強敵がくれた奇跡――「BIRDIE WING -Golf Girls' Story-」1話レビュー&感想

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©BNP/BIRDIE WING Golf Club
彼方を撃ち抜く「バーディーウィング」。始まりは二人の少女の出会いから。1話は無敵の賭けゴルファーが本当にゴルフができるまでのお話だ。
 
 

BIRDIE WING -Golf Girls' Story- 第1話「レインボー・バレット」

ヨーロッパの一国、ナフレス。スラムに住むイヴは、共に暮らす仲間との生活ため、賭けゴルフで稼いでいた。イヴの得意技は、「直撃のブルー・バレット」をはじめとするパワフルで豪快なショット。その腕前から、“レインボー・バレットのイヴ”と呼ばれている。ギリギリの勝負でないと燃えない性格で、強気な攻めのゴルフであらゆる勝負に勝ってきた。そんなある日、イヴは日本から来た天才ゴルファー・天鷲葵と出会う。2人が出会う時、運命が動き出す――!
 

1.ゴルフのできない賭けゴルファー

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©BNP/BIRDIE WING Golf Club
イヴ「直撃の……ブルーバレット!」
 
賭けゴルファーが本当にゴルフができるようになるまでの話。冒頭で私はそう書いたが、もちろんこれはおかしな話だ。ゴルフで賭けをするから賭けゴルフなのだし、主人公の少女イヴはその世界で"レインボー・バレット"として名を馳せる名手。今回もプロやジュニアチャンピオン相手の賭けゴルフで勝利を収めている。……だが重要なのはそこだ。イヴがやっているのは"賭けゴルフ"であって"ゴルフ"ではないのである。
 

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©BNP/BIRDIE WING Golf Club
エレーヌ「棄権するって言ったの。あなたのゴルフに付き合ってたらこっちの調子がおかしくなってしまう」
 
1話で描かれる賭けゴルフの試合、イヴの対戦相手のプロ選手・クリスやジュニアチャンピオンのエレーヌがゴルフクラブを振るう姿はほとんど描かれない。当然と言えば当然だろう、少年漫画よろしく「直撃のブルーバレット」なる常識外の技を使うイヴの前に二人は戦意喪失し棄権してしまうのだから、その程度の相手のショットはわざわざ描写する必要がない。イヴと二人の間では、そもそもゴルフが成立していない・・・・・・・
 

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©BNP/BIRDIE WING Golf Club
イヴ「私はプロなんかじゃない、ゴルファーでもない。金を稼ぐために棒っ切れで球を叩いてるだけ」
 
イヴは自分がゴルファーであることを否定し、自分がやっているのは金のための球叩きに過ぎないと言う。また彼女は回想の中で自分にゴルフを教えた男の「相手の心を一打で撃ち抜け」という教えを反芻するが、これは1対1で争う賭けゴルフの心得であって複数人が競うゴルフの心得ではない。だから生粋のゴルファーであるクリスやエレーヌとイヴの間で歯車が噛み合うわけもなく、二人は途中で降りてしまう。ゴルフが成立する前に全てが終わってしまう。イヴは賭けゴルファーとしては間違いなく一流だが、皮肉なことにそれが彼女をゴルフから決定的に遠ざけているのである。
 
 

2.求めてやまぬ好敵手

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イヴ「稼がなきゃ……あの子達を街角には立たせない」
 
賭けゴルファーとして一流であるが故にゴルフができない。この矛盾にイヴは耐えてはいるが、受け入れることまではできていない。彼女が賭けゴルフをするのはスラム街に一緒に住むクラインや難民孤児の子供達と暮らしてゆくための、生存のための手段であって、相棒のリリィにとってのガンプラのような"趣味"ではない。だが同時に彼女は、自分と勝負が――ゴルフが成立する相手に飢えている。
 

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©BNP/BIRDIE WING Golf Club
リリィ「イヴはあんたのこと舐めてるわけじゃないから。めんどくさい子でさ、ギリギリの勝負じゃなきゃ燃えないんだって」
 
イヴは脚を負傷しているクリスのハンディを埋めるため一打目を素人のリリィに打たせたり、棄権しようとするエレーヌを挑発して引き留めようとする。これは単に彼女が傲岸不遜な人間であることを意味しない。"賭けゴルフ"だけを考えるなら、わざわざリスクを背負ったり相手に打たせ続ける意味はないからだ。イヴはギリギリの勝負でなければ燃えないのだとリリィは言うが、それは賭けゴルファーの自分と対峙してもなおゴルフを成立させてくれる相手を彼女が求めてやまない証明なのである。そして遂に出会ったその得難い相手こそ、1話ラストで彼女に勝負を申し出た少女・天鷲葵であった。
 
 

3.強敵がくれた奇跡

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葵「よろしければ、私と一緒に回りませんか?」
 
エレーヌの棄権で宙ぶらりんな状態に置かれてしまったイヴの前に現れた少女・天鷲葵。彼女は一見するとイヴと対照的な存在だ。大企業グループの令嬢という身分、いかにも清楚といった風貌、ゴルフを神聖とみなす姿勢……貧しく野性的で、賭けゴルフをするイヴとは対極の場所に葵はいる。
しかし一方、彼女はイヴによく似てもいる。疲れをものともせずゴルフクラブを握ろうとする姿勢、キャディを務める雨音に言わせれば普段どおりにプレーすれば大会での優勝は盤石だという高い実力。そして何よりイヴに似ているのは、葵は彼女同様に常識外の存在であることだ。
 

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イヴ(こ、このドライバーのシャフト、48インチ……!?私と大差ないその体で48インチを……?ありえない!)
 
葵のドライバーのシャフトの長さはなんと48インチ。剣豪佐々木小次郎の愛刀・物干し竿がその長さで知られたように、長いものを扱うには筋力も技術も通常以上のものが求められる。イヴとさほど体格の変わらぬ葵がそんなものを扱うのは本来馬鹿げているし、しかしその一打はイヴのそれ以上の飛距離を叩き出すものだった。ただの一打ではなく、木の枝をへし折る威力を持つ「直撃のブルーバレット」で放たれた一打をだ。
 
葵はイヴの一打を越えた瞬間、少年漫画の主人公のような力を持つイヴに匹敵する常識外の実力を自分が備えていることを証明してみせた。そしてそれは「賭けゴルファーの自分ともゴルフを成立させてくれる好敵手」という、求めてやまない相手とイヴが出会えた瞬間でもあった。
 

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イヴ「絶対に撃ち抜いてやる、この私の虹色の弾丸で!」
 
葵との勝負に闘志を燃やすイヴの瞳は輝き、1話は彼女が再びゴルフクラブを振るう場面で幕を下ろす。プロゴルファー相手にハンデを与えても、ジュニアチャンピオンを挑発してもイヴが得られなかった、これまで味わったことのない至福のひとときがそこには待っている。
イヴにとってこれは、自分が本当の意味でゴルフができるようになった奇跡の瞬間なのである。
 
 

感想

というわけでバディゴルの1話レビューでした。割とシンプルなテーマなので書けるかなと不安もあったのですが、始めてみると全体との適合率がどんどん上がっていきました。技名を叫んじゃったりする作風にもなんだか納得できた気がします。こうなるとシンプルなことが足腰の強さにも繋がってそうで期待が高まりますね。唐突なガンプラとかバンナム関係らしいネタが入ってるのも地味に笑いました。クリス・クリスティナの変名がCCってコードギアスネタも入ってるのかしらん。公式サイトを見ると癖の強いキャラが多数登場するようですが、物語がどこに着地するのか楽しみに見ていきたいと思います。
 
 

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