55点のマジック――「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」2期11話レビュー&感想

見るべき時を探す「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」2期。11話の鍵は歌わずとも"ユニット"にある。今回はそれを用いて、かすみや果林の定期試験の成績の意味を考えたい。
 
 

ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会2期 第11話「過去・未来・イマ」

スクールアイドル同好会が部に昇格!? そんな話を耳にしたかすみは大慌てで部室に駆け込むが、結局はうわさ話でしかなかったと判明する。部への昇格は希望制と聞き、考え込む同好会の面々。しかし眼前に迫る定期試験のほうも問題だ。せつ菜の提案のもと、学年ごとに分かれて勉強会をすることに。しかし部長であるかすみは同好会のままでいるべきか部になるべきか、どうしても気になって勉強に身が入らない。一方、果林もまたあることに思い悩んでいた。
 

1.新ユニット結成!?

侑「まあ、急いで答えを出す必要はないんじゃない?」
歩夢「そうだね。もうすぐ定期試験も始まるし、考えるのはその後でいいかも」

 

ライブこそ無いものの、今回はなかなか盛りだくさんな回だ。スクールアイドル同好会を部に昇格させるべきかどうかの話に始まり定期試験、そして同好会の一員である果林の悩みと3つも課題がある。そしてこれまでの話がしばしばそうであったように、この11話は打開策に"ユニット"を用いている。QU4RTZ? DiverDiva? A・ZU・NA?……いや違う。今回のユニットは「学年」だ。定期試験に向け、同好会は学年別に分かれて勉強に臨んでいる。試験は学年単位(学科は?というのはさておき)で行うものだから、成績が不安なメンバーの赤点回避を考えれば当然の編成であろう。
 
せつ菜「では、各学年それぞれ協力しあってベストな成績を目指しましょう!」
一同「さんせーい!」

 

各学年で協力してベストな成績を目指す。せつ菜のかけ声は今回のユニットの目的を端的に現している。ただ、先に述べたように今回の課題は定期試験だけではない。故にこのユニットが導く答えもまた、成績の向上だけには留まらない。
 
 

2.分担は諸刃の剣

副題が「過去・未来・イマ」であるように、この11話を考えるには過去・現在・未来の3要素が欠かせない。そしてこの3つは往々にして学生の3学年に割り当てられがちな要素だ。ソロや個々人のユニットが主となる本作ではこれまで学年はあまり大きなウェイトを占めてこなかったが、学年別でユニットが編成される今回は話が違う。
 
かすみ「ねえ、もしかすみん達がスクールアイドル部になったら、今までとは違う新しいステージとかできるようになるのかなあ」
 
学年別ユニットは勉強会を開きながらも、同好会を部に昇降させるべきか否か等を通して過去・現在・未来を話題にしている。3年生組で話題になるのはミアがアメリカでは大学に通っていた過去だし、2年生組では嵐珠が公式大会への出場に魅力を感じながらも現状(現在)の自分の不足を認識している。1年生組が語るのは部になれば自分達の活動はどうなるかという未来の仮定だ。同好会の面々は3つのユニットによって3つの時間を分割して考える力を得ている、と言ってもいいだろう。
 
侑「決まりだね」
かすみ「ええ、部の申請はしません。わたし達はこれからもずーっと! 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会です!」

 

3つのユニットから再び合流した同好会は意見を持ち寄り、部へは昇格せず同好会のままでいることを選択する。同好会だからスクールアイドルになれた過去、同好会の呼称こそ自分達の活動に合っている現在、同好会だからこそこれから誰かを助けられる未来……3つの時間はどれも、部ではなく同好会の形が彼女達に望ましいと示していた。昇格問題について、学年別に編成されたユニットは"ベスト"な答えを出すことに成功したと言えるだろう。ただ、このユニットは諸刃の剣のような性質を持ち合わせてもいる。
 
本作は従来のシリーズに比べると時間の経過を意識し難い作品だ。廃校へのタイムリミットであるとか公式大会の1回戦2回戦といった進展があるわけではなく、冬の北海道を訪れたりするわけでもない。だがもちろん、全く時間が無視されているなどということもありえない。第2回SIF(スクールアイドルフェスティバル)は文化祭との合同開催であったしそこでは生徒会長の任期が語られてもいた。
 
本作の中でも確かに時間は流れているし、同好会の面々の足も確実に未来に向かって進んでいる。そこで学年という要素が強調される今回、彼女達も私達視聴者も自然と時間について考えずにはおられない。高校生活は言うまでもなく3学年であり、劇中の季節が冬を迎えている以上3年生が同好会にいられる残り時間はそう長くない。今回悩む果林が見たのは、分担した過去に対し鏡写しになった未来のわずかさであった。
 
 

3.55点のマジック

果林「これからもいろんなものが変わっていく中で……ちょっと思っちゃったのよ。3年生のわたし達は、最初にここからいなくなるんだなあって」
 
これまでの話がそうだったように、"鏡"は人が自分を見つめ直すために欠かせないものだ。過去を鏡に映して果林が見た未来のわずかさは客観的に正しいし、その認識は必要なものだろう。けれどそれを認識した果林が感じているのは寂しさであり、ある種の所在なさだ。トレーニング等で未来への希望をみなぎらせた1年生や2年生を褒める果林の眼差しは優しく、けれどどこか遠巻きで輪の中に入れていない。自分を見つめ直したはずなのに、果林はむしろ自分を見失っている。
果林は過去に対し未来を映すだけではない、別の鏡を必要としている。過去に対する未来ではなく、見失った自分を映してくれる鏡が必要としている。それを果たしたのが先程の学年別ユニット、共に卒業することになるエマや彼方であった*1
 
エマ「昨日や明日のことで悩んでたら、楽しい今が過ぎちゃうよ」
 
さまよえる果林を探し出したエマと彼方は、果林の寂しさを否定しない。それを抱えているのは自分達も同様だからだ。ただ、共感することは同じ見方しかできないことを意味しない。二人が果林に示したのは鏡写しの過去と未来からは弾き飛ばされているもの、果林が今まさに見失っているもの――"現在"であった。
 
彼方「そうだねえ。毎日今を全力で楽しんでいけばきっと、寂しいだけじゃない未来が来てくれると思うよ」
 
エマと果林は言う。昨日や明日の悩みは現在を見えなくするものだと。現在を見失わなければ、やってくる明日も光の差し込むものになると。
 
人が不安になるのは、意識が過去や未来に向けられている時だ。覆しようのない過去や希望の見えない未来はそれだけで精神を消耗させ、今その場でできるはずのことをすり潰してしまう。過去や未来に全く目を向けなければただの考えなしだが、それに囚われるのは結局全てを見失うことに等しい。私達が鏡に映すべきは、何よりもまず現在なのである。
 
果林「もし次に何かやるなら、今のわたし達を……そうね、それがいいわ。一つの種類じゃなくて、一人ひとりが違うわたし達で」
 
エマと彼方の助言に力を取り戻した果林の瞳は、残り少ない高校生活ではなく目の前のスクールアイドル活動に向けられる。彼女が提案したのは公式大会出場でも3回目のSIFでもない、初めての同好会だけの単独ライブ――果林達13人の"現在"を映す鏡として、これほど相応しいものはないだろう。果林は学年別ユニットの助力で、鏡写しの過去と未来の狭間に見失った自分を見つけ直すことに成功したのだ。
 
果林「ゴーゴー、ね」
 
かくて学年別ユニットは再び同好会へと戻り、物語は勉強が不得手なかすみと果林が「55点」を取り赤点を回避したところで幕を閉じる。それはけして良い点ではないが、前進の証でありまた伸びしろがある証明だ。1年のかすみも3年の果林も、その点では何も変わることはない。卒業まで残り少ない時間にも、やはり現在はある。
 
過去でも未来でもなく、未完成の現在を示す「55点」。この数字こそ、同好会を表す"ベストな成績"なのである。
 
 

感想

というわけでニジガク、アニガサキの2期11話レビューでした。過去と未来の鏡写しに対して現在が答えになる、というイメージはポンと浮かんだのですが、昇格問題や定期試験がそれに対して何を言えるか?というのにウンウン悩むこととなりました。結果的に「なぜ現在が大切なのか?」についても考えを深めることができたように思います。マインドフルネスなんですね。
さて、残り2話では歩夢と侑にスポットが当たるようですがそれと合わせてどんな終わりを迎えるのか。期待して待ちたいと思います。
 
 

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*1:ミアは飛び級や留学で学年も立場も自在に動ける存在なのでここでは別枠となる