交わらず分かたれず――「BIRDIE WING -Golf Girls' Story-」5話レビュー&感想

©BNP/BIRDIE WING Golf Club
結ばれぬ「バーディーウィング」。5話ではイヴと葵の再会、そしてまたしてもの別れが描かれる。今回の話が暗示するのは、これからも続く二人の運命だ。
 
 

BIRDIE WING -Golf Girls' Story- 第5話「VR」

日本に帰国した葵は、イヴのことが忘れられないでいた。一方、ナフレスにいるイヴも葵とのゴルフが忘れられず、いつもの賭けゴルフもいまいち調子が出ない。イヴの中で、ゴルフに対する思いが揺らぎ始めていた。そんな時、イヴはクラインからVR(仮想現実)ゴルフゲームの話を聞く。そのゴルフゲームには世界中からアクセスすることができ、日本人プレイヤーの人口が多いらしい。ひとり、VR施設へと向かうイヴ。イヴがゲーム内で出会った人物とは…?
 

1.再現≠追従

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イヴ「へえ、クラブの重さもいつも使ってるのと同じ」
 
VR」の副題が示すように、この5話は仮想現実空間であるVRでのゴルフゲームが舞台の一つとなっている話だ。劇中で描かれるVR空間はこれまで描かれたゴルフコースと変わらない精緻さで描かれており、プレイしたイヴはふだんとクラブの重さも変わらなければ"直撃のブルーバレット"も使えることを確認している。現実の再現性は極めて高いと言えるだろう。ただ、現実を再現することと追従することは同じではない。
 

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イヴ「そうか、これがVR……これなら1時間しないでコースを回れる!」
 
劇中でVRの利点として描かれているのは、不要な仮想現実はカットできる点だ。現実のゴルフでは打った球のところまで歩いていかなければならないが、VRなら一飛びでそこまで移動させてくれるから疲労もなければ時間もかからない。またネットが当たり前の現代ではありがたみを忘れがちだが、イヴと葵が前回自分達を引き裂いた場所の問題を飛び越して再開できるのも現実ではないが故の強みだろう。VRにとって現実の再現は重要事項だが、現実への追従はむしろ余計なのである。
 

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イヴと葵が現実とは異なったアバター姿をしているように、VRは現実と極めて近く、しかし限りなく遠い関係にある。そしてこの相反するかのような関係は、VRと現実だけが持つものではない。
 
 

2.交わらず分かたれず

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ローズ「安心しな。これはイヴにとっても俺にとっても有益。win-winな関係だよ」
 
極めて近く、限りなく遠い関係。その例の一つとして挙げられるのはローズ・アレオンのイヴへの感情だ。裏社会に生きる彼女は計算高く、イヴに便宜を図るのもそこに大金の匂いを嗅ぎ取っているからだと言う。実際彼女は、金のため部下に命じてイヴと葵の勝負の妨害すらしてみせた。
 

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カトリーヌ「牽制までしちゃって……あの子がよほどお気に入りなのね」
 
しかし一方でローズが冷徹なだけの存在かと言えばそうではなく、同じく裏社会に生きるカトリーヌは彼女がイヴを相当に気に入っていることを見抜いている。またローズはイヴと葵をVR空間で引き合わせる手筈を整えたが、これも期待こそあれどはっきり青写真を描いた金勘定の結果の行動とは見えない。イヴをてのひらの上で転がす一方で多分に好感を抱いてもいる、相反するような感情がローズにはある*1
 
 

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同様の矛盾じみた関係はイヴの仲間であるリリィが子供達の保護者であると同時に同格の友達のように接する場面からも見出すことができ、つまりこういったものは実は珍しいものではない。そして、同様の関係の最たるはやはりイヴと葵の間にこそある。
 

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葵「約束の時間には来なかったけど、イヴがナフレスの空港にいたの!だからすぐにナフレスに……」
 

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リリィ「大会終わってからずーっとあの調子。練習もしないでぼうっとしてばっか、抜け殻っていうか腑抜けっていうか……」
 
イヴの遅刻と葵の帰国で再戦が叶わなかった二人は、それでも互いに強い未練を残していた。葵は日本での予定もあるのにナフレスに戻ろうとしたり母への報告でもイヴの話に夢中だったし、イヴは練習もせずにぼうっとしていたり賭けゴルフに今まで以上の物足りなさを感じている。もう二度と会えないというほどの遠い距離を感じながら、しかしだからこそ二人の心は相手から離れられずにいる。
 

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葵「約束の続き、一緒に回りましょう!」
イヴ「……いいね」

 

再会を果たしたイヴと葵は和解し、VR空間でたっぷりと二人だけのゴルフを堪能する。もう二度と共に過ごせないと思っていた時間を味わう彼女達の表情は至福に満ちているが、同時に二人はそれに満足できない。どれほどリアルに再現されていてもこれは仮想現実でしかなく、彼女達が欲するのは現実での勝負だからだ。この時間が恋い焦がれる夢のひとときに極めて近いからこそ、イヴと葵はそれが今やっていることから限りなく遠いと認識せずにはいられない。
 
 

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今度こそ現実で勝負するのだと指切りしようとしたイヴと葵は、しかし自分たちが暮らす家を失う危機に陥ったことをリリィが告げにきたため約束を交わせない。あとほんの少しの時間があればできたはずの約束は、無限にも等しい彼方へ消えていく。
 
葵のキャディである雨音や母である世良が分析するように、イヴと葵が交わることはないのかもしれない。プロゴルファーへの最短距離を進むセレブと、自分や仲間の生活のため賭けゴルフをするアンダーグラウンド・ゴルファーでは住む世界が違い過ぎる。けれど離れれば離れるほど二人の互いへの思いは強まる一方で、いよいよ分かちがたくなっているのも事実だ。極めて近く、限りなく遠いイヴと葵の関係はすなわち、「交わらず、しかし分かたれず」の関係なのである。
 

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葵「約束してください。そして、今度こそ約束を破らないでください」
 
イヴと葵はこれからも近づいては引き離されることを繰り返し、しかし諦めることなく互いを求め続けていくだろう。二人の未来はきっと、弾丸のようにまっすぐ思いを貫いた先に開かれているのだ。
 
 

感想

というわけでバディゴルの5話レビューでした。葵は今回だけで何回嬉し涙を流してるんだろう。迫られた人がハッスルせずにおられない、あざといくらい恋する乙女なキャラクター造形……! 前回でも片鱗は見せてましたが、次回はヴィペールがますます面白キャラになりそうで非常に楽しみです。
 
 

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*1:現実には、こういう人間だと思わせるのがヤクザや殴った後優しくするDVの手口だそうだから注意しよう