ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン 第10話「サヴェジ・ガーデン作戦(中庭へ向かえ!)その①」
(公式サイトあらすじより)
1.無重力の意味
徐倫がスピードワゴン財団(SW財団)と連絡を取り、中庭から財団の用意した方法でDISCを刑務所外へ送り出す「サヴェジ・ガーデン作戦」が繰り広げられる10話では、ラング・ラングラーという敵が登場する。彼のスタンド「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」は小さなものを弾丸のように飛ばす回転機構を備えていたりもするが、厄介なのは対象を無重力状態にする能力を持っていることだ。
人間は通常、地球の重力に縛られているがそれに助けられている。重力があるから物体は釘などがなくとも地球に向かって固定されるし、地面に踏ん張りを効かせて筋力を有効活用することもできる。これが無重力となればコーラをぶちまけずに済む代わりにコップに注げないし、地面に落ちない代わりにこれまでと同じようには体を動かすこともままならない。
徐倫(この私が触れたもの、それがどんどん浮き上がってきている!)
ラング・ラングラーのスタンドは確かに無重力を発生させるが、指定した範囲が突然無重力になるだとかそういったものではない。徐倫が触れたコーラや受け皿が浮かび上がったように、無重力が発生するのはあくまで彼がスタンド攻撃を仕掛けた対象が触れたものだけ。彼のスタンド能力は(自身の無重力化と)「対象を無重力の発生源 にする」ことにある。ラング・ラングラーが攻撃を仕掛けたことで可視化されているが、徐倫こそは今回の無重力の発生源なのだ。
2.無重力≠無法則
徐倫「いえ、とんでもないわ。触ったのはこのコップの受け皿だけで……」
ミラションとの戦いで大金を手にした徐倫は今回、賄賂を多用する。電話の順番、脱獄未遂や性別で課せられた移動制限……それらは正攻法ではとても獲得したり解除できないものだが、金を差し出した徐倫の前では囚人も看守も人が変わったように譲ったり許可してくれる。今回徐倫は、自分が触れた相手にルールからの無重力状態を発生(脱獄)させているのだ。
エンポリオ「一緒に行くといいよ。きっと役に立つ」
また、徐倫の電話は今回多くの人を動かしている。コレクト・コールを受け付けないはずのSW財団は徐倫の名前を聞いて代表に繋げまた彼は即座の作戦発動を決めたし、急を要する状況にエンポリオはウェザー・リポートなる新たな味方を連れてくる。加えて言えば徐倫が電話をした事実は、内容までは聞けずともラング・ラングラーが彼女に攻撃を仕掛けるのに十分な理由となった。徐倫の動きがきっかけで彼らは動き出したのだから、これも見ようによっては徐倫をきっかけとした無重力の発生にあたる。
時間制限、よく知らない相手、敵のスタンド攻撃……徐倫は自身を中心に発生する無重力に助けられまた苦しめられる。そこでは既存の理 が良くも悪くも通用しないからだ。……だが、既存の理が通用しないことは理が存在しない のとイコールではない。
3.運命は理外の理
エンポリオ「ここはねお姉ちゃん、僕が隠れ住んでいる『屋敷幽霊』の中なんだ」
エンポリオのスタンド能力は「幽霊になった道具を使える」こと。この刑務所はかつて火事にあって大改築された過去を持つが、その時に焼け落ちた刑務所内のピアノや本といった「物の幽霊」を扱えるのが彼の力の正体だったのだ。しかし扱えるからといって、エンポリオは物の幽霊を好き放題できるわけではない。チョコレートやジュースの幽霊を口にしても味がするだけで本当に食べることはできないし、彼が徐倫を招いた焼け落ちた音楽室の幽霊空間(屋敷幽霊)は刑務所内のどこにでも通じているわけではない。
エンポリオ「勘違いしないでお姉ちゃん、この屋敷幽霊はどこにでも通じてるわけじゃないんだよ」
エンポリオのスタンド能力は既存の理を逸脱しているが、しかしそれは全くのやりたい放題を意味しない。「物の幽霊」なる概念の初出である短編「デッドマンズQ」を荒木飛呂彦が描いたのは「死後の世界にも現実同様に何かルールがあるはずだ」という着想からだそうだから、エンポリオのスタンド能力が同様の制限を提示するのは当然の帰結と言えるだろう。
既存の理が通用しない世界は理のない世界ではなく、別の理が存在する世界に過ぎない。これは当初"幽波紋"とも呼ばれたスタンドが物理法則を超越しながらも様々な制約を抱えていることからも、賄賂を多用しても徐倫が全くの自由ではないことからも言える。彼女がスピードワゴン財団にかけた電話は刑務所を通してホワイトスネイク(プッチ神父)の知るところになるのは明らかだし、それでも彼女が電話したのは前回の戦いでDISCの安全を確保できないと悟ったためだ。
ラング・ラングラーの能力が生み出す無重力化もけして彼の無法地帯ではなく、それは時に徐倫達の方を助ける時もある。SW財団側が作戦の詳細を明かさないことが秘密保持にはかえって都合が良かったり、ウェザーが天候を操る自分のスタンド能力と無重力を組み合わせて高速移動する姿などは理外の理が助けにもなる好例として挙げられる。
エンポリオ「蘇らせてほしい。君のお父さんが蘇ればきっと、もっと何か希望が見えてくると思うんだ」
人は理から"脱獄"してもまた別の理の中にある。ジョジョらしさの牢獄から脱獄するような徐倫の存在がむしろジョジョらしくあるように、その不自由さは悪しきことばかりではない。シリーズを通して、ジョジョはその理をこそ描いてきたのではなかったか。
私達が「運命」と呼ぶものはきっと、理の重力から逸脱してもなお私達を離さぬ理外の理なのである。
感想
というわけでアニメ版ジョジョ6部の10話レビューでした。おお、単純に「理屈が存在しないと思っているものにも理屈はある」くらいのつもりで書き始めたのにジョジョらしい運命論にたどり着いた。エンポリオやラング・ラングラーのスタンド能力もテーマ性に結び付けられるのがとても面白いですね。やろうと思えばウェザーのスタンドもこれに絡められる、のか?
それにしてもラング・ラングラー、見た目が強烈なんで本当印象に残りやすい。靴を足に縛り付けてるのは能力もあって分かりやすいが、被り物はなんの理由で(どんなオシャレで)そんな形になるんだ。
腕をグルグルさせてる徐倫、なんとも言えずかわいい。
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無重力≠無法則――「ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン」10話レビュー&感想https://t.co/ouDvPgLkFG
— 闇鍋はにわ (@livewire891) March 12, 2022
エンポリオとラング・ラングラーのスタンド能力からジョジョの"運命"を読み解くお話。#jojo_anime#ジョジョの奇妙な冒険 #ストーンオーシャン#アニメとおどろう