弾丸は言い訳しない――「BIRDIE WING -Golf Girls' Story-」4話レビュー&感想

©BNP/BIRDIE WING Golf Club
別れを迎える「バーディーウィング」4話。最後のパットを決められなかった葵は、その理由を口にしない。彼女はなぜ言い訳をしないのだろう?
 
 

BIRDIE WING -Golf Girls' Story- 第4話「毒蛇」

葵の帰国が翌日に迫っていた。2人はその前に決着をつけるため、出国前の早朝に、コースで会う約束を交わす。しかし、イヴはU15女子世界選手権に出場した借りを返さなければならない。ローズに連れられ、カトリーヌの仕切る賭けゴルフに参加することに。カトリーヌと対立しているマフィアの幹部・ニコラスが連れて来たのは、「死神」の異名を持つ有名なアンダーグラウンドのゴルファー、ヴィペール。イヴはヴィペールを倒し、葵との約束の時間に間に合うのか…!?
 

1.紙一重の毒

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イヴ「な、なぜ……どうして?」
ヴィペール「あぁら、残念?」

 

今回はヴィペールというアンダーグラウンド・ゴルファーとイヴの試合を描いた回だ。毒蛇と呼ばれるヴィペールと勝負したゴルファーはなぜか調子を崩すジンクスがあり、イヴも同様にここぞというところでミスショットを繰り返して窮地に陥ってしまう。
 

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ヴィペール(悩んでいるわね、戸惑っているわね。でもあなたはこの秘密に気付くことはないわ、永遠にね!)
 
種明かしから言えばこのジンクスはヴィペールの放つ匂いによるもので、彼女はライダースーツのジッパーの開閉でこの匂いを調整、相手の三半規管に微妙な影響を与えていた。微妙とは言ってもほんのわずかなズレが球筋を狂わせるゴルフでは致命的なことで、ヴィペールはこの毒によってこれまで勝利を収めてきたのである。卑劣と言えば卑劣だが――イカサマに当たるかと言えば否だろう。
 

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ヴィペールは別に対戦相手を暴行しただとか、金で買収したとかいうわけではない。毒というのも明確な体調不良を起こしたりはしていない。ちょっと癖のある匂いが、ほんのわずかな戸惑いを与えただけ……風向きや芝の調子よりも遥かに微細なそれを指弾する意味がどれほどあるかと言えば疑問だ。
 

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イヴ(からくりは解けた。もう同じ手は食わない、私の勝ちよ!)
 
実力の拮抗した者同士の戦いはほんのわずかな違いが勝敗を分けるものだが、ヴィペールの毒は要するにこのほんのわずかな違いをもたらす"紙一重の毒"だと言える。そして毒がもたらすのが紙一重の差に過ぎない以上、他のちょっとした要素でもひっくり返り得るそれを言い訳にしても泣き言にしかならない。例えば一打で心を撃ち抜くイヴのゴルフを見た対戦相手はプレッシャーで自滅していくが、そうしたあくまで自分で起こすミスまでイヴのせいにしてしまえばそれはむしろ対戦相手への侮辱だ。イヴがヴィペールを卑怯とは言わないのは、言い訳にせず呼吸を止めて匂いの影響を打破したのは、勝負の世界に身を置く彼女が自然に身に着けた心構えによるものだと言える。
 
 

2.弾丸は言い訳しない

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葵「雨音、どうしよう!?明日が楽しみ過ぎて眠れないわ!」
雨音「いいから寝なさい!」

 

この4話ではイヴとヴィペールの勝負と並行して、葵が翌朝のイヴとの再試合を楽しみにしている様子が描かれる。お風呂でウキウキ、ベッドに入っても寝付けない……雨音にもたしなめられるように、期待に胸を膨らませた彼女はいつにも増して子供っぽい。だがこうした経験は多くの人も覚えがあるはずだ。楽しみにしているイベントの前日や何かの当落の発表直前など、人はそわそわしても仕方ないと分かっていても胸の高鳴りを抑えられない時がある。自分の心に言い訳・・・できない時がある。もちろんこれは直接的・客観的にはマイナスだが、同時に対象に真摯に向き合っている証明でもあろう――そう、まるで弾丸のようにまっすぐに、愚直に、ひたむきに。
 

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雨音「何を言ってるの葵、今から表彰式だし、明日には日本に帰国するのよ!」
 
急がば回れという言葉もあるように、世の中は回り道をした方がかえってスムーズに進むことが珍しくない。多くのゴルファーがイヴのようなとにかく最短距離を目指すゴルフをしないのは普通はその方が早く回れるからだし、雨音がたびたび懸念しているように葵のイヴへの関心はもはや彼女が世界に羽ばたく障害になりつつある。
普通の人間は、行きたい場所への道を塞ぐ壁があれば回れ右して別の道を探すものだ。……だがそれでは人は、本当の意味で壁の向こうへは行けない。別の道が、誰にでも行ける道がある場所へしか行けない。
 
前回イヴの2回に渡る強引なショットが森を抜けるショートカットを成立させていたように、時には壁に真正面からぶつかることで開ける道もある。それは愚かな選択であったとしても、求めるものに対して誠実な選択ではあるからだ。自分の心に嘘をついては、言い訳をしてはいないからだ。
 

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葵「真剣にプレイをしました。最後のパットは私のミスです」
 
葵はU15女子世界選手権の最後、パットの際にレーザーで妨害を受けミスしたことをイヴに言い訳しない。証明のしようもなく、口にすれば汚れてしまったイヴとの勝負に更に泥を塗ることになる。
 

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イヴはヴィペールとの勝負が長引いたせいで葵の帰国前に最後の試合ができなかったが、そのことを言い訳しない。約束を守れなかったのは事実で、仕方なかったと言ってしまえばむしろ自分の葵への思いはそこまでのものになってしまう。
 
惹かれ合うイヴと葵は誰より互いに、ゴルフに対してまっすぐ向き合っている。その愚直さ故に二人は、自分たちの間にそびえ立つ壁にぶつかっては砕けることを繰り返すだろう。だが、そんなのは住む世界の違う二人が出会った時点で分かりきったことだったはずだ。それでも葵はイヴとゴルフがしたい一心で金も賭けずに彼女を魅了してみせたし、イヴは葵とゴルフをするためローズに強引に頼みこみもした。どちらも弾丸のようにまっすぐ、愚直に、ひたむきに突き進んだからこそできたことではなかったか。
 

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弾丸は言い訳をしない。イヴと葵にとって、まっすぐなことは未来へ進むのに欠かせぬ推進力なのである。
 
 

感想

というわけでバディゴルの4話レビューでした。なんというかロミオとジュリエット的ですね、イヴと葵。自分の気持ちに素直になるまでが大事なタイプじゃなく、愛し合う二人が引き裂かれてなお互いを求めようとするタイプの恋愛もの。小っ恥ずかしいくらいの物語をやるのに向いてるジャンルで、かつ既に見えてるようにコミカルさも備わっているのでとても良い塩梅が期待できそうです。って次はVRゴルフゲーム???
 

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エレーヌさん4位になってる。イヴの参加を見て更に調子崩したのか……再起を……
 
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