正気にては大業ならず――「異世界美少女受肉おじさんと」11話レビュー&感想

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© 池澤真・津留崎優・Cygames / ファ美肉製作委員会
かわいいは狂気の「異世界美少女受肉おじさんと」。11話ではカームの仕掛けた罠が思わぬ事態を引き起こす。今回は狂気が胸の奥を解き明かすお話だ。
 
 

異世界美少女受肉おじさんと 第11話「ファ美肉おじさんと決戦兵器」

シュバルツの活躍により反乱軍は壊滅。裏で手を引いていた魔王軍幹部のカームは、作戦続行のためユグレインと橘の力を利用し古代兵器メーポンを起動させる。
 
その圧倒的戦力に怯みながらも討伐に向かった神宮寺とシュバルツだったが、魔王軍に操られメーポンを動かしていた橘から攻撃を受けることに……。

公式サイトあらすじより)

 

1.正気か、狂気か

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ヴァンダム国王「あれは古代の国防兵器メーポン!あの愛らしい見た目で戦意を削ぐだけでなく、地形を変えてしまうほどの力を有する我が女神様からの賜り物だ!」
 
恋愛阻止のための魔王退治だとであるとか巨大イカ焼きであるとか一般的なファンタジー作品からすればふざけているかのような展開に満ちた「異世界美少女受肉おじさんと」だが、今回のふざけぶりは格別だ。何せ地下の兵器庫から巨大ロボット・メーポンが出現して王国を襲撃、しかも愛らしい見た目に反してその性能は、地形を変えるほどの巨大なビームを口から発射する凶悪なもの。王族が国の守り神として愛と美の女神から賜ったものだというから納得の代物である一方、やはりどうかしている。一言で言えばその存在は"狂気的"だ。しかし狂気的でなければ、正気であればまともかと言えばそれも疑わしい。
 

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兵士「調査によると全員が普通の暮らしに戻り……全裸で畑を耕しているらしいです」
カーム「なぜ全裸?」

 

例えばユグレインと橘の魅了によって反乱軍に加わった人々は前回シュバルツの聖剣グラムによって精神操作を解除されたが、彼らは今度は全裸で畑を耕す奇行に走っている。彼らは別に精神操作を上書きされたわけではなく、あまりにも爽やかな正気であればこそそんなことをしてしまうのだろう。
 

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シェン「彼の剣、なんでも切れるんですよね?じゃああのビームも切れるんじゃないですか?」
神宮寺「なるほど、それで行こう!」
シュバルツ「ええー!?」

 

また物理的ではなく概念的な切れ味の良さを持つらしいグラムはメーポン相手にも活用され見事に巨大ビームを切ってみせるが、そんなものを切るのは本来馬鹿げたことだ。合理的な、つまり正気のはずのこの対策は別の視点からすればどうしようもなく狂気に満ちている。
 

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カーム「言ったでしょう?力をつける、その方法を私が教えますと」
 
メーポンを見た神宮寺が困惑が過ぎて怒りを覚えたり、その奇抜なデザインから愛と美の女神との関係性を納得したりするように、度の過ぎた狂気と正気は正反対どころか互換すら可能な関係にある。そしてそれをもっともこじらせているのは誰あろう、メイド長に化けて王国に潜入していたカームによって精神を暴走させられた橘であった。
 
 

2.正気にては大業ならず

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橘「俺は神宮寺……お前を倒す!」
神宮寺「なぜ!?」

 

女神に肉体を作られた出自からメーポンの動力源として取り込まれていた橘はふとしたことで目を覚ましその操縦権を奪うが、その後に起きたのは事件の落着ではなく一層の混乱だった。橘はこれまで抱えていた神宮寺への劣等感をぶちまけ、なんと彼を攻撃してしまうのだ。
 

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橘「知らね―だろ神宮寺、俺がお前といてどんな扱いをされてきたか。金魚のフンだのコバンザメだの、周りの評価はそれはもう酷いもんだったぞ!」

 

橘の叫ぶ劣等感は馬鹿げたものだ。神宮寺が自分の優秀さを鼻にかけていたわけではないし、橘をバカにしていたわけでもない。けれど自分を取り柄のない人間だと自認し認識されている橘にとっては、神宮寺と一緒にいるだけで自分が惨めに感じられてしまう。そういう劣等感は馬鹿げていると分かっているほど口には出せず、その分だけ積もり積もってしまうものだ。つまりこういった気持ちは正気では吐き出せず、解決できない。これまでの物語でも起きている事件そのものは解決しても、橘が自分に感じる無力感は強まるばかりだった。
 

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橘「金魚のフンだって言われるのもお前と並び立てるものが無いからだ!いくら見た目がかわいくなったって、お前にとって無価値なら何の意味もない!」

 

正気であること――冷静さや論理性は絶対的な正義のように扱われることもあるが、人はそれだけでは全ての壁を突破できない。橘が抱え続けた劣等感を吐き出すには、カームの術によるような暴走が、"狂気"が絶対に必要だった。暴走して我を忘れているからこそ、橘は自分の思いを正直に口にできている。それが単なる劣等感ではなく、神宮寺と一緒にいられる自分でありたいからだと口にできている。
 

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橘「俺が今こんなに苦しいのも、お前が友達であることぐらいしか自慢できない……何もない人間だからだ!」
 
本気(正気)にては大業ならず。橘は肉体(美少女受肉)に加え精神まで狂気に冒されたことで、正気ではたどり着けなかった自分にたどり着きつつある。では正気の権化(故に狂気的)とも言える神宮寺はいかにしてそれに応えるのか。最終回の彼の行動は目が離せないものになりそうだ。
 
 

感想

というわけでファ美肉おじさんのアニメ11話レビューでした。今までで1番書きやすかったな。毎度の高度に発達したうんたらかんたら、当初は「大人と子供」かな?と思ったのですが、整理したら正気と狂気になりました。まさかこの作品でシグルイ葉隠)引用するとは思わなかったですが、これまでを振り返るとむしろ納得かも。
次回はいよいよ最終回ですが、どういうオチを付けるのか。楽しみに待ちたいと思います。
 

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変装とはいえ楽しそうな眼鏡っ娘が見られてありがたいです。
 
 

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