鏡に映る"強敵"――「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」2期12話

分かれる道と分かれぬ縁の「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」。2期12話では侑と歩夢の関係が問い直される。仲間だけどライバルなのは、スクールアイドルだけとは限らない。
 
 
ファーストライブに向けて準備に追われる虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会。開催日も決まり、順調に進んでいく一方で、彼方の妹・遥や他校のスクールアイドルたちはラブライブ!の予選に向けて準備を進めていた。最愛の妹のため、全力で応援すると意気込む彼方。しかし遥はセンターを任されたプレッシャーにより、日に日に笑顔を失っていく。そんな遥を励まそうと準備をしている彼方に、侑がある悩みを打ち明ける。さらに、別の悩みを抱える歩夢もまた彼方へ相談を持ち掛けるのだった。
 

1.これまでと一緒に、これからも一緒に

歩夢「作曲コンクール、応募するの?」
侑「うーん、興味がないわけじゃないけど……」

 

今回はスクールアイドル同好会の一員にして幼なじみの高咲侑と上原歩夢の悩みを軸とした話だが、そのありようは必ずしも対照的とは言い難い。侑は悩みである作曲コンクールへの参加について当初から消極的ながら話題にはしているが、歩夢の方は英国ロンドンからのファンメールで相手を応援しに短期留学に行くか悩んでいることを侑に明かしていない。侑は歩夢に背中を押してもらいたがっている一方、歩夢は侑と今後離ればなれになることにどうすればいいか分からないでいる……という部分も考えれば、彼女達の悩みをそれぞれ聞いた同好会の近江彼方の「二人とも同じ理由で足踏みしちゃってる」という評は奇妙にすら思えるほどだ。だが、やはりこの評は間違っていない。
 
なぜ作曲コンクールに参加したい気持ちを素直に歩夢に言わないのか? 彼方に問われ、侑はこう答える。
 
侑「たぶん、わたしと歩夢は同好会に入ってから、お互いに相手の背中を押してここまで来たから……わたしが立ち止まっている時は歩夢がまた押してくれるって、勝手にそう思っているのかも」
 
 
なぜ侑に短期留学の話を相談しないのか? 彼方に問われ、歩夢はこう答える。
 
歩夢「離れてしまうのが怖くて。侑ちゃんとは同好会に入ってからもずっと一緒に進んできて、けどやりたいことは同じじゃないから、このままお互いが進めば進むほど距離は離れていって……その内同じ場所にはいられなくなってしまう。今は大げさな話だけど、いつかはそんな現実が来るんじゃないかって」
 
侑は歩夢に、以前のように自分の背中を押して欲しいと思っている。「これまでと一緒」であってほしいと願っている。対して歩夢は、今後自分達が歩んでいく中で侑と共にいられなくなるのを寂しく思っている。「これからも一緒」にいたいと願っている。「一緒」が続いて欲しいと願っている点で、やはり彼女達の悩みは「同じ理由で足踏みしちゃってる」のだ。
 
 

2.鏡に映る"強敵"

一人ひとりが懸命であるほど「一緒」にいるのは難しい。これは虹ヶ咲学園と他校のスクールアイドル部や、彼方とその妹にして東雲学院のスクールアイドルである遥にしても変わらない。
 
エマ「会場で応援してあげるのが一番なんだけど……」
しずく「予選は無観客ですから、それは難しいですね……」

 

虹ヶ咲学園と東雲、藤黄といった他校のスクールアイドル部はこれまでの話で交流を深め、第2回SIF(スクールアイドルフェスティバル)では共演すら行うほど行動を共にした。けれど虹ヶ咲学園のスクールアイドルは全国大会であるラブライブ!は目指しておらず今回は会場を共にすることはない。また予選は無観客配信で行われることになっており、応援に行くこともできない。一緒にはいられない。
 
遥「だからこそ人一倍頑張らなきゃ。わたしにセンターを託してくれた先輩達や、応援してくれるファンの皆のためにもいいパフォーマンスをしなきゃいけないんだ。」
 
また彼方と遥は仲良し姉妹であるが、1年ながら東雲のセンターを任された遥は気負い過ぎの感があり彼方は彼女の笑顔が減っていることが心配でならない。けれどセンターの重圧などソロアイドルの彼方が共有できるものではないから、彼女は遥に直接的なアドバイスはできない。一緒にはいられない。
 
璃奈「会場に入れなくても、やれることはあると思う」
 
懸命になればなるほど一緒にはいられない。これは友情や理解といったものでは解決できない問題だ。むしろそういったものが強ければ強いほど相手を尊重することになり、その隣にはいられなくなってしまう。だが、一緒にいるとは隣にいることとは限らない。
 
一同「頑張れー! スクールアイドルーー!」
 
本番直前、無観客での予選に緊張することしきりだった遥や他校のスクールアイドル達は、彼方から送られたファンによる応援動画配信に目を見開く。スクールアイドルが挑もうとしていたのが無観客配信ならファンは"無アイドル配信"に挑んだのであり、しかも後者は緊張に固まるのではなく盛り上がる準備を万端に済ませていた。ファンはまるでスクールアイドルと競うようにして同じような状況に臨み、しかもその先を行っていた。スクールアイドルの隣にはいられなくとも"一緒に"いたのだ。こんなものを見せられては、スクールアイドル達も発奮せずにはおられなかった。
 
彼方「突き詰めるとみんな一緒で、大切な人を応援できる友達なのかもね。歩夢ちゃんと侑ちゃんみたいにね」
 
一人ひとりが懸命であるほど「一緒」にいるのは難しい。けれど、一度は共に歩んだ人間が懸命になる姿は自然と見る者の背筋を正させるものだ。自分も頑張ろう、負けていられない……と"背中を押して"くれるものだ。鏡になってくれる人間は、隣にいなくともかつてと同様に私達と"一緒に"いてくれる。だから彼方は、自分が同好会の皆に相談したことで実現したこの応援配信を侑と歩夢の関係にもなぞらえる。この企画は、侑と歩夢にとっても自分達の関係の鏡になってくれるものだった。
 
歩夢「驚いた? 侑ちゃんもどんどん進んでくれなきゃ、置いてっちゃうんだから」
 
彼方に背中を押され、歩夢は打ち明ける。自分はロンドンのファンのために英国に短期留学するつもりであり、侑も進んでくれなければ置いていくと。侑が驚いたように、これは以前の歩夢からは考えられなかった言動だ。しかし彼女はこうして発破をかける形で侑の背中を押している。「これまでと一緒」でいる。
 
歩夢「もし失敗したら励ましてね。わたしもそうするから!」
 
また一方で歩夢は、もし失敗したら励ましてほしいとも侑に頼む。自分もそうするからと頼む。発破をかけるような形だけに二人の関係は変わってしまうわけではなく、悩んだり落ち込んだら力づける間柄なのはやはり今後も同じだ。「これからも一緒」だ。分かれる道の上でも「これまでと一緒」と「これからも一緒」を実現する手立ては、侑と歩夢が互いの中にライバルと仲間の両方を見出すことにあった。
 
侑「うん、わたしも決めた! 作曲コンクールに参加して、自分を試してみる!」
 
「仲間だけどライバル、ライバルだけど仲間」……本作でたびたび繰り返されてきたこの言葉は、けしてスクールアイドル間だけのものではない。侑と歩夢がそうであるように、競い合い支え合う関係は全てこの言葉で言い表すことができるだろう。いや、どちらが欠けても本当の意味で両者が成り立つことはないのかもしれない。
人と人の繋がりの一つの理想形。それは仲間とライバルの鏡写しの関係にあるのだ。
 
 

感想

というわけでニジガク、アニガサキ2期12話のレビューでした。今回は大変だった……時間と空間の距離だとかシンクロニシティだとか考えてみたもののどうにもしっくり来ず、違和感のあった彼方の言う「同じような理由」を煮詰めたらこんなレビューができました。考えてみれば、鏡を軸にレビューを書いてきた身なのになぜ今まで仲間とライバルが鏡という発想がなかったのか。
さて、3ヶ月に渡るアニメ2期もいよいよ次回で最終回。どういう結末を見せてくれるのか、とても楽しみです。
 
 

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