双方向への道筋――「プラネテス」8話レビュー&感想

宇宙に戻る「プラネテス」。8話では再び仕事の日々が始まる。今回は物語の新たなステージを予感させるお話だ。
 
 

プラネテス 第8話「拠るべき場所」

月から宇宙ステーションに戻って、またいつもの業務が始まった。ところが、フィーが出世してデブリ課を離れるというウワサが出て、驚くデブリ課員たち。それでもハチマキたちは、フィーが安心して課を離れることができる様にと、フィー抜きでのデブリ回収に向かうのだが…。
 

1.これまでと少し違う"愛"

8話はフィーと事業部長のドルフが元は小さな会社の同僚だったという、意外な繋がりが明かされる回だ。回収したデブリをバックに二人が言葉を交わす様が鮮やかで、視聴者は自然と今回のデブリの性質を重ね合わせる。
 
フィー「変わったように見えるだけ。光を浴びれば、すぐに元に戻るわ」
 
8話のデブリはステルス性を持つ上に熱を帯びれば膨張して不安定になる性質を持ちハチマキやタナベを飲み込んでしまうが、これはかつてドルフとフィーのいた会社を吸収合併したテクノーラ社――いや、世界の理とでも呼ぶべき何かと同じものだ。だからフィーはそこから二人を救出することで、かつて自分とドルフとの間にあった"愛"(≠性愛)を取り戻す。短くまとめれば、8話はそのように読み解けるだろう。しかしこの愛はタナベの言う、いや本作がこれまで提示してきた愛とは少しだけ異なっている。
 
 

2.一方通行の限界

若輩のハチマキやタナベと異なり、フィーは業界でもとびきり優秀なベテランだ。この年季の違いは恋愛事情にも現れていて、タナベならヤキモチは恋バナの一種だが結婚して子供のいるフィーがドルフと一緒にいれば不倫を疑われもする。恋"愛"に関して、二人は異なるステージに立っている。
 
ユーリ「やっぱりおかしいですね」
ハチマキ「いいトシしてこんなことやってる俺たちがな」

 

タナベのヤキモチがハチマキにはまるで通じていないように、恋は一方通行でもできるが、愛は、結婚は双方向でなければ成立しない。一方的か双方向かに単純化するなら、フィーがドルフとの不倫を疑われたのと彼女が異動の話を持ちかけられたのは実はそう離れていない。デブリ課の面々はフィーが双方向なのは自分達ではなくドルフの方ではないかと感じているのであり、今回は話はフィーとデブリ課の結婚生活の危機とも言えるのである。
 
フィー「ったく。仲間に信じてもらえないなんて情けない話だ!」
 
強く想っていたとしても、一方通行のそれが正確であるのは難しい。タナベはハチマキの彼女ではと疑っていたノノが12歳とは知らなかったし、ハチマキ達は不倫の勘違いはおろか、彼女が安心して異動できるよう自分達だけでデブリを回収しようとして危機を招いてしまう。どれも一方通行が招いた勘違いだ。しかしそれは、彼らの側だけが勝手に一方通行になってしまったわけでもない。フィーはドルフと何を話していたか聞かれた際、持ちかけられた異動については明かさなかった。まだはっきりしない状況で動揺を招きたくなかったのだろうが、結果的にそれはハチマキ達の暴走を招いてしまった。
 
フィー「ただの昔話だよ。同僚だからな、前の会社の」
 
不倫を疑われたフィーは仲間に信じてもらえないなんて情けないと吐き捨てたが、これは彼女自信にも帰る言葉だ。異動の話を打ち明けなかったその時、フィーもまた仲間を信じていなかったのである。
 
 

3.双方向への道筋

ハチマキ達とフィーが互いに互いを信じなかった結果、デブリ回収は大きな危機を迎える。ハチマキ達は偽りの開始時間を伝えフィーだけを置いて向かったが、管制課との連携が上手く行かなかったこともありデブリが日光によって熱を帯びて膨張、ハチマキとタナベを取り込んでしまったのだ。事態を把握してもフィーが現場に間に合うわけもなく、彼女はハチマキ達に通信で指示することしかできない。しかしその無茶さを指摘されたフィーが返した言葉は、今回両者に欠けていたものをがっちりと掴んだものだった。
 
フィー「仲間を信じなきゃ、何も始まらないって」
 
フィーのこの言葉は自分がハチマキ達を信じるだけではなく、ハチマキ達から信じられているからこそ口にできる言葉だ。一方通行でなく、双方向のものだ。
 
フィー「あたしは、今もあなたとチームを組んでるつもりよ」
 
ステルス性でレーダーに映らない今回のデブリを目視で探すのが困難だったように、一方通行であれば距離が離れるほど相手を見つけるのは困難になる。けれど双方向なら、直接触れ合えなくとも大切なものを交わすことができる。かつて一緒に働いていた頃とは別人のように変わった、離れてしまったはずのドルフの中に変わらぬものをフィーが見出せたのも、自分と彼がまだ双方向にあると信じられたからだろう。なら一緒におらずとも、現場と経営で立場が離れようと二人は通じ合い続けられる。今回フィーが取り戻した"愛"とは、きっとそういうものだ。
 
タナベ「そうじゃなくて、病院の子の方ですよ」
 
タナベがヤキモチを焼き、チェンシンが彼女に興味を示すようになったこれからのハチマキ達の関係は、一人が想うのではなく誰と誰が想い合うかこそが重要になっていくことだろう。ハチマキ達より少し先輩のフィーは今回、一方通行ではない双方向の愛への道筋を示してみせたのである。
 
 

感想

というわけでプラネテスの8話レビューでした。昨日はルパン三世のレビューを書いた後で頭がヘトヘトになっていたのですが、まだ全快とはいかないかなあ。「You copy?」「I copy」のやりとりがとても素敵に思えてくる回だったなあと思います。フィーを主軸に据えることでタナベの幼さ、これからの成長を感じさせてくれるのも良かった。
 
本作における"愛"の射程範囲が広がったのを感じる回でもありましたが、愛の双方向性が示されたこと、それが経営側のドルフと労働者側のフィーの間であることは2020年代になってみるとより意義深いように思います。人が国や企業に捧げる忠誠はある種の愛ですが、じゃあ逆にこの国やこの国の企業は人を愛してきたんでしょうか。それは双方向だったんでしょうか。国や企業(労働)を愛することを教えられても愛されることは教えられず、それを当たり前のこととして受け入れてしまったのが本作が放送された頃に若者だった私達の世代なのではないか。双方向の愛はもう壊されてしまっているのではないかと、そんなことも考えてしまいました。
さて、次回はハチマキの師匠が再登場するみたいですがどんなお話なんでしょう。
 
 

<いいねやコメント等、反応いただけるととても嬉しいです>