世界は踏み外した先――「まちカドまぞく 2丁目」4話レビュー&感想

©伊藤いづも・芳文社/まちカドまぞく 2丁目製作委員会
忘却の「まちカドまぞく 2丁目」。4話ではひょんなことからシャミ子のバイトが始まる。未来や世界は、間違いからも始まるものだ。
 
 

まちカドまぞく 2丁目 第4話「新種発見!町の喫茶はまぞくの巣窟!」

桃の姉・千代田桜を探すべく、まぞくが集まるとうわさの喫茶店「あすら」に乗り込むことになったシャミ子。しかし聞き込み調査を行うはずだったはずが、何故かアルバイトをすることに⁉労働の尊さを覚えたシャミ子の様子を、桃は心底心配し…。
 

1.人間の頭はいいかげん

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シャミ子「忘れてないです、ただ……夏休みが始まってまだ数日なのに、色々あってなんかすっごく時間が経ったみたいな気がする……!」
 
桃の姉・千代田桜捜索のため町に潜むまぞくを探す――今回は1期最終回での目標に向かって動き出す回だが、実行しようとするシャミ子は若干鈍い反応を示す。別にどうでも良いと思っていたわけではなく、ずいぶん前のことのように感じられてしまったのが理由だった。これはアニメ1期から2期までの1年半のタイムラグを上手くギャグに落とし込んだネタと言えるが、それだけのものでもないだろう。シャミ子はこの感覚の理由を、夏休みに入ってから数日なのに色々なことが起こり過ぎたことを原因として挙げている。実際、吉田家隣室へのミカンと桃の入居やナントカの杖の発見、インターネット開通などここ3話では色々なことがあった。1クール作品で3本前の話というのは「ずいぶん前」と感じるに十分なものだろう。
 
人間の頭はいいかげんなもので、出かける時はしっかり頭に入っていた買い物リストが店に入る頃にはすっぽり抜けるようなことが珍しくない。なぜかと言えば、目的地に着くまでの間にも様々な情報を受け取っているからだ。五感は常に目の前の出来事の情報を頭に送り続けているし、頭自身も常に回転して内部から情報を生み出し続けている。この洪水の中で一つの情報や感情を持ち続けられるという方がそもそも無理な話だろう。いわば私達の頭は、後から後から入る情報を押し出し続けるところてんの天突きのようなものに過ぎない。
 

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シャミ子(情報を聞く、情報を聞く……ご注文を聞く、情報を聞く……ご注文を聞く、Aランチ……オムライス……!)
シャミ子「5番テーブル、カレーとBランチでーす!」
 
後から後から入る情報に押し流されて大事なことを忘れてしまう。これはこの4話に限っても多発していて、まぞくの集まる場所と聞いて喫茶店「あすら」を訪れたシャミ子は店長がバクなのに驚いてその前に見た従業員のリコの狐狸精な外見への驚きを半ば失念してしまうし、情報を聞くという当初の目的は巻き込まれバイトの忙しさに埋もれ忘れられてしまった。
 

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シャミ子「す、すごく美味しいです!頭の芯がほぐれていくような、えげつなく大事なお使いがあって来たはずなのに全て蒸発するような……」
白澤店長「それはこの料理に、労働という最高のトッピングが加わったからだよ」

 

もちろん、このように忘れてしまうことはけして悪いことばかりではない。悩みが頭から離れない時は多忙でそんなことを考える暇が無い状況こそ救いになるし、そうやって何かに夢中になった後でゆっくり口にする食事はとても美味しい。バクの店長こと白澤店長のセリフにならえば、忘却とは人生のトッピングのようなものなのだろう。
 
 

2.人間の頭は本当にいいかげん

人間は後から後から入り続ける情報によって忘却を続け、それが救いにもなる。先の段ではそう書いたが、これが半分なのは本当は半分までだ。私達人間の頭は逆に、先行して入った情報で以後のものが歪んでしまうことが多々ある。
 

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シャミ子「指をくわえて待ってるがいいわ、くくく……!」
リリス(気づけシャミ子、パシらされているぞ……)

 

例えばシャミ子は今回、まぞくを探すついでに桃達の夕飯の材料を買ってくるという役割を頼まれた。結界の関係で同行できない前者はともかく後者はほとんど使い走りのようなことをさせられているわけだが、自分にしかできないことをするという前者への誇らしさからシャミ子はそれに気付けない。後から入った情報は既にあった情報を押し出すどころか、逆にそれによって歪められているのだ。まぞくに会える場所を知らないかとシャミ子が級友の杏里に尋ねた際、当初の口ぶりから知らないと早合点してしまったのも同様の例に挙げられるだろう。
 

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清子「こんなにオシャレなご飯は十分に鑑賞してからいただきましょう」
良子「じー」
リリス「冷めるぞ」

 

人間の頭は本当にいいかげんなもので、後から入った情報に上書きされることもあれば、逆に既に頭の中にある情報(バイアス)によって新たな情報をおかしな方向に解釈してしまうことも珍しくない。落ち込んでいて好物や趣味が楽しめなかったり、これまで大丈夫だったのだからと危険を見落としたりもする。天突きを通れば、ところてんは必ずその形に整形されるのである。
 
 

3.世界は踏み外した先

繰り返しになるが、人間の頭というのはいいかげんだ。絶え間ない情報の中で記憶はすぐ忘却されるし、覚えている情報すら正確ではない。だが、それは不幸なことだろうか?
 

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シャミ子「今日はサンドイッチを上手に切る方法を教えてもらいました!」
 
例えば「あすら」でのシャミ子のバイトは望んで始まったものではない。発端は人手不足に困っていた白澤店長の誤解と強引さによるだし、この遅延は桜探しの上では害悪ですらある。しかしまかないや余りものの食事はとても美味しいし、労働を通してシャミ子が学びを得ているのも事実。
 

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白澤店長「そもそも仮にリコくんの料理で一瞬大切なことを忘れたとするならば、君の頼み事がこの子にとってプレッシャーだったということだ!」

 

例えばシャミ子はバイトを始めてから様子がおかしくなり、白澤店長はそれを桃に原因があると指摘したが、これは誤りで実際はリコの料理の効能と量にこそ原因があった。しかし自分がシャミ子にプレッシャーをかけているだとかお返しができてないだとか桃がショックを受けた内容は全くの的外れとも言えず、この気付きはおそらく桜探しの手がかりに劣らぬ影響を桃に与えるだろう。
 

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シャミ子「そうだ、わたしの使命は桃をニコニコ笑顔にすること!」
 
正確さや論理、合理性といったものが大切なのは言うまでもない。しかしその正しさはその場その時限定されたものに対しての正しさに過ぎず、視点や立場によっては誤りの方こそ正解にもなり得る。実験での失敗が発明のヒントになった、といったエピソードはあちこちで聞かれるものだ。だからこの4話は最後、シャミ子がいまだぼんやりした頭で一番大事なことを思い出そうとした結果、それは桃をニコニコ笑顔にすることだと当人の前で口にし困惑させるところで幕を下ろす。まぞくを探し交渉するという今回の目的からすれば外れだが、シャミ子自身にとってはこれこそ正解なのは言うまでもない。
 

©伊藤いづも・芳文社/まちカドまぞく 2丁目製作委員会

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桃「違う!ぜんっぜん違うっ!」
 
忘れて、歪めて、私達の頭はいつだって物事を正確に捉えられない。けれどだからこそ、人間はちっぽけな了見を超えて真実にたどり着けもする。正確さだけでは人は行き詰まってしまう。
悪魔は、まぞくは人に道を踏み外させる。けれど踏み外すからこそ世界は拡げられるものなのだ。
 
 

感想

というわけでまちカドまぞく2期4話レビューでした。帰省の関係で遅くなってすみません。
締めでも触れましたが、なんとも悪魔的というかまぞく的な作品なんだというのを感じます。私達が切り捨てがちなものにこそ可能性があるのを教えてくれるというか。誤解や勘違いによるいさかいが絶えない世の中ですが、それがただ間違いなのかと言えばこれも一面的過ぎる見方に過ぎないのかもしれません。喫茶店と白澤店長やリコの登場が、これから更に物語を広げてくれるのを期待したいと思います。
 
 

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