引導の弾丸――「BIRDIE WING -Golf Girls' Story-」11話レビュー&感想

©BNP/BIRDIE WING Golf Club
納得を求める「バーディーウィング」。11話ではゴルフ部部長である絹江によるイヴへの厳しい指導が描かれる。しかし本当はこれは指導ではなく勝負であり、絹江の求めるものもその先にある。
 
 

BIRDIE WING -Golf Girls' Story- 第11話「雑草がどんなに伸びても太陽には届かない」

亜室の指令で、イヴはイチナと共に3日間の合宿に行くことに。亜室はゴルフ・ブランド「アテナ」の最高級クラブをイヴに渡し、日本のコースに慣れてこいと言う。行先はアテナ・ゴルフコース。イヴたちに、部長の絹江も同行する。絹江の目的は、イヴを徹底的に鍛え上げること。バンカーに落とした球や、ラフに入れた球を打たせたり…、イヴを焚きつけ、絹江は高難度のショットを要求。絹江がそこまでするのには、なにか事情があるようで…?
 

1.絹江とローズ

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今回はイヴを指導する雷凰女子学園ゴルフ部の部長・神宮寺絹江にスポットを当てた回だ。彼女は来たるダブルス選手権でも活躍を期待される優秀な選手であったが、ゴルフ肘によって不参加を余儀なくされ今回はイヴの指導に回っている。監督の亜室の期待に応えるべく無理な練習を重ねて左肘を壊した結果だが、彼女によればそれは自らの過ちだ。
 

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絹江「あの人がくれた光を、私は自分で消してしまった」
 
……この言葉を聞いて、8話を思い出した人もいるのではないだろうか? 主人公イヴの姉弟子・ローズが賭けゴルフに負けて右腕を失った時、師であるレオはこう言っているのだ。
 

©BNP/BIRDIE WING Golf Club 「BIRDIE WING」8話より
レオ「お前は、俺が磨き上げてやったその才能を自分自身の手で握り潰した」
 
絹江とローズは経歴も性格も全く違うが、負傷によって夢を断たれたことや失った居場所(レオの弟子、ダブルス選手権の出場選手)をイヴに専有される立場は実は似通っている。ローズが文字通り命懸けの賭けゴルフでイヴに挑んだのに対し、絹江は怪我を押してクラブを振るい選手生"命"を懸けてイヴとの練習に同行しているのだ。ただ、似ているからといって二人が全く同じ訳ではもちろんない。彼女達の最大の違いは、イヴに求めるものの違いにある。
 
 

2.引導の弾丸

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イヴ「テストってわけ?」
絹江「どうとでも捉えなさい」

 

新入部員の練習に、負傷中の部長が付きそう。今回のシチュエーションは先輩から後輩への指導のように見えるし、実際イヴはバンカーやラフから何度も打つよう求める絹江の行動をテストのつもりだと捉えている。……だが、本当にそうだろうか? 絹江はテストという解釈を否定こそしないが肯定もしていないし、イヴは絹江の見せた柔らかで精緻なショットを全く真似ようとしな。技術的な話で言えば、この練習を通してイヴは絹江から何も学んでいないのだ*1。最初から最後まで彼女はこれまで通りの、カップに向かってひたむきに打つゴルフをやり通した。そして、この点にこそイヴと絹江の指導ではない"勝負"は隠れている。
 

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剛三「率直に聞く。葵とペアが組める選手は部におるのか? 必ず勝てる選手じゃ」
 
先に書いたように、絹江はダブルス選手権への出場を大いに期待されていたが負傷によって希望を断たれてしまった。そして、時を同じくして現れたイヴは非凡な才能を持ち彼女に"代わって"出場することを想定されている。だが、代わりというなら絹江が負傷していなければどうなっていたのか? 今回彼女が試みているのはまさしくそれ・・だ。
 

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イヴ「カップに狙いを定め続ける。私がやってきたのはそういうゴルフだ」
 
もしイヴが絹江のやり方を素直に受け入れ教えを請うたなら、それはもはや絹江の劣化コピーに過ぎない。肘の故障がなければ絹江こそが出場していた証明となり、すなわち彼女にイヴは敗北したことになる。だがイヴは絹江のショットを一切真似ることなく、力任せの自らのゴルフをやり通した。やり通してその上で、最後のワンホールマッチでは絹江以上のショットを披露してみせた。彼女は打ち方でも成績でも勝利することで、自分が絹江の代役などではないことを証明してみせたと言える。負傷があろうがなかろうが、絹江にはダブルス選手権出場の可能性など最初からなかったのだ。そしてこの絶対的な敗北こそは絹江が望んでいたものであり、最後まで勝利に執念を燃やしたローズとの決定的な違いであった。
 

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絹江(この3日間、私はあなたにゴルフを教えに来たわけじゃない。見たかったの、あなたの覚悟と光が)
 

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絹江(見せてほしい。あなたと天鷲さんは違う。生まれながらに光を持ってる、選ばれし存在……)
 
負傷があろうがなかろうが、最初から自分には可能性などなかった。そんなことを思い知らされるのは一見絶望的に思える。だが、本当にそうだろうか? なまじ可能性を残して諦めた夢は、かえって後ろ髪を引かれるように心に残ってしまうものだ。未練となって束縛し、人はそこに言い訳を重ねてしまう。けれど精一杯やってそれでも駄目だったなら――可能性など全くなかったと知れたら――人は思いにけじめをつけることができる。未練を断ち切り、前へ進むことができる。例えそれが、自分は雑草に過ぎないという絶望的な事実であってもだ*2。このどうしようもない敗北は、しかしだからこそ絹江の中に残っていた後悔を消し去る効用を発揮している。
 
 

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イヴのショットは心を撃ち抜く弾丸だが、それはけして相手の戦意をくじくものばかりとは限らない。葵相手の時のように人を魅了する弾丸も、今回のように未練を断ち切る弾丸も心を撃ち抜く点では何も変わりはしないはずだ。師であるレオが評した「ゴルフ界に降り注ぐ弾丸の雨」とはきっと、そういう色鮮やかなものなのだろう。
イヴの弾丸は七色に変わる。彼女は今回、"引導の弾丸"で絹江の心を浄化したのだ。
 
 

感想

というわけでバディゴルの11話レビューでした。当初は絹江の心情が全然理解できず何を書いたものか困ってしまったのですが、おそるおそるローズとの共通点を整理してみると紐が解けていきました。何かもうこのまま成仏しそうな勢いだな彼女……
 
さて、7月からこの枠は別の番組が放送されることが決まってるそうで、残り話数はどんな話になるんでしょう。分割2クールにするにしても、OPでポンポン出てるまだ名前も明らかになっていないキャラは一体。ドキドキしながら見ていきます。
 
 

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*1:亜室いわく「イヴくんに今更技術うんぬんを言っても仕方ない」

*2:求めたものに勝利と敗北の違いはあるが、これを得た点でやはりローズと絹江は似ている