再編を巡る戦い――「境界戦機」23話レビュー&感想

©2021 SUNRISE BEYOND INC.
決戦へ向かう「境界戦機」。23話では新日本協力機構と北米同盟の開戦までが描かれる。これは世界を再編成する戦いだ。
 
 

1.再編成される両軍

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チャーリー「ゴーストをベースにした戦術特化型AIの最新バージョンです。こいつらも新しく生まれ変わりますよ」
 
4つの経済圏の分割統治への抵抗活動から、新日本協力機構と北米同盟の2勢力の対峙へ移行した本作。大枠は変わらないが、今回は細かな点でこれまでとの変化が見られる回だ。新日本協力機構にはこれまで民間軍事会社「A.R.E.S」が雇用されていたが、この隊長であるコリンは因縁浅からぬジェルマンとの決着を付けるべく別行動をとっている。また北米同盟側はこれまでブラッド大尉の育ての親であるスピアーズ副司令が主導してきたが、大攻勢作戦を開始するにあたっては総司令のフリーマンが直接指揮を採るべく日本へやってきている。ブラッドの部下であるソフィアが転属を命じられたり、両軍が無人機のAIを強化する点なども変化の例に挙げられるだろう。
 

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ソフィア(辞令!? こんな時に……本日付でブラッド隊から独立部隊へ転属。なぜ? しかもこのタイミングで……)
 
先に書いたように、これらは大枠を揺るがすような変化ではない。裏切りで勢力図が動いたりしたわけではない。だが、小さいからと言って物語に与える影響まで小さいわけではないはずだ。開戦を前に細かな人や組織の動きが描かれる今回は、言わば両勢力の「再編成」が行われる回として捉えることができるだろう。そしてもちろん、この再編成は主人公であるアモウ達にも無関係な話ではではない。
 
 

2.けじめをつける意味

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シオン「馬﨑さんのこと頭の隅に追いやって、なんでわたし……!」
 
前回の戦い、アモウ達は仲間の一人である馬﨑を失った。失ってなお、我を忘れることなく戦いを続けた。戦い続けていく中で、彼らは間違いなく戦士として成長を遂げている。だがそれは、彼らが人の死に鈍感になっていることまでは意味しない。
 

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レジスタンス組織・八咫烏で苦楽を共にした馬﨑の死を目の当たりにしながら冷静に乗機の操縦を続けたシオンは、戦場から一時離れた今回自分の酷薄さを嫌悪する。かつてアモウが行方不明になった時と同様にショックを受けながら、それを頭の片隅に追いやった己の冷たさに涙せずにいられない。わんわん泣いた初陣の時とは比べ物にならないほど彼女は強くなったが、その強さを割り切るはまた別の心構えが必要なのだ。これは自ら馬﨑の私物を片付けようとする隊長の熊井や、命の恩人である馬﨑が好きだった季節外れの花を探して捧げるユーラシア軍のダリアにしても変わらない。
 

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どれだけ優秀な戦士であろうと、人である限りは仲間の死に区切りをつけねば前に進めないのだろう。そう、けじめをつけることは自分の心に境界線を引くことだ。境界線を引くことで、人は乱れた思いを「再編成」し戦いに臨むことができる。
 
 

3.再編を巡る戦い

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熊井「勝利確率は約45%。想定より低く、状況はかなり不利です。戦闘時間に拠る推移が……これです」
オリバー「時間が経てば経つほど勝率が下がる……」

 

始まろうとしている北米同盟の戦いは、けしてアモウ達新日本協力機構にとって有利なものではない。物量はわずかに劣り、敵の戦術特化型AIの脅威も大きい。加えて北米同盟が統一された組織であるのに対し新日本協力機構は4つの勢力の寄せ集め、烏合の衆に過ぎない。……だがアモウ達に勝機があるとしたら、それはきっと彼らが寄せ集めであるからこそだ。
 

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宇堂「今我々は肩を並べあっている。隣にはどのような顔が見えるでしょう? 願わくば、この友情が永遠に続くことを」
 
開戦の前、八咫烏の代表である宇堂は皆に語る。私達はかつて銃口を向けあったが、今はこうして一つの軍になったと。背中を預ける仲間となったと。それは、一度は敵だった者同士が過去に区切りを付けられたからできたことだ。
わだかまりや所属する組織を越えて自分達を「再編成」したからこそ生まれたのが新日本協力機構であり、そこには「我々だけが」と統一的強者を自認する北米同盟が持ち得ない可能性がある。非力で愚かで弱い人間が、しかしそれ故に一人ではできないことを成し遂げられる希望がある。
北米同盟は最初から「1」であり、しかし新日本協力機構は1未満の者達が寄り集まって生み出した「1」だ。それはアモウとガイが一緒だからこそここまで来ることができた過去、そして語り合える未来にも似ている。
 
 

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境界を巡る物語は、いよいよ最後の戦いを迎えようとしている。これはおそらく、一つの国の姿に留まらず劇中の世界のあり方そのものを変える戦いになるだろう。アモウがかつて願ったような、知らない誰かを守ることにもこの戦いは繋がっている。
世界がどう再編されるかは、アモウ達が引く境界線にかかっているのだ。
 
 

感想

というわけで境界戦機の23話レビューでした。最後の戦いの始まりということで、両軍の違いが見えてくる話だったなと思います。オセアニア軍のジェフリーとケイト、まさかまた出番があるとは思わなんだ。
ジェルマンがコリン達との直接対決で終わりを迎えるのか、それともラスボスになるのかなんかも気になるところですがはてさて。そういえばザックに再登場の機会はあるのかしらん。
 
 

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