鏡に映る君はお姫様――「異世界美少女受肉おじさんと」9話レビュー&感想

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© 池澤真・津留崎優・Cygames / ファ美肉製作委員会
自他を省みる「異世界美少女受肉おじさんと」。9話では勇者である橘はある意味王族とも対等と語られる。そう、今回は橘達と対等の存在が現れるお話だ。
 
 

異世界美少女受肉おじさんと 第9話「ファ美肉おじさんと美少女」

イシュルナ諜報部のムリアに案内され、ついに王に謁見することとなった橘と神宮寺。
 
橘の魅力で王の支援を取り付けた二人だったが、晩餐会の最中に仲違いしてしまう。パーティーを抜け出した橘は、そこで自分の理想を体現したような美少女に出会うが、それにより橘は大きな騒動に巻き込まれていく……。

公式サイトあらすじより)

 

1.ユグレインとは何者か

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© 池澤真・津留崎優・Cygames / ファ美肉製作委員会
橘(そう、まさにこんな感じの……)
 
今回はユグレインという少女が新たに登場する。愛と美の女神に創られた王族の末裔にして王国の姫君であり、橘の好みの例え話がそのまま合ってしまうような美貌の持ち主だ。実際、ユグレインと話した翌日の橘は紅茶をこぼしているのにも気付かないほど彼女に夢中になって――そう、魅了・・されてしまった。まるで、普段の彼が他人をそうしているのと同じように。
 

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橘「普通説得しない!?いやいやいや、目の前で自殺なんて冗談じゃない!」
ユグレイン「うるさいわ!つまらないのこの世の何もかも!」

 

橘とユグレインはよく似ている。美少女として受肉した今の橘の姿には多分に自身の好みが反映されているであろうこと、性格が見た目の可憐さを裏切っていること、歩くそばから事件が巻き起こるトラブルメーカーであること……冒頭、橘達を歓迎した王国諜報部のムリアは王族にも女神の紋章があることを語り、故に橘は王族とも対等と説明したが、これは橘とユグレイン個々人においても同様だったのである。
 

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橘(あーなるほど、見覚えがある。どうりでほっとけないわけだ……)
 
ただ、ユグレインはけして単なる橘のコピーではない。外へ出られず友達もいない不満を漏らす彼女に、橘はむしろかつての神宮寺を重ねて見ているのである。
 
 

2.鏡に映る君はお姫様

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神宮寺「慌てるな橘、全部分かってる(……完膚なきまで折れってことだな)」
橘(絶対なにも分かってねーっ!!)

 

親友橘と神宮寺は25年の長きに渡る親友だが、今の二人は必ずしも上手く行っているとは言い難い。発端はもちろん異世界転生における橘の美少女化だが、最近は意思疎通等にも支障が出ているからだ。シェンの乱入による三角関係(?)、橘のサポートで神宮寺にかかる負担、それを軽減しようとして空回りする橘……誰より長く一緒にいて誰より相手を知っているはずなのに、橘と神宮寺が見る互いの姿はいつの間にか実像からズレてしまっている。その結果として空回りした橘を神宮寺が本気で説教したり、橘の意図を汲み取ったつもりの神宮寺が的外れな行動を取ったりといったいさかいが起きてしまうのだ。相手を見ているからといって、相手を捉えられているとは限らないのである。
 

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ユグレイン「うふふ、よほどその方のことが好きなんですね」
橘「絶対に違う!」

 

前回のレビューでも書いたように、人は知性を持つが故にありもしないものを見る時もあれば、存在しているものを見落とす場合もある。人の目は当てにならない。だがそれはけして絶望だけを招くものではないはずだ。私達のこの当てにならない目は逆に、確からしく見えるものが誤りではないかと踏みとどまったり、目に見えずとも存在するものを掴むのにだって使うことができる*1。今回の橘と神宮寺で言えば、むしろ相手を直接見ないことでこそ見えてくる互いの、あるいは自分の本当の姿もあるはずだ。そう、例えば二人と似た要素を持ちながら全くの別人であるユグレインのような存在を通してこそ見えてくるような姿が。
 

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神宮寺(俺が、なーにも分かってない……?橘、俺はいったいどうすればいいんだ!?)
 
橘はユグレインに神宮寺を重ね、彼が本当はユグレインとこそ旅をしたいのではと考える神宮寺は自分とユグレインを置き換えて考える。またユグレインの置かれた過保護な環境や独り立ちのできなさは、神宮寺をいつも頼りにする橘の精神にも似ている。ユグレインは橘とも神宮寺とも違うが、彼女が存在することで見えてくる二人の姿は確かにある。
 

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ユグレイン「ありがとう。わたし結構あなたは好きよ」
 
橘と神宮寺にとってはユグレインこそが自他を映す鏡であり、それは二人にとってお互いがかけがえない「お姫様」だという証明なのである。
 
 

感想

というわけでファビ肉おじさんの9話レビューでした。今回は結論がきっちり決まっていたこともあり割と悩まずに書けたな。昨日とか頭がぐわんぐわんして困り果てていたのですが、どうも花粉症の症状だったらしく市販薬を服用したらかなり回復しました。ここしばらくの不調も全部それが原因……だといいなあ。
予告を見るとシュバ君とか再登場するんでしょうかね。次回で一山終わるのかこれが最終章なのか、はてさて。
 

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なぜムリアは諜報部の長などという重荷を背負っているのか。ポンコツ不憫かわいい。
 
 

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*1:まあ、それができたと一人合点してむしろ逆という経験の方が僕も遥かに多いのだけど