繋がりは隔絶の先――「境界戦機」16話レビュー&感想

©2021 SUNRISE BEYOND INC.
離れ難き「境界戦機」。16話ではゴースト搭載機の初陣やアモウの秘密に迫る様子が描かれる。この2つの描写は分かれているが、離れてはいない。
 

境界戦機 第16話「激闘」

1.好敵手と書かなければ友と呼べない

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「激闘」の副題が示すように、16話はバトルの比重の大きい話だ。ゴースト搭載の新型を駆る北米同盟のブラッド・ワット大尉と大ユーラシア連邦のアレクセイ・ゼレノイ少佐の戦いが描かれるが、ポイントとなるのは二人の互いへの理解度の深さだろう。共に指揮官としてもパイロットとしても優秀な彼らはこの戦い、事あるごとに相手を称賛しその上を行こうとする。湿地帯や部隊展開に短時間で対応する学習能力、性能で劣るアメインを使用しながら肉薄する戦術や操縦技術……ブラッドとアレクセイの戦いぶりは好敵手の間柄と呼ぶにふさわしいものだ。だがだからと言って、もし同じ陣営に所属したら良い友人になれたはず……とまで考えるのは早計過ぎる。
 

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カートランド「我々だけでも勝てると言うのに……」
 
今回の戦い、当初アレクセイと対峙していたのはカートランド中尉という男だったが、彼は同じ北米同盟のブラッドが増援として派遣されるのを快く思っていなかった。開発局と組んで何かを企んでいるブラッドに戦場をかき回されるのを嫌って功を焦り、かえってアレクセイの罠で窮地に陥りすらした。カートマンは同じ陣営に属する味方のはずのブラッドに、むしろ敵に対する以上の対抗意識を抱いてしまっていたのである。
 

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ブラッド「やるな!優秀な指揮官のようだ、アレクセイ・ゼレノイ!」
 

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アレクセイ「強敵だからこそ、命を懸ける価値がある!」
 
所属が同じであったり近くにいるとしても、心まで繋がっているとは限らない。前回ブラッドの忠告をふいにして命を落としたブランク大尉もそうだが、なまじな距離の近さはかえってわだかまりも生むものだ。ブラッドとアレクセイが今回素直に相手を褒めているのは、そうした厄介な距離の近さがないからこそだろう。
 

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ブラッド「人間の反応速度を超える要求をしてくるとは……!」
 
また先に書いたようにブラッドの乗機は今回から自律思考型AI・ゴーストが搭載されているが、ゴーストは兄弟であるガイ達のようにパイロットを気遣った指示を出したりしない。一度に大量の敵をロックしたり人間の反応速度を超えた動きを求めるなど、その戦い方はじゃじゃ馬ぶりを想定していたブラッドですら神経をすり減らされるほど苛烈なものだ。しかしだからと言って参ったりしないブラッドも相当なもので、彼は最終的にはゴーストの指示を上回る攻撃をアレクセイのアメインに叩き込んでみせる。
 

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ブラッド「その程度かゴースト!私はその上を行く!」
 
ブラッドとゴーストのコンビには、運命共同体でありながら信頼関係はない。しかし一切の遠慮がない、ただただ互いに高次のものを求めるこの距離の遠さこそ彼らの高い戦闘力の源泉なのである。
 
 

2.繋がりは隔絶の先

距離の近さと心の近さは比例しない。ブラッドとアレクセイを始めとしたこの心の機微は、当然アモウ達にも当てはめられる。
 

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アモウ「……ごめん」
 
アモウは確かに八咫烏へ戻ってきた。消息不明だった8ヶ月間と違い、彼はガシンやシオンの目の届くところにいる。しかしそのことはかえってアモウのよそよそしい態度を際立たせ、二人は彼との間に生まれてしまった溝を――境界線を感じずにはいられない。
 

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ミスズ「変わってないなあシオンは。大丈夫、アモウくんも変わってないよ」
 
近づいたからこそ、3人は隔たりを感じている。だがそれに悩むシオンの話を聞いたミスズが指摘したのは、シオンもアモウも以前と変わらないということだった。かつての間柄から離れてしまったように見えてもむしろ互いに互いを気遣っていると、心は近くにあると彼女は励ましたのである。
 

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シオン「あの……えっと……えっとね……」
 
人と人の距離が離れるのは、相手を嫌いになった時とは限らない。相手に引け目を感じたり、気遣う故にどう接していいか分からなくなった時にもコミュニケーションは上手く行かなくなってしまう。近いからこそ境界線が生まれ、そしてそれは心からの拒絶を意味しない。この16話の冒頭にしても、シオンがアモウに話しかけながら何も言えなくなってしまったのは彼のことをよく考えていたからこそだった。
 

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ガシン「ごめんじゃないんだよ!そんな言葉はいらねえ、謝ってほしいわけじゃねえ!辛いんだろ、苦しんでるんだろ。言えよ、吐き出せよ!聞かせてくれよ!」
 
新たな八咫烏の本部でガシンとシオンは改めてアモウに事情を尋ねようとし、頑なな彼の抱えた悩みを吐き出させようとする。黙っていても苦しいのは伝わっているのだと、心を閉ざしたままの謝罪が聞きたいのではないのだと――友達だから聞かせてほしいと。ぶっきらぼうで人に心を開こうとしなかったガシンがそんなにも必死になるのは、彼にとってアモウがとても近い存在になっているからだ。にも関わらず遠く離れているのが耐えられないからだ。仲良くなったからこそ生まれていた3人の間の距離は、しかしその距離故にいっそう近づくべき時を迎えていた。
 

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ガシン「俺たち、友達じゃねえかよ……!」
 
人と人の間には越えがたい隔絶が、境界線があるが、それは人と人の関わりを断ち切りはしない。繋がりとは、この隔絶の先にこそ生まれるものなのだ。
 
 

感想

というわけで境界戦機の16話レビューでした。初見時は何を書いたものか首を傾げましたが、こうやってみるとテーマに必要な要素がスッキリ配置されてますね。「友達じゃねぇか」というのがなんともこう子供らしい。次回明かされるアモウの過去は思ったより壮大な感じではなさそうな気もしますが、はてさて。
 
 

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