本筋か脇道か――「異世界美少女受肉おじさんと」5話レビュー&感想

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© 池澤真・津留崎優・Cygames / ファ美肉製作委員会
脱線上等「異世界美少女受肉おじさんと」。5話ではついに橘橘が倒すべき敵が姿を現し始める。だが、それは本当にこの作品の本筋だろうか?
 
 

異世界美少女受肉おじさんと 第5話「ファ美肉おじさんと動く鎧」

橘たちと同じく日本から転生してきた高校生シュバルツは、女神によって召喚された本物の勇者の一人であることを証明するため、メルクス領近くで行商を襲うリビングアーマーの討伐依頼を受けることに。
 
マジックアイテムばかりを狙うリビングアーマーはシュバルツの聖剣グラムや、橘のティアラを取り込もうとするが……!

公式サイトあらすじより)

 

1.本筋から脇道へ

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ヴィズド「我が名は絶腕のヴィズド。魔王軍幹部が一人である!」
 
前回「RPGのお遣いクエスト」と称されたように、5話の戦いの構図は定番のものだ。街道で人々を襲うモンスターの退治、正体不明のリビングアーマー、その正体がなんと魔王軍の幹部――抽出したこれらの要素はいずれも異世界ファンタジーならおなじみのものばかり。こうした展開からすれば、本作はいよいよそういったジャンルの王道を歩み始めたと言えるだろう。……それらがあまり顧みられない点を除けば。
 
 

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橘「まさかお兄さんがお姉さんだったなんて!今まで男だと思ってた、ごめん」
 
例えばリビングアーマーの討伐隊壊滅の話で注目されるのはその強さより討伐隊が全裸になっていたという部分だったし、敵が魔王軍幹部"絶腕のヴィズド"なのを明かしても橘が気にするのはいよいよ魔王軍が現れたことより自警団のルシウスが女だった事実の方。強い魔力を求めてヴィズドが狙うティアラを捨てようとした橘が翻意するのはそれが公務員の年収3年分に相当すると知ったからなことなども含め、今回の話は王道を、いや本筋を歩んでいるようでズレている。脇道へ逸れている。
 
 

2.本筋を凌駕する脇道

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神宮寺「いいから!お前はそれでも着て向こうに座っててくれ!耐えられん、俺も頭がどうにかなりそうだ……」
 
脇道へ逸れるのは通常、良くないこととされる。不要なはずの手間や時間を食うのだから当然だろう。マンガやアニメで「○○すればすぐ終わるのでは?」とツッコミを入れた経験は多くの人があるだろうし、ゲームの攻略情報でも経験値や資金を効率よく稼ぐ方法は特に注目を集める。これらはみな脇道への疑問や敬遠だ。
 

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最短距離を進めるに越したことはなく、だから文明の発展には交通の整備が欠かせない。今回の戦いの舞台となる"街道"はまさにそのために整備されるものだし、そこをリビングアーマーに襲撃されては迅速かつ安全な輸送に支障をきたしてしまう。
余計なものは脇へ置くべきだ。特に目の前にあっては戦いに集中できないようなものは。半裸にされたルシウスに服をかけてあげた橘は上着を着て端っこに座っているよう言われるが、これはその薄着姿が神宮寺の思考をかき乱ししてしまうのを避けるため「脇」へ行けと言われるに等しい。これで神宮寺は余計なことを考えず戦いに集中できる……はずがそうはならなかった。
 

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神宮寺(ちゃんと指示した通り着ているのだが、この橘はこれで……なんというか落ち着かないというか……ふわふわするというか……この気持は一体!?)
 
露出を隠すために上着を着せたはずが、それを見た神宮寺の思考はかえって落ち着かなくなってしまう。ぶかぶかの自分の上着を着た橘の姿がいわゆる「彼シャツ」状態で、むしろ自分をいっそう惹きつける効果を発揮したからで、神宮寺の頭上には魅了のバッドステータスが表示される始末。
 

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橘「服着たじゃん!なんで悪化してんの!?」
橘「分からん……!」

 

思考の街道を、本筋を妨げないため余計なものを脇道へ置いたはずなのに、結果的にそれはむしろ神宮寺自身を脇道へ追いやってしまったのだ。そしてここで更に注目すべきは、この脇道が本筋の邪魔なようで助けになっている点である。
 
 

3.本筋か脇道か

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橘「いや……マジで大丈夫なのお前……?」

 

魅了された神宮寺と橘のやりとりは完全に本筋から外れ、脇道も脇道に入り込んでいく。やれ彼シャツは幼稚な趣味だの本当は興味ないだの、いや橘のバニーやメイド服好きよりマシだのだったら美少女橘の姿で想像してみろだの……戦っているはずのヴィズドがバカにされていると思うのも無理はない。
 

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神宮寺「ロングタイプのメイド服……など効かんわぁぁぁ!」
 
神宮寺と橘のやりとりには、およそ戦闘中らしい緊張感が全く無い。けれど神宮寺が興味がないとリアクションすればヴィズドの放った衝撃波は弾き返されるし、バニー姿の橘の妄想に抗えば振り下ろされた斧すら弾き飛ばす。最終的には神宮寺は、メイド服で「おかえりなさいませ、ご主人様」と言われる妄想を渾身の力で吹き飛ばす中で全力のヴィズドを倒してしまった。痴話喧嘩とでも呼ぶべき"脇道"が、魔王軍幹部という"本筋"を圧倒してしまったのだ。
 

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神宮寺(相変わらず人と仲良くなるのが上手いな。こいつは精神的に壁を作らない。俺にはできん生き方だ……)
 
脇道が本筋を逆転する。これはけして、ハイスペックサラリーマンの神宮寺だけの特権ではない。自分は勇者だとその正当性をまっすぐ主張するシュバルツが皆に信じてもらえないように、「ちから・すばやさ・かしこさ・うんのよさ」だけならクソザコ呼ばわりされる橘が人たらしの点では神宮寺を遥かに上回っているように、人も世界もそれほど単純にできてはいない。もともと橘と神宮寺にとって、魔王退治は目的ではなく自分達の恋愛阻止のための手段なのだ。何が本筋で何が脇道かなど、その時その場所その相手によって変わるものに過ぎない。
 
さて、シュバルツがうっかり発動してしまったスキルは橘と神宮寺をいかな脇道に引きずり込むのか。そしてそれはどんな本筋に繋がっているのだろうか。
 
 

感想

というわけでファ美肉おじさんの5話レビューでした。ええ、グラム食べられちゃったよ。鎧の中から取り戻せるのかしらん。シュバルツくんがいい感じに微笑ましい高校生らしさになってきました。結婚してくれの天丼ネタで子供の数については言い直すあたりもクスリとしてしまいます。
 

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それにしてもピンク色の服を羽織ったルシウス、20年くらい前の恋愛AVGヒロイン感ある。
 
 

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