"ルパン三世"を盗む女――「ルパン三世 PART6」23話レビュー&感想

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©モンキー・パンチ/TMS・NTV
全てが盗まれる「ルパン三世 PART6」。23話ではついにトモエが姿を現す。母を名乗る彼女はルパンから、目に見えるより遥かに巨大なものを盗んでいる。
 
 

ルパン三世 PART6 #23「愛しの魔女の記憶」

レヴォンランドで銭形と鉢合わせたルパン。銭形は、自分がマティアを追ってここへ来たこと、アリアンナがマティアに襲われたことを語る。衝撃的な事実を受け入れられず、困惑するルパン。だが、銭形が携えたアリアンナのボイスレコーダー……その録音を聞いた瞬間、ルパンの脳裏に浮かぶ、いくつもの言葉たち。それらはルパンの記憶を揺さぶる、美しい思い出の断片だった。
 

1.トモエの術中、本作の術中

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©モンキー・パンチ/TMS・NTV
ルパン「行かなきゃならねえ」
銭形「行く?どこへだ!」
ルパン「母親んとこさ」

 

この23話は、トモエがこれまでの物語で何を仕掛けていたのかが明かされる回だ。崖下に落ちたと思われていたのは偽物であり、本物の彼女はその後も生きて多くの女性に暗示を行っていた。ルパンが第2クールで接した多国籍なゲストヒロインはみな花言葉を口にしていたが、潜在意識や記憶に関する分野のスペシャリストであったトモエは花言葉が揃った時ルパンの記憶が変化するよう仕組んでいたのである。最後のピースであるアリーの花言葉を聞いたルパンは突如として正気を失い、銭形や次元達にも容赦なく銃を向けるようになってしまった。
 

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©モンキー・パンチ/TMS・NTV
トモエ「歌の一節一節が、あなたのここに刻まれている……」
 
ドモエの仕掛けは幼いルパンの教育係だった頃からの、また視聴者からしても1クール丸々をかけた遠大なものだが、とはいえこれに驚かなかった人もけして少なくないだろう。花言葉が毎回引用されていることは以前から指摘されていたし、私のように花言葉に疎い人間でも16話の不自然な反応を見れば(「私の心は燃えている」というギャビーの言葉にルパンははっとするが、それは展開に何の影響も及ぼさない)そこに何か第2クール全体を貫く要素があるのではと勘ぐるには十分だ。しかしだからといって、これが底の浅いアイディアだと断ずることにも私は異を唱えたい。
 

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トモエ「私が選んだ女達は、私が教えた通りの人生を歩んだわ。そしてあの子と出会い、私とあの子を繋ぐ歌……あの子に正しい記憶を固着させるための歌を一節ずつあの子に伝えた」
 
花言葉、あるいはそうと気付かなくともゲストヒロインが印象的な一言を口にする度、私達の意識は該当回だけではなく第2クール全体へと飛ぶ。個々のオムニバスエピソードを楽しむのではなく、「女」をキーワードとした物語の中心にいるトモエに心を奪われてしまう。意識を書き換えられてしまうのだ。1話完結のエピソードと思いきや完全に本筋の一部であった前回が象徴的だが、『ルパン三世 PART6』の物語はいつの間にかトモエという女によって盗まれて・・・・いた。
 
ゲストヒロインやルパンだけでなく私達視聴者にも暗示をかけてきたのがこの第2クールであり、伏線に気付いていた人ほど実は本作の術中にハマっていた。そして、罠にかけられていたのはこれだけではない。
 
 

2."ルパン三世"を盗む女

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モリアーティ「まあ、これだけは言えるよ。ルパン三世は世界の全てを手に入れるほどのポテンシャルを持っている。そんな男が意のままに動くようになったら……怖いものなしだ」
 
前段で触れたようなメタ的な視線を持ち込む時、もう一つ大きな意味を持つのは教授ことモリアーティの言葉だ。彼は劇中こう指摘する。「ルパン三世は世界の全てを手に入れるほどのポテンシャルを持っている」……と。モリアーティとしてはおそらく、あくまでルパンの犯罪の才能を評価しこう言ったに過ぎない。しかし私達視聴者は一歩下がってこの言葉を見つめ直すことができるはずだ。
 
 

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©モンキー・パンチ/TMS・NTV

 

ルパン三世』は時代や描き手によって大きくその姿を変えてきた。モンキー・パンチによる原作でのルパンは非道も平気で行う悪党だったが、宮崎駿監督の『カリオストロの城』に見られるようなヒーロー然としたイメージも私達の中には根付いているし、昨今の作品では更にそこからの飛躍も図られている。ルパンをどう描くかによってイメージが変わるのが『ルパン三世』という作品なのであり、作品が変わるとはつまり"世界"が変わることだ。「世界の全てを手に入れるほどのポテンシャル」というモリアーティのルパン評は、ルパンが操作すれば劇中で信号も変わってしまうほど彼に依拠した作品世界の性質を見事に言い当てている。
 

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トモエ「私は人の意識が言語による思考の中で作られるという説に注目した。その説が正しければ、異なる言語を操るあの子はその数だけ異なる思考、意識を持つことになる」
 
時に義賊、時に悪党、エトセトラエトセトラ……本来相容れないはずの数多の人間像がルパンの中には同居している。それは例えるなら、異なる複数の言語の思考回路が一人の人間の頭の中にあるのと同じことだ。バイリンガルは例えば日本語で喋る時は日本語で、英語で喋る時は英語で思考しているという説がありトモエもこれに注目しているが、このPART6では「義賊言語」「悪党言語」「ロマンチスト言語」「リアリスト言語」といった様々な言語=思考を持つのがルパン三世だと再定義されているのである。
 

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トモエ「私もあらゆる言語を用いて、あの子の中にあるいくつもの思考回路をたどり全ての意識において教育を再構築してあげればいい」
 
ルパン三世を支配するならば、彼の持つ一つの言語だけではなく全ての言語を支配しなければならない。オムニバスエピソードによって見えるような、多様なルパン像の全てを支配しなければならない。だからこれまでの物語は全て欠かすべからざるものだった。本筋一直線では、けして本作はここにはたどり着けなかった。
異なる言語の女性でルパンの全ての言語=思考を再教育するというトモエの計画は、一見すると迂遠にすら思える。しかし、あらゆるルパン像を全て"盗む"手段として考えるのなら、このくらいのスケールはむしろあってしかるべきだったと言えるだろう。
 

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ルパン「一流の殺し屋ほど狙いどころは限定される。そいつが分かりゃあ急所をずらすことは可能だ、この俺ならな」
 
かくてトモエに"ルパン三世"であることを盗まれたルパンは彼女の走狗に成り下がる。胸を撃たれても急所を外せるような、世界の生死の法則を書き換えてしまうようなポテンシャルを発揮しながらも、その存在は決定的に面白みに欠けるものだ。やはり銭形には追いかけられながらも仲がよく、次元や五ェ門とはくだらないやりとりをし、不二子にはだらしなく鼻の下を伸ばすのがアニメにおけるルパンというものだろう。
ルパンは果たして、盗まれた己を取り戻すことができるのか。決着の時はすぐそこまで迫っている。
 
 

感想

というわけでルパン三世アニメ6期23話のレビューでした。すごいな、異なる人物像をパラレルワールドのものとして処理する手法は結構おなじみですが、一人の人間の中の別言語として扱ってしまうなんて。でも、考えてみると単言語の中でもそういったことはあるのかもしれません。家族には優しい人が職場ではパワハラ上司なんてことはよくありますし、心理学におけるペルソナと通じるところもある話なのかも。
 
さてさて、2クール続いたルパン三世の新作も次回でいよいよ最終回。ルパンがTV第1シリーズ以来となる緑のジャケットを着るのも納得の展開となってきましたが、いったいどんな結末を迎えるんでしょうね。楽しみです。
 
 

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