回り道の魔力――「まちカドまぞく 2丁目」2話レビュー&感想

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©伊藤いづも・芳文社/まちカドまぞく 2丁目製作委員会
まっすぐ進まない「まちカドまぞく 2丁目」。2話では桃の姉の手がかり探しから意外なものが見つかる。大事なものは直線上にあるとは限らない。
 
 

まちカドまぞく 2丁目 第2話「廃墟捜索!わけありみかんとわくわくまぞく」

吉田家のテーブル替わりに使われている段ボールに見覚えのあるミカン。「その箱...... うちの実家の工場で使っている箱とおそろいだわ」父・ヨシュアの手がかりを探すべく、シャミ子たちは廃墟と化したミカンの旧実家を探索することに。そこで深まる父の封印の謎、そしてシャミ子が手にしたものとは―。
 

1.回り道する回

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©伊藤いづも・芳文社/まちカドまぞく 2丁目製作委員会
桃「え、こんなコーナーあったっけ?」
シャミ子「今回だけだと思います」

 

この2話は小話の多い話だ。アバンからしてミカンのナビゲーターの話であるとか制服の小話から始まるし、桜の手がかりを求めて訪れたミカンの旧実家、廃工場でシャミ子が聞く昔話なども小話に分類できる。挙句の果てには完全に話をぶった切って「今日の杏里ちゃんと小倉さん」などというコーナーまで始める始末で、とにかく物語が直線的に進行せず、ことあるごとに回り道している。また今回はシャミ子が父の使っていた魔法の杖を見つける話でもあるが、それは彼女達が一番に探していた桃の姉・桜の「コア」なるものではないから、この発見自体が回り道しているとも言える。
 

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ミカン「聞きたい聞きたい?」
シャミ子「超聞きたいです!鬼桃が来る前に早く話して!」
ミカン「そうよねわたしも話したい!」

 

回り道の多い話。まっすぐ進まない話。ただ、だからと言ってこの作品の魅力が損なわれているかと言えばそんなことはない。アバンの小話や昔話は挿入のタイミングが配慮されているし、桃が来る前に彼女の昔話を聞きたい・話したいと盛り上がるシャミ子やミカンはとても楽しそうで愛らしい。解放感でつい寄り道したくなる帰り道がそうであるように、回り道には近道とは違う"魔力"が備わっている。
 
 

2.一人ぼっちにならないとは

回り道には近道と異なる魔力が備わっている。それはつまり、どちらが適切になるかは時と場合によるということだ。
 

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ミカン「パパの望みは工場と家族を守ること。見様見真似の作法と裏道の触媒で呼び出された悪魔が結構キテる存在だったの」
 
一例として今回の昔話では、ミカンの父がかつて工場の経営に行き詰まって悪魔を呼び出したことが語られている。悪魔の持つ超常的な力が事態を切り抜ける最短距離であると、近道であると考えたわけだが、なんと悪魔は願いを超解釈してミカンに呪いをかけてしまった。ミカンの父は近道を進もうとして落とし穴に落ちてしまったのだ。
 

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また呪いにかかったミカンは自分がきっかけで他者が傷つくにっちもさっちもいかない状況に陥り、それを防ぐため工場の倉庫に引きこもってしまった。これは被害を防ぐことだけを考えれば最善ではあるが、そこではミカン自身の心や体への気遣いは置き去りにされている。最短の近道であるが故に、切り捨てられてしまっている。
 

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ミカン「パパは大きな望みをラクして叶えようとしちゃったのね。そこが付け込みポイントだったのよ、近道で叶う望みなんてまがい物なのに」
 
人は追い詰められた時ほど近道を選びたくなるものだが、それはしばしば何かを切り捨てているし落とし穴に落ちるきっかけになってしまう。例えばこの国は「経済が最優先だ」という考えをもとに新卒採用を絞ったり政治家の不正追求を後回しにしたり、「本当に困った人」だけを助けようとしてきた。それが経済のための最短距離、近道と考えられたからだ。しかし振り返ってみればそれらはむしろ大きな悪影響を与えてきたし、どころかこの国は今後ますます貧しくなっていくことが確実視されている。近道を進もうとして切り捨てて、落とし穴に落ちてしまったのだ。
 

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桃「普通に開いたよ?」
ミカン「壊れてる!」

 

近道はけして悪いことばかりではない。技術の発展とは速さや効率の近道を求めるものだし、近道を求めた過剰な行動が分厚い壁にヒビを入れる力を持っていることも否定できない。例えば先程の昔話では桃はミカンのいる倉庫の鍵を物理的に壊して中に入ったが、これは近道が効果的に機能した例に挙げられるだろう。彼女がミカンを説得できる理由が『魔法少女で強いから呪いで危害が加えられそうになっても大丈夫』というのもなんとも力技=近道ではある。ただ同時に、ミカンに手を差し伸べた桃はこうも言っている。
 

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桃「泣いてもいいから、一人ぼっちにならないで」
 
桃が止めた「一人ぼっち」とはもちろん、物理的に一人になることではない。桃が止めたのはミカンが思い詰めてしまうことだ。「こうするしかない」とたった一つの考えに凝り固まってしまうこと――近道だけが正解だと自分の思いを一人ぼっち・・・・・にしてしまうことだ。悪魔のかけた呪いはこの後桃の姉・桜によって沈静化したが、ミカンを一人ぼっちの"呪い"から解放したのはむしろ桃のこの言葉の方であったろう。桃はミカンに回り道を教え、また自らも回り道をすることで彼女を救ったのである。
 
 

3.回り道の魔力

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回り道には近道とは違う可能性がある。それを考えた時、シャミ子の存在には大きな可能性がある。何せ彼女は勉強も運動も苦手だし、まぞくとしてもあまりに貧弱。どうあっても"回り道"を進まざるを得ないのがシャミ子だからだ。
 

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シャミ子「桃……強い武器は重い……」
桃「……そうだね」

 

シャミ子は近道を進めない。今回彼女が手に入れたのは魔力を乗算的に増幅し、棒状のものならなんでも変形できる便利な杖であったが、彼女の貧弱な武器イメージではフォークになってしまったり強い武器にしても重くて扱えなかったりする。妹の良子や桃のように斬馬刀、ロケットランチャーといった武器らしい解にはけしてたどり着けない。
 

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シャミ子「桃、見て!インクがいっぱいのボールペンに変身しました!」
桃「そうだね、ボールペンだね。絶対なくさないでね」

 

しかし一方で、近道できない故にシャミ子の発想は自由だ。武器に囚われないからこそ杖をインクがいっぱいのボールペンやスコップにできるし、桃を笑わせるための道具に使えないかとすら考える。そもそもシャミ子が桃を笑わせようとしたのは彼女の満面の笑顔を見たことがないからだが、これはもちろん本筋(最短距離)である桜探しとは関係ない。桃を笑顔にしたいと考えられるシャミ子の優しさは、それ自体が回り道の発想なのである。
 

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シャミ子「桃の笑顔が見てみたい。笑ったらかわいいだろうな」
 
人は近道だけでは目的地にたどり着けない。シャミ子の優しさは武器からは縁遠く、しかしそうやって回り道を通るからこそ何より強力な武器になる可能性を秘めている。
私達の持つ可能性とは、近道も回り道もあるからこそ無限に広がっているものなのだ。
 
 

感想

というわけでまちカドまぞく2期2話のレビューでした。すみません。単純に疲労でくたばっておりました。最初は「回り道こそ大事」だったのですが、書き進めてみるとむしろ両方あるのが大事だよねという方向に軌道修正。バランスが取れたんじゃないかなと思います。小倉さんのホムンクルス粘土もいずれシャミ子の役に立つんだろうか……
 

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シャミ子「桃、見て。スコップ!」
 
かわいい以外の感情が浮かばない。
 
 

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