再生の地――「ルパン三世 PART6」22話レビュー&感想

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©モンキー・パンチ/TMS・NTV

誕生を寿ぐ「ルパン三世 PART6」。22話は最後のオムニバスエピソード……と思いきやダイレクトに本編に絡む意外な展開を見せる。一人の少女の誕生を巡るこの回は、私達の認識を生まれ直させるお話だ。

(3/13 23:30 誤って本文記事が消えていたようなので再生しました。失礼しました)

 

ルパン三世 PART6 第22話「私のママの記録」

フィン・クラーク。極北の国・レヴォンランドへホームステイにやって来た、15歳の少女。彼女が知りたいのは、ママのこと。そして、顔も知らないパパのこと。「私のパパは誰? 16歳のママはなぜこの国で亡くなったの?」――雪に埋もれた家から、フィンは母親の記録を掘り起こしていく……。一方ルパンもまた、ネット上に転がるあらゆる記録を頼りに、何かを探し続けていた。

(公式サイトあらすじより)

 

 

1.傷ついた記憶、傷ついた記録

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©モンキー・パンチ/TMS・NTV

フィン「来た、わたしが生まれた国!レヴォンランド……初めての一人旅です!」

 

22話はフィンという15歳の少女が北の国レヴォンランドを訪れるところから幕を開ける。母マリエルはこの地でフィンを生んだその日に死に、フィンは母の声を聞いたこともなければ父親の顔も知らない。自分の誕生と母の死には何があったのか?それを調べるため、自分の生家であり母を滞在させてくれていたダニエルとアンナ夫妻の家へ彼女はやってきた。

 

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©モンキー・パンチ/TMS・NTV

ダニエル「このテープを聞けば、あの日マリエルに何があったのか分かるかもしれない」

 

ここで着目したいのはマリエルの部屋がかつてのまま残されていること、アンナの精神が逆行してしまいフィンを15年前のマリエルと認識して行動することだ。フィンの来訪はまるで、カセットテープを再生するように15年前を再生させているのである。ただ、事情を知らない彼女ができる過去の再生には限度がある。頼りにしていた母の日記帳は途中で終わってしまっており、肝心の自分の誕生の経緯は分からない。

 

傷ついた記録や記憶からは過去を上手く辿れない。新たな手がかりとなったのは部屋に隠されていたテープと、マリエルのために祖父が用意したという家庭教師――トモエの存在であった。

 

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トモエ「はじめまして」

 

トモエがマリエルのもとへやってきたのは祖父が「傷ついた記憶を癒せる」という触れ込みを聞いたからであり、事実トモエによって物語は再び起動する(フィンがSNSでシェアした「着物の家庭教師」という言葉に、ルパンやマティアが動き出す)わけだが、彼女の登場に驚いた視聴者は多いだろう。次回予告にマティアやトモエの姿はなかったし、今回の副題表示にも第2クール本編で使われる「Witch and Gentleman」の表示はなかった。私の思い込みを他の方に当てはめるようで恐縮だが、多くの視聴者はこの22話をこれまで同様の短編とばかり思っていたのではないだろうか。

 

トモエが画面内に姿を現したその瞬間、22話は本筋に大きく絡む話へと生まれ直した。そして、生まれ直したのはけしてこの話だけではない。

 

 

2.生まれ直す事象達

トモエはもとより謎多き女性だった。ルパンの家庭教師でありながら彼の家の財宝を盗み、生死不明になったと思いきやその後も暗躍の影が見え隠れする油断のできない女性……

 

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フィンの祖父「傷ついた記憶を癒せる人だと……でも、マリエルは死んでしまった」

 

しかし今回のトモエはそれまでと違った姿を見せる。なにせマリエルのもとへ彼女が呼ばれたのは学業ではなく「傷ついた記憶を癒やすため」なのである。

 

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マリエル「知らない、知らないそんな写真……!」

 

カセットテープに記録されたトモエの言動は奇妙だ。日記によればマリエルはショーンという少年に惹かれていたはずが、トモエは日記では嫌っていたはずの別の少年・アレンとマリエルが恋仲だったと口にしたり写真を見せ、いつの間にかマリエルも納得してしまっているような素振りを見せる。またショーンはマリエルにかけていた電話でアレンと口論になった最中に別の女性から銃撃を受けアレンともども死亡、女性も自ら命を絶ってしまったが、直前に女性が口にしたのはなんとトモエの名であった。

 

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この22話でトモエは「油断ならない人物」から「危険な人物」へと生まれ直している。マティアの台詞からすれば彼女がやったのは催眠術ではないらしいのだが、精神に作用するなんらかの技術を心得ているのは間違いのないところだろう。

こうなってしまうともう、彼女が関わったあらゆる事象はそのまま信用できない。トモエがマリエルの母ステファンの家庭教師でもあったという話の真偽も、フィンの父親はアレンらしいことが示唆されているがどうしてそんなことになったのかも、疑おうと思えば全て疑えない話ではない。全ては怪しく掴みどころがなく思えてしまう。ただ、それでも信じらるものがないわけではないことも22話は示している。

 

3.再生の地

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カセットテープを通して描写された中で、マリエルはショーンとアレンの口論やそこに響いた銃声が引き金となって出産したことが明かされる。同時に謎の苦しみに襲われたフィンを駆けつけたルパンは介抱するが、彼がフィンに与えた助言は落ち着いてゆっくり呼吸するようにと言うものだった。

 

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ルパン「大丈夫、大丈夫だフィン。ゆっくり、大丈夫。ゆっくりと息をするんだ」

 

呼吸――母親の体から生まれでた赤ん坊がするもの、それは呼吸だ。胎盤やへその緒を通してではなく酸素を取り入れるには赤ん坊は呼吸せねばならず、それが産声となる。フィンはルパンの助言で呼吸を取り戻した時、彼を助産師に『生まれ直した』のだと言える。

 

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アンナ「フィン、素敵な名前ね」

 

 

フィンの生まれ直しを目にして精神の逆行が止まったアンナは、途切れた日記の後半に埋もれていたページを示してみせる。そこにはマリエルが娘の名前をいくつも考え、最終的にフィンと決めたことが示されていた。全てが疑わしくとも、フィンが母に愛されていたことだけは確かだったのだ。

この話は真相をはっきり描いておらず、フィンの出産の経緯は結局謎に包まれたままだ。しかし先の場面でフィンが生まれ直した意義など、その事実の発見一つあれば十分お釣りが出るだろう。

 

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ダニエル「君のフィンが16歳になったよ」
アンナ「おめでとう、フィン!」
フィン「ありがとう、アンナ、ダニエル!」

 

かくて傷つき止まっていた記憶は癒やされ、誕生を祝福されたフィンは再び自分の生を生きていく。レヴォンランドとはフィンにとって、自らを生まれ直させてくれる再生の地だったのである。

 

 

感想

というわけでルパン三世アニメ6期の22話レビューでした。レヴォンてreborn(再生)っぽい響きだよね、という思いつきだけではちょっと自信が持てなかったのですが、劇中でカセットテープが「再生」されるのに背中を押されてこんな感じになりました。

 

前回みたいに筆が止まってしまうことはありませんでしたが、この話は皆さんの中ではどんな姿で再生されているのでしょう。気になります。

色々と意表を突かれた回でした。さてさて、PART6も後は2話を残すのみ。どんな決着が待っているんでしょうね。

 

 

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