるととても嬉しいです>