事件は女の手の中――「ルパン三世 PART6」19話レビュー&感想

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©モンキー・パンチ/TMS・NTV
謎深まる「ルパン三世 PART6」。19話では銭形刑事に殺人の容疑がかかり拘束されてしまう。彼は今回、単に動きを封じられたのではない。同時にあるものを盗まれてもいる。
 
 

ルパン三世 PART6 第19話「フェイクが嘘を呼ぶ 後篇」

ヘイゼル殺害容疑で囚われた銭形。二党の対立は、コトルニカに疑惑と動揺を広める。ヘイゼルとの約束のため手を出さないルパン。銭形を救うのは、八咫烏とアリアンナの役目だ。――地元警察の妨害を受けながら捜査に奔走する二人。ディープフェイク事件が起こす「謎」の連鎖……。真実の裏に隠された、もう一つの深い嘘とは?
 

1.女泥棒アリー

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ルパン「心配ねえさ、あっちにはとっつぁんの部下がいる」
 
19話は「ルパン三世」らしからぬ回だ。ヘイゼルとの約束もあってルパンはコトルニカに立ち戻らないし、既に述べたように銭形はヘイゼル殺害の容疑で拘束されてしまっている。実は別人に変装していただとかその逆もなく、描写量で言えば彼らの出番はごく抑えられたものになっている。事実上不在の主役達に代わり、今回のメインとなるのは前シリーズから新たにレギュラーとなった八咫烏……のように見えるがこれも違う。
 

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アリー「落ち着いて、逆効果です」
 
ルパン達と交代で今回の物語を牽引するのは、新たに銭形の部下になっていた女性・アリーだ。八咫烏は血気盛んだしICPOらしく腕も立つが冷静さやひらめきを持ち合わせているわけではなく、単独では空回りを続けたであろうことは恨みを持つチンピラの売った喧嘩を考えなしに買ったことからも伺える。しかし今回、彼の傍らにはアリーがいた。
 

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アリー「私はやた先輩も尊敬してます。刑事としても、人としても」
 
アリーは尊敬する銭形を犯人扱いするコトルニカの警察に激昂する八咫烏を落ち着かせ、人質にされた状況からは自ら脱し、パパラッチの写真群から真犯人の影を見つけ出す。今回の彼女は単なる「後輩らしくわきまえた女」のようでその実、熱血漢だが未熟な八咫烏を的確に軌道修正している。銭形をベテラン刑事らしく振る舞わせるための八咫烏の若さや甘さから新たな可能性を引き出してくれるのがアリーであり、故に嫌疑を早々に晴らしてもらった銭形は2人をいいコンビだと褒めるのだろう。
 
銭形「いいコンビだよ、お前達は」
 
端的に言えば今回、アリーは銭形の役割を盗んでいる・・・・・そして13話で書いたように、僕はこのPART6第2クールでは「女とはルパンに匹敵する泥棒(ヒーローの資格者)である」という仮説を立てている。ならば今回の泥棒もまた、アリーただ一人に限らない。
 
 

2.事件は女の手の中

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この19話では、花屋の少女マティアの意外な正体の片鱗が明かされる。可能性を考えていた方は多いだろうが、当初はただ可憐なばかりに見えた彼女は実は優れた体術の持ち主であり、ヘイゼルを殺したのも実は彼女らしいことが強く示唆されるのだ。
 

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アリー「この身のこなし、小柄な男……?この細身のシルエット……」
 
今回の話を考える上で注目したいのは、マティアの不審さに気付いたのが現状描写された範囲ではアリーだけだった点である。ルパンがマティアに半ば骨抜きなのはこれまでの回でも描かれている通りだし、銭形や八咫烏も彼女が犯罪と関わりがあるなど夢にも考えていなかった。ただ一人、アリーだけが、写真に写ったヘイゼル殺しの真犯人と思しき人間がマティアと同じブレスレットをしていることに気付いたのだ。"女泥棒"アリーはこの時、ルパンや銭形をも上回る立場に立っていたと言っていい。
しかし八咫烏に尊敬を通り越して思慕の念を抱いていたアリーは彼に守られるだけの立場になることを良しとせず、自分の実力を証明すべく一人マティアの調査に臨んで返り討ちに遭ってしまう。結果、彼女は手がかりを銭形に託すことはできたが真相は取り逃がすことになってしまった。全てがトモエ絡みであるらしいこの事件は、何かを解き明かすまであと一歩と迫りながらまた闇に隠れてしまったのだ。
 
 

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アリー「それは嫌です。私は、やた先輩に守ってもらいながら現場に立つのは嫌なんです」
八咫烏「ごめん、そんなつもりじゃなかったんだ……」

 

アリーの単独捜査は過ちであり逸ったものであるが、全てを彼女の愚かさに帰するのは公平な見方ではないだろう。八咫烏を空回りさせなかった前半からも分かるように、本来彼女はきちんと後先を考えて動ける人間なのだ。そんなアリーが無謀に走ったのは唯一つ、惹かれ合っていた八咫烏が愛の決意のつもりで「アリーはまだ少し頼りないけど、大丈夫。僕が守るから」と口にしてしまったせいに他ならない。一方的に強くあろうとしたせいに他ならない。
アリーは八咫烏と対等になることを望み、事実2人は銭形を助ける大活躍を見せたばかりだった。彼女が八咫烏を上手く抑えまた八咫烏もアリーをナイフから庇い、この「コンビ」はどちらが一方的に守るというような関係ではなかったはずなのだ。にも関わらず男性や先輩としての意気地を口にしたばかりに、八咫烏は公私における最良のパートナーとなり得た相手を失って(あるいは傷つけて)しまった。
 

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八咫烏「アリー!?だめだ、アリー!」
 
「女」をキーワードとしたこのPART6第2クール、ルパン達は自らの力だけで真相にたどり着くことはできないだろう。これまでが既にそうであるが、女に触れ、女を知り、女に盗まれ、女と競う中で物語は全貌を明らかにしていく。事件は今、女の手の中にあるのだ。
 
 

感想

というわけでルパン三世PART6の19話レビューでした。先々週は2回連続でレビューを書いてさすがに頭がくたばってましたが、今回は最初のテーマに立ち返ることで割とさっくりレビューの構想を立てることができました。
 
アリーがマティアと対峙する数分は、喉元に切っ先を突きつけられたようないやーな気持ちで……ルパンは彼女の正体に気付いているのかどうなのか。ここで再びオムニバスエピソードという生殺しに悶つつ、次回の話を楽しみに待ちたいと思います。
 
 

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