離れがたきは愛――「プラネテス」7話レビュー&感想

鎖の意味を問う「プラネテス」。7話ではノノという不思議な少女が登場する。今回は彼女を通して、人が離れられないものに迫るお話だ。
 
 

プラネテス 第7話「地球外少女」

怪我をした足の治療に月の病院にいるハチマキは、一人の少女と出会う。彼女の名前は「ノノ」。すっかり意気投合する二人に、見舞いに来たタナベは少し不満気。そんな中、ハチマキはある事件をきっかけにノノの事情を知ることになる。
 

1.人間は地球から離れて生きていけない……?

ハチマキ「結局の所、俺達は地球から離れては生きていけない。それが今の現実だ」
 
7話冒頭、ハチマキは人間にとって宇宙が非常にハードな場所であることを解説する。無重力ゆえ筋力は簡単に低下し、閉鎖環境ゆえ精神衛生にも気を使わなくてはならず、宇宙放射線も大量に浴びることになる。宇宙開発の進んだこの時代でも人間は地球から離れて生きていけないのだ、と。
 
ハチマキ「ローランドさん……!?」
 
事実、今回の話でハチマキを打ちのめすのは地球から離れられない自分達の限界だ。彼が入院中に出会った伝説的な宇宙飛行士ハリー・ローランドは長年の宇宙空間での活動によって白血病を発症し、最後はろくな準備もせずに月面に出たことで死を迎える。口を開けば宇宙の話ばかり、宇宙を俺ほど愛している者はいないと豪語する男が、それでも宇宙に拒絶されてその一生を終えるのだ。神様がいるとしたら人間のことが嫌いなのではないか、地球も宇宙も汚しデブリも作る自分達は地球に帰れと言われているのではないか……などと、彼の死を目にしたハチマキが柄にもないことを考えてしまうのも当然だろう。しかしハチマキは、それが狭い了見に過ぎないことをノノという少女から教えられる。
 
 

2.地球外少女

ハチマキ「君はここに来てどれくらいなの。俺とそんなに変わりない……」
ノノ「12年」
ハチマキ「じゅうに……12年!?」

 

入院中にハチマキが出会った少女、ノノ。屈託のない笑顔を浮かべる彼女をハチマキは気に入るが、同時に12年も病院にいるという身の上にあれこれと思いを馳せてしまう。宇宙が人体にとって有害な場所なのは先に触れられた通りで、通常は月での治療とは地球に降下できる健康状態を確保するまでの一時的なものに過ぎない。にも関わらず12年も月にいるとは一体どんな重い病気なのか、そもそも12年も地球に帰らずに耐えられるものなのか。1年以上地球に帰っていないハチマキにしても、それは想像のできない辛い時間のように思えた。……が、事情が分かってみればこれは全くのハチマキの思い込みに過ぎなかった。ノノの正体とは、まだ世界に4人しかいないルナリアン(月を生育地とする人間)だったのである。
 
ハチマキ(そういやコスモノーツで読んだな。ルナリアンには生まれつき低重力障害がある。(中略)地球の重力には耐えられない体……)
 
ルナリアンの存在は、ハチマキが打ちのめされた悩み、いや疑問に密接にリンクするものだ。地球の1/6しか重力のない月で生まれた彼女達は生まれつき低重力障害を抱えており、低い筋力や心肺能力は地球での活動に耐えられない。ノノは地球から離れられないどころか、地球を知らなければ地球に降りることもできない。
ノノの身の上は、見ようによっては地球という親から見放された捨て子のようにも思えるものだ。しかし素性を明かしても、ノノの屈託のない笑顔は何も変わることはなかった。
 
 

3.離れがたきは愛

ノノ「月が故郷なんてすごいでしょ!自慢なんだ」
 
地球で暮らし月旅行が夢のように言われる現代の私達に、人間は地球から離れて生きていけないというハチマキの話は説得力を持って響いた。しかしルナリアンのノノにとっては逆に、月は暮らす場所で地球こそは行ってみたい場所だ。また彼女は、自分の成長記録を元にした宇宙生活病の研究が落ち着くまで月を"離れる"つもりはないと言う。彼女にとって離れがたきは地球ではなく月なのである。
ハチマキ(とおそらく私達視聴者)はノノが相当な重病なのだと気遣ったり背格好から自分と同世代だろうと推察したが、そんなもの全ては地球を基準とした思考が生んだお節介に過ぎなかった。地球から離れられないのは人間の体ではなく、ハチマキや私達の心に過ぎなかったのだ。
 
ノノ「どう、ハチマキ?私の海!」
 
ノノはハチマキを誘ってこっそり病院を抜け出し、「あたしの海」を紹介する。月面の砂地を紹介する。それはハチマキにとっては単なる砂漠に過ぎない。月に海水はない。しかし砂を海水のようにして遊ぶノノの姿に、ハチマキは彼女と自分が地球の海にいるかのように錯覚する。青い空も寄せる波も見当たらなくとも、そこに海を幻視する。
もちろん、これはハチマキの一方的な錯覚だ。ノノには紛れもなくこれが海であり、もしいつか地球へ行けたら彼女はそこから月の海を思い浮かべるだろう。ハチマキとノノが思い浮かべるものは地球と月の違いがあっても、それが離れがたき母星ははぼしであることだけは変わらない。
 
ローランド「俺を勝手に引退させるな、まだまだ俺は……」
 
ローランドの死を見たハチマキは人はやはり地球から離れられないのだと打ちのめされたが、本当にそうだろうか?彼は宇宙放射線白血病に冒され、ろくな準備をせずに月面へ出れば死ぬと分かっていたろうにそうやって宇宙へ行かずにいられなかった。ローランドは本当は、地球ではなく宇宙からこそ離れられなかったのだ。
 
 
また今回はハチマキとノノの仲の良さにタナベがショックを受ける様子が描かれ、彼女はアポロ記念公園へ気晴らしに出かけるがふとした拍子に二人のことを思い出してしまう。宇宙港で待っている時も周囲のことは上の空だ。全く別の場所で全く別のものを見ていても、タナベの心はハチマキから離れられていなかった。
 
ハチマキ「……広い海だな、しかし」
 
人は様々なものに縛られながら生きている。離れて生きてはいけないと、そう思いながら日々を重ねている。けれどノノやローランドが地球から離れていたように、その多くは本当に離れられないものではない。絶対に離れられないものがあるとしたら、私達があらゆるものから全く離れては生きていけないという事実そのものだろう。
ローランドにとっての宇宙、タナベにとってのハチマキ、ノノにとっての月……そう、他の何から離れたとしても、誰かや何かを"愛"することから人は離れて生きていけないのだ。
 
 

感想

というわけでアニメ版プラネテスの7話レビューでした。これは、なんというか危険な話だな……「置かれた環境に文句を言っても始まらない」で止まってしまうと自己責任論まっしぐら。愛からこそ離れられないなんてこっ恥ずかしいくらいのことを書きましたがこれは今までの話でもあったし、きっと作品全体のテーマなので忘れずにおこうと思います。
 
月だからってハチマキのところまでの歩き方がステップじみてるタナベかわいい。ハチマキとノノの様子を見てショックを受けてるタナベかわいい、かわいそう。
 
 

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