狐狸精のフィニッシュホールド――「まちカドまぞく 2丁目」8話レビュー&感想

©伊藤いづも・芳文社/まちカドまぞく 2丁目製作委員会
謀りの「まちカドまぞく 2丁目」。8話冒頭、シャミ子は必殺技を覚えようとするがそう都合良くはいかない。しかし、今回の話では間違いなく必殺技が決まっている。
 
 

まちカドまぞく 2丁目 第8話「火花散る!?光と闇の合同遠足!」

桃とミカンと動物園に行く約束をしたシャミ子は、張り切ってお弁当作りを試みるも苦戦する。魔法少女が思わず食べたくなるようなお弁当を作りたいという思いから、とある場所の門を叩く。果たしてシャミ子はお出かけにぴったりのお弁当を完成することができるのか?!
 

1.今回のキーパーソンは

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シャミ子「どう思いますか? このお弁当」
リリス「誰に聞いておるのだ、シャミ子よ?」

 

この8話は動物園で親睦会が開かれる話だが、動物園に行くのは突然決まったわけではない。前回の話でシャミ子と桃が約束し、更に桃がシャミ子が本気で作ったお弁当をリクエストすると段取りを踏んでこのイベントは起きている。こうした前フリから、二人のイチャイチャを期待していたのはおそらく私だけではあるまい。
 

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……が、蓋を開けてみるとこの8話、シャミ子と桃の会話はさほど多くない。前半は純喫茶「あすら」での弁当作りの練習に割かれているし、親睦会はシャミ子・桃・ミカン・白澤店長・リコの5人(?)の騒ぎが中心。弁当に至っては画面で描かれることすらない始末だ。実際のところ、前回のフリから期待された内容は今回の話の中心ではなかったのである。

 

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リコ「嬉しいわあ、教える教える」
 
8話で主に描かれているのはシャミ子でも桃でもない。これは前半は桃、後半はシャミ子の存在が脇に下がっていることからも明らかだ。代わりに鍵を握っているのは、前後半共に存在感を発揮し続けている別のキャラクター……そう、「あすら」の従業員にして狐狸精のリコであった。
 
 

2.広がる幻術

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白澤店長「リコくんは基本、善意で動く子なんだ」

リコ「巫女はんが化かされて、草を食むとこ見て笑いたい気持ちもまあまああったよ」

白澤店長「リコくんシャラップだ」

 

リコは不思議なキャラだ。丹精込めて作った料理は極上の味に加え体にもいいが過剰摂取で記憶が飛ぶ作用があり、また空気を読まない事を言ったかと思えば裏には善意しかなかったり更にその後にまた空気を読まない言動を重ねたりする。故に白澤店長を始めとした劇中のキャラは彼女に振り回されっ放しだし、我々視聴者もその真意を――いや、尻尾を掴むのが難しい。見方を変えるならそれは、彼女が我々を化かして・・・・いるのと同じことだ。
 

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桃「やっぱり仕掛けてきたか、リコさん。このまま化かされて続けたら、草を食べていたわけか……」
 
リコは狐狸精らしく葉っぱを他のものに見せる術を度々披露している。しかし、人を騙すのは魔法のような力がなければできないわけではないはずだ。葉っぱだけが彼女の幻術だと思っている時点で、シャミ子達や我々視聴者は彼女の術中にハマっている。姿、言動、料理……本来は白狐であり普段の姿も化けているものに過ぎないリコは、その全てが常時人を惑わす幻術なのである。
 
 

3.狐狸精のフィニッシュホールド

全てが幻術のようなリコは、その奔放な言動で常に空気をぶち壊し周囲の人を慌てさせている。だが一方、それは周囲の人間に災いばかりもたらしているわけではない。
 

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リコ「色鮮やかなお弁当なあ。うちは茶色くてもええと思うけど……優子はんの気持ちがこもっとるのが一番なの」
 
振り返ってみれば、今回リコはシャミ子や桃に様々なアドバイスをしている。お弁当で一番大切なのは込められた気持ちであること、(彼女の場合は料理だが)高いポテンシャルが必ずしも良い結果を生むとは限らないこと、あわや戦闘になりかけた初対面の時を桃が気にする必要はないこと、一時的闇落ちで彼女の魔力が不安定になっていること……何事もない平穏な日々として過ぎ去るこの8話はその実、今後に対する示唆の宝庫だ。
こうした要素は重要な要素であるから、正面から語るのが本来は物語の正道というものだろう。けれどそうしてしまったら本作は重苦しくなり、その魅力である軽やかさを失ってしまう。こうした要素が重くならずするりとシャミ子や桃の脳裏に刻まれていくのは、全てリコが冗談とも本気ともつかない言動を繰り返しているおかげに他ならない。彼女は治療のため大量の葉っぱをおむすびに見せかけて桃に食べさせようとしたが、同じことは8話全体に渡って行われているのである。……いや、そう思ってしまうのも私が化かされているだけという可能性は否定できないが。
 

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桃「これで勝ったと思うなよ。これで勝ったと思うなよ。これで……もふ」
 
賑やかだったこの夏の日は、虎の赤ちゃんとのふれあいを逃した桃が代わりに白狐姿のリコを抱っこする姿と共に終わっていく。動物園行きの最大の目的の一つだったふれあいを逃したのは桃にとって一大痛恨事のはずだが、リコの毛並みの良さに夢中な彼女にそうした後悔は見られない。桃は今回最後までリコに化かされたと言ってよく、しかしそれはむしろ幸せなことだろう。「これで勝ったと思うなよ」と口にしたその時点で、彼女は既に敗北している。
 

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事実に直接触れるのが最上とは限らず、嘘で軽くしてもらうことで救われる真実というのも世の中には存在する。リコは今回、誰に意識させるでもなくその偉業を成し遂げてみせた。皆を見事化かしてみせた。
化かすことこそは狐狸精の必殺技だ。それは観客を魅了してやまない、プロレスラーのフィニッシュホールドにも等しい幻術なのである。
 
 

感想

というわけでまちカドまぞくアニメ2期8話のレビューでした。前回はギブアップになってしまってすみません。今回も書けなかったらどうしよう……と不安になりながらの視聴でしたが、打って変わってすんなり書くことができました。「フィニッシュホールド」なんて記事名に入れることは金輪際無いんじゃないでしょうか。プロレス自体は全然詳しくない人間なのでちょっと恐縮ですが。こうやってレビューにしてみると、リコが本当に魅力的に描かれた回だったのだと思います。
さて、小倉さんの動きで次回はまた何かが起きるのでしょうか。楽しみです。
 
 

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