変貌の「境界戦機」。15話では様々な新事実が明かされる一方で謎が深まりもする。物語が次に取り戻すべきものは、いったいなんだろう?
境界戦機 第15話「再会」
1.ミスズとアモウ
ミスズ「その後の調査で、ゴーストが初めに姿を消した件やガイが草むらにいた件についても彼が裏で糸を引いていたことが分かりました。多分、その頃から計画していたのかと……」
今回は1期の裏側が色々と見えてくる話だ。失踪していた八咫烏の整備主任・慎ミスズが実はガイやゴーストを開発した機関トライベクタの代表であったこと、アモウが生還できたのは彼女のおかげであったこと、ブレンゾン社の窓口担当として八咫烏に接触していたジェルマン・ゴベールがゴーストを巡る騒動の黒幕であり、ブレンゾン社すら裏切って独自組織を立ち上げていたこと……北米同盟の伸長による目に見える境界線の動きが語られていたのが前回なら、今回は水面下の見えない境界線の動きが明かされた回として捉えることができる。そう、境界線の動きは見た目通りとは限らない。これを分かりやすく教えてくれるのが今回正体を明かしたミスズの存在だ。
ミスズ「わたしの本名は慎・ミスズ・アネット。ブレンゾン社と提携しているAI開発機関、トライベクタの代表と開発主任を務めております」
既に書いたように彼女の正体はガイやゴーストを開発した機関トライベクタの代表、見ようによっては自律思考型AIを巡る事件の元凶とすら言えるものだった。慎・ミスズ・アネットの本名を名乗り、作業服ではなく研究者然とした白衣に身を包んだ彼女は今までとはほとんど別人のようにも見える。
ミスズ「ナユタ達の成長を間近で見たくて。技術者魂?みたいな?」
だが素性が知れたからと言って、今までのミスズが嘘だったかと言えばそれも誤りだ。ゴーストの暴走を止めたかった思いも、AIの成長を間近で見たかったから八咫烏に潜入していた好奇心も、再会に涙するシオンをなだめたり部下のタケルとコミカルなやりとりをする様子も1期で見えた奔放な彼女の姿を裏切るものではない。見た目や立場こそ変わっても、あくまでミスズはミスズのままでいる。……そして、これは同じく8ヶ月ぶりに姿を現したアモウと対を成している。
2.取り戻すべき心
正体を明かし白衣に身を包んだミスズに対し、同じく8ヶ月ぶりに姿を現したアモウの外見的な変化は小さい。着ている服は違うがファッションとしての系統がさほど変わったわけではないし、顔に傷が残っているだとか体がサイボーグ化されているなどと言ったこともない。何があったのか聞かれても拒絶とも言えぬあいまいなはぐらかし方をする様子からは彼の性格が激変したわけでもないことが伺える。見かけ上はアモウは変わっていない。だが、見かけと内実が一致しないのは既にミスズの例で示されている。
ミスズ「見た目は同じだけど中身をちょっといじってあるからねえ。超長距離狙撃も可能だよ!」
見かけが同じであれば中身も同じように人は錯覚しがちだが、実際は水面下で境界線は大きく動いている。例えば前回ガシン達を追い詰めた北米同盟のブランク大尉は戦力を1.5倍にして臨めば今度こそ彼らをすり潰せると考えていたが、アモウのケンブ斬はおろかガシンのジョウガンやシオンのレイキにまで痛撃を受け前回以上の損害を被る結果となった。見た目は前回と同じにも関わらず、だ。物資の補充による行き届いた整備やバージョアップされた武器・機体性能、更には連携によって、彼らの戦力は見かけと異なり別物になっていた。
アモウは見かけ上は確かに変わっていない。ブランク大尉に対しても即座に殺そうとはせず、もう自分たちを追ったり人々を傷つけないよう約束するなら攻撃しないと警告する優しさは間違いなく彼特有のものだ。しかし一方、アモウはそれを拒絶したブランク大尉をためらいなく殺しもした。ケンブの突き立てる剣がアメインではなく顔を見た人間を直接殺傷するものと知りながら、迷うことなくそれをやってみせた*1。自分の死以上に知り合った人の死を恐れるような、知らない誰かの死にまで想像の手を伸ばすような少年だったアモウがである。
本作が戦闘を取り扱った作品である以上、アモウの行為を立派になったと称賛する人もいるだろう。だが行為の是非はどうあれ、今のアモウからはかつて彼の中にあった何かが失われてしまっている。戦線に復帰し見かけ上の境界線は取り戻せていても、そうした己の変化を仲間に語れぬアモウの心の境界線はむしろ後退すらしているのだ。
境界線は目に見えるものだけとは限らない。領土ではなく暮らしや心を取り戻そうとしてきたこれまでの物語がそうであるように、本作はまずアモウの心を取り戻さなければならないのである。
感想
というわけで境界戦機の15話レビューでした。13話でミスズの出番がなくて残念に思ってたのですが、こんな正体だったのですね。中身の方は相変わらずで安心しました。次回予告を見るとアモウに何があったかはまだもう少しお預けなのかな。とりあえずはブラッドとアレクセイの対決がどんなものになるのか見てみたいと思います。
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取り戻すべき心――「境界戦機」15話レビュー&感想https://t.co/Pf4oMmHvxr
— 闇鍋はにわ (@livewire891) April 19, 2022
見た目が変わっても中身が変わらないミスズと、見た目は同じでも変貌しているアモウを対比して考えた話。#kk_senki#境界戦機#アニメとおどろう
*1:「相手がザクなら人間じゃないんだ!」と自分をごまかすこともできない