むき出しの運命――「ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン」11話レビュー&感想

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©荒木飛呂彦&LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社ジョジョの奇妙な冒険THE ANIMATION PROJECT
極限の「ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン」。11話では無重力の激闘が決着する。これは様々なものをむき出しにする戦いだ。
 
 

ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン 第11話「サヴェジ・ガーデン作戦(中庭へ向かえ!)その②」

新たな敵、ラング・ラングラーのスタンド「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」の攻撃を受け、身体が無重力状態となってしまった徐倫ウェザー・リポート無重力はさらに真空状態を作り、二人を絶体絶命のピンチに陥れる。ウェザー・リポートの天候を操る能力で雲のスーツを作り、それを纏うことでなんとか耐えしのぐが……。
 

1.再定義される無重力空間

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©荒木飛呂彦&LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社ジョジョの奇妙な冒険THE ANIMATION PROJECT
ウェザー「真空状態だと血液は熱湯のように沸騰する。無重力で真空なら、人間の体は窒息より前に20秒で血液がカラカラに干からびてしまうらしい」
 
前回は通常と異なる物理法則で徐倫とウェザーを苦しめた無重力だが、11話ではその性質は異なるだけでなく危険なものとして再定義される。無重力の結果周辺の空気が飛んでいってしまい、徐倫達は真空によって血液が沸騰して死ぬ危機に陥ってしまうのだ。
 

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©荒木飛呂彦&LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社ジョジョの奇妙な冒険THE ANIMATION PROJECT
ウェザー「あまり大きく呼吸をするな。この部屋の残り少ない空気をとりあえず集めて、体の周りを雲で囲んだだけだ」
 
人間の体は普段生きる世界の法則に最適化しており、物理法則(ことわり)の違う世界に長く留まることはできない。徐倫が悩まされるように戦闘中でも尿意は襲ってくるものだし、そもそもそれは無重力に人間の体が適応していないが故。徐倫達が無重力空間で生命の危機を迎えるのはそれが理の違う世界だからだ。ウェザーが残った空気をスタンド能力の雲で固めたスーツが宇宙服の形をしているのはただのオシャレではなく、自分達を通常の理の世界に保つために必要な形だからなのである。
 
 

2.無重力は本性をむき出しにする

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©荒木飛呂彦&LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社ジョジョの奇妙な冒険THE ANIMATION PROJECT
徐倫「どの程度……こ、呼吸はもつの?」
ウェザー「答えたくない質問だが、2分程度ってところか。瀕死の雲のスーツだ」

 

既に述べたように無重力空間とは通常とは理の違う世界であり、そこでは人は日頃と同じ行動を取るのが難しい。ウェザーのスーツによって呼吸や気圧が保てるのはせいぜい2分……これはつまり極限状況だ。ものや空気だけではなく、人の本性を隠す外面もまた引き剥がすのがこの無重力空間だと言える。そしてこの極限状況に追い込まれたのは徐倫やウェザーだけではなく、無重力を操る敵スタンド使いラング・ラングラーも同様であった。
 

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ラング・ラングラー「『ジャンピン・ジャック・フラッシュ』……最高だな、どんなヤツだろうと負ける気がしない」
 
ラング・ラングラーは強敵だった。それは無重力というスタンドの特性ももちろんだが、何より彼が冷静だったからというのが大きいだろう。今回も跳弾狙いと見せかけて撃ったドラム缶そのものがウェザーへの攻撃になっていたり、弾丸を防げる徐倫にはネズミを破裂させて目潰ししたりと常に効果的な手段を選択し相手を苦しめている。だが、その冷静さは実は表面的なものに過ぎない。無重力によって相手だけを極限状況に追い込んだことで発揮できるかりそめのものに過ぎない。
 

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ラング・ラングラー「この瓶の中の酸素みてーにッ!どんどん湧いてくるぜ!久々に人をブッ殺してえというあの時の気持ちがよォォーーッ!!」
 
徐倫の策に気付かず弾丸を発射し、それに巻き付いていた糸によって自らも無重力空間に――極限状況に追い込まれたラング・ラングラーは冷静さを奪われ、凶悪な本性を発揮する。それは大学の女教授を69回もナイフで刺して殺した、激情の殺人鬼の本性だ。血液の沸騰で膨れ上がって顔が変貌するのと同時にラング・ラングラーが荒っぽくなるのは、彼が冷静な戦士の仮面を剥がされゲス野郎の素顔を晒したのと連動した表現なのだろう。そして、この極限状況で晒される本性は更にもう一つ存在する。
 
 

3.むき出しの運命

無重力空間が本性を暴く極限空間であることは先に示した。そしてラング・ラングラーがさらけ出したのは偽りの冷静さではなく、人殺しを屁とも思わぬ外道の本性であった。対して徐倫達はどこまでも常と同じに、あるいはそれ以上の冷静な本性で立ち向かったわけだが、勝因はそれだけではない。
 

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ウェザー「やるよ……ヤツからDISCを取り戻すだけなら……十分使えるだろう……」
 
徐倫達は確かにジョジョらしく、あるいは主人公サイドらしく卓越した判断力を見せている。ウェザーを助けるため自分のスーツの破壊を瞬時に決断する徐倫にせよ、彼女に自分のスーツを与えて攻撃時間を確保しようとするウェザーにせよ、合理的と分かっていても実際には難しい行動を迷うことなく決断する意思の強さが二人にはある。だからこそ彼女達はホワイトスネイクにも勝てると豪語する強敵ラング・ラングラーを追い込めた。……しかし、それは決定的なものではない。
 

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ラング・ラングラー無重力を解除すれば空気がなだれ込んでくる。その衝撃で逃げられるかも知れない!無重力解除だッ!『ジャンピン・ジャック・フラッシュ』!」
 
無重力空間で瀕死のラング・ラングラーはついに無重力を解除するが、それは負けを悟ったり意識を失ったためではなくなだれ込む空気で逃げられるのを期待してのものだった。徐倫達はけしてチェックメイトまで追い詰められたわけではなく、勝利はあくまで可能性に過ぎなかったのだ。だが、蓋を開けてみればなだれ込んだ空気はラング・ラングラーを逃がすどころか徐倫の方に吹き戻し、彼女からトドメの連打を浴びさせる結果になった。
 

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徐倫「最初に解除していればよかったものを。この風圧に飛ばされて逃げられたかもしれないのに……」
 
ラング・ラングラーは一か八かの賭けに負けたのだろうか?いや違う。徐倫はもっと早く、ストーン・フリーとの距離が離れている内に無重力を解除していれば逃げられたかもしれないのにと可能性を指摘している。ゲス野郎の本性をさらけ出して徐倫を攻撃した瞬間、ラング・ラングラーは既に戻れない場所へ踏み出してしまっていたのである。
空気が徐倫の方へ吹いたのは偶然ではない。必然だ。徐倫もラング・ラングラーもけして狙ったわけではなく、しかしそうなるのが当然という理外の理――そう、運命という名の必然だったのだ。
 

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©荒木飛呂彦&LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社ジョジョの奇妙な冒険THE ANIMATION PROJECT
徐倫ストーン・フリーとお前との距離が遠い内に解除していれば……」
 
徐倫もラング・ラングラーもあわや死亡というところまで追い込まれたこの戦いは、様々なものの本性をあらわにした。無重力に適さない人間の体の本性、極限状況における判断力という人の本性、冷静さの下の思いやりや激情といった本性、そして持ちうる手立てを全て尽くせるかという戦いの本性……極限状況以外でなら繕える偽りの可能性を全て引き剥がしていった。
全てが無重力に、真空に吸い込まれていけば、最後に残るのはもはや理外の理とでも呼べるものしかない。他にできることが何もない状況になって起きた結果であれば、人はもはやそれを受け入れるほかない。"運命"だと考えるほかない。激闘の果てに待っていた空気の吹き戻す方向とは、まさしく運命としか呼びようのないものだった。他の全てを引き剥がしたからこそ、この戦いは運命によって決着したのである。
 

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徐倫「空気はお前をあたしの方に吹き戻してくれてるぞォォォォォ」
 
徐倫達とラング・ラングラーの戦いとは、運命の本性をむき出しにする戦いだったのだ。
 
 

感想

というわけでアニメ版ジョジョ6部11話のレビューでした。運命とは理外の理である、というのは前回既に出せた結論だったので、それをどう語り直せるかが今回のレビューを書く上で鍵となりました。8話のF・F戦でも見えた「正体(本性)」とも絡むものであり、こうやってみるとこの戦い、極限の戦いだったよなあと思います。
 
 
さて、中庭まであと少しというところでついに出会った徐倫プッチ神父(正体はまだバレてないが)。スタンド使いは引かれ合うものであり、ならばこれも運命という名の必然なのでしょう。次回の第1クール最終回、楽しみです。
 

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ウェザー「……小便がしたいのか」
徐倫「顔近づけて言うな。すげーマジなんだよ」

 

小便がしたいのかと確認する時もドアップで喋ることになるの、ウェザーの習性と状況の相性が悪くて笑ってしまう。
 
 

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