まちカドまぞくはズレている――「まちカドまぞく 2丁目」1話レビュー&感想

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©伊藤いづも・芳文社/まちカドまぞく 2丁目製作委員会
光と闇の「まちカドまぞく 2丁目」。1話は前期の終わり、決闘を申し込んだシャミ子と遊びと勘違いした桃のズレたやりとりから始まる。この作品は徹底的に、どこまでもズレた作品だ。
 
 

まちカドまぞく 2丁目! 第1話「対決ふたたび!魔法少女の新たなる姿!?」

1学期が無事に終わり、明日から夏休み。シャミ子は、桃に決闘を申し込もうと果たし状を出すものの、遊びに誘われたと勘違いした桃と本当に遊びに行くことに。夏休みが始まり、ミカンがシャミ子の隣に引っ越してきた!それを知った桃は…

公式サイトあらすじより)

 

1.どこまでいってもズレたまま

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©伊藤いづも・芳文社/まちカドまぞく 2丁目製作委員会
冒頭がそうであるように、この1話はズレたやりとりばかりの話だ。添削してもらった果たし状がかえって意味の分からないものになったり、人の住んでいる家が廃墟とばかり思われていたり、ツッコミを入れられるのに慣れて褒められるのが物足りなく思える人がいたり……もちろんズレっぷりはコメディの基本ではあるが、本作のそれはほとんど常時発生していると言えるほどだ。全体を包むほんわかした雰囲気がなければとっくに破綻していることだろう。だがそもそも、本作がズレているのはやりとりに限った話ではない。
 

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©伊藤いづも・芳文社/まちカドまぞく 2丁目製作委員会
桃「場所決まってないならぶらつこうか。ここだと何もないし、間が持たない」
シャミ子「間を持たせる必要があるんですか?奥が深い……」

 

本作の主人公・シャミ子は魔族の力に目覚めた少女であり闇の存在。そんな彼女に対峙する同級生の桃は魔法少女であり光の存在。対極に位置する二人はむしろ争うのが正しく、一緒に遊ぶなどというのは馬鹿げている。ズレている。ズレているにも関わらずシャミ子と桃は一緒にいることが――つまり噛み合う・・・・ことができている。割れ鍋にとじ蓋という言葉もあるように、整ったものでなければ調和が得られないわけではないのである。
 
 

2.一面の整合、多面の調和

整うことが調和への道とは限らない。これは1話で見られる、整合性の起こす問題や矛盾からも見て取ることができる。
 

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©伊藤いづも・芳文社/まちカドまぞく 2丁目製作委員会
シャミ子「あ、あれ?なんか桃、元気なくなりましたか?」
 
例えば桃はシャミ子の手紙を遊びの誘いだと勘違いしており誤解は程なく解けたが、本当は決闘のつもりだったと知った彼女の目に見えた落胆ぶりにシャミ子は逆に慌ててしまった。意図が通じズレが解消されたにも関わらず、自体はかえって混沌としてしまったのだ。
 

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©伊藤いづも・芳文社/まちカドまぞく 2丁目製作委員会

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©伊藤いづも・芳文社/まちカドまぞく 2丁目製作委員会
シャミ子「お詫びと約束の印に、せっかくショッピングに来たし……これ、差し上げます!」
 
またそんな桃の様子に予定を変更して一緒に遊ぶことにしたシャミ子は、彼女に髪留めをプレゼントする。シャミ子としては髪留めだけでも桃を闇落ちさせたやった……というつもりにすぎないが、後日でもその髪留めを付けている桃の様子からは単なるアクセサリー以上にこのプレゼントが心を掴んでいるのは明らかだ。もともとシャミ子の目的は桃を自分の眷属として闇落ちさせることにあったのだから、予定からズレたこの一日は決闘よりもよほど目的に噛み合った・・・・・成果をあげていると言える。
 

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©伊藤いづも・芳文社/まちカドまぞく 2丁目製作委員会
桃「いや、なんか……浮かれフルーツポンチだった自分を恥じてるだけだよ。なんだろうねこの尻尾……」
シャミ子「どうしよう、桃が別の意味で闇に落ちてる!」

 

劇中、自分の勘違いに気付いた桃の落胆をシャミ子は「別の意味で闇落ちしている」と評したが、ここにはズレていないこと=整合性と、噛み合うことと=調和が同じものではないことがよく現れている。闇落ちという言葉の上では桃の様子は整合性が取れているが、それはシャミ子の目的と調和していない。整合とは一面的なものの見方に過ぎず、調和とはもっと多面的な釣り合いの上に成り立っているのである。
 
 

3.まちカドまぞくはズレている

一面的にはズレて整合性が取れていなくとも、多面的には噛み合って調和が取れている。そういうことは実際は珍しくない。例えばズレたやりとりの象徴であったシャミ子の手紙にしてからがそうだ。
 

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©伊藤いづも・芳文社/まちカドまぞく 2丁目製作委員会
浅瀬先生「文字に気持ちを込めればシャミ子さんの熱意は伝わる!」
 
シャミ子の手紙の意図は果たし状であり、その目的は桃を破り己の眷属として闇落ちさせることにあった。だが、そもそも彼女が桃を眷属にしようとしたのはなぜだったか? 桃が放っておけないからだ。彼女のことが大切で、彼女と一緒にいたいからだ。原点に立って考えれば添削してもらって意図からズレてしまった手紙は、それを桃が遊びの誘いと受け取った結果は、シャミ子の本心とむしろ噛み合って・・・・・いる。
 

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©伊藤いづも・芳文社/まちカドまぞく 2丁目製作委員会
リリス「はっはーん?桃よ、もしや寂しいのか?寂しいのか?」
 
「自分のことは自分が一番よく分かっている」などと言う人もいるけれど、人は自分がうぬぼれるほど己を把握していない。数年経って振り返って初めて、その頃自分が本当に求めていたものが何か気付くなどということは珍しくない。自意識と心はズレてしまっている方が自然で当たり前なのである。なら、人の目の前にあるものはいっそ自意識からはズレていた方がいい。自意識との整合などという一面的な一致ではなく、心との多面的な調和の可能性はむしろズレの中にある。
 
 

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©伊藤いづも・芳文社/まちカドまぞく 2丁目製作委員会
清子「なんと桃さんが牛肉を見る権利をくれました!拝みましょう!」
桃「違います、普通に食べてほしくて持ってきたんです!」

 

まちカドまぞくはズレている。主人公のシャミ子が闇の魔族なのも、彼女が魔法少女の桃と一緒にいることも、そんな二人の間で始まるのが宿命の"戦い"ではなく"夏休み"なことも。けれどだからこそ本作に調和は生み出されていて、それが私達読者・視聴者の心を掴んで離さない。
 

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©伊藤いづも・芳文社/まちカドまぞく 2丁目製作委員会
桃「弱点を宿敵に教えていいの?」
シャミ子「良くないけどお肉のお礼だ!」

 

人も作品も世界も、ちょっとズレているくらいがちょうど噛み合うものなのだ。
 
 

感想

というわけでアニメ版まちカドまぞく2期1話レビューでした。およそ2年ぶりの再会でだいぶ忘れている部分があり最初はちょっと戸惑ったのですが、とっかかりを見つけられたら一気に考えがまとまってホッとしました。
 
小原好美さんのシャミ子の舌足らずな感じが相変わらずとてもかわいいですね。「カーッ」みたいな変化球も含め聞いていて気持ちいい。あとレビュー中では触れる機会がありませんでしたがミカンのいい感じの取り持ちぶりや、シャミ子母こと清子さんの貧乏生活慣れなんかもクスリとさせられることが多く本当に楽しいです。劇中の夏休み、シャミ子達が何を見つけていくのか?期待して見ていきたいと思います。
 
 

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