世界は虹色の鏡――「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」2期13話レビュー&感想

終わりと始まりの「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」。2期13話では同好会の1stライブが開催される。物語が最後に示すのは、世界に秘められた虹のような可能性だ。
 
 

ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会2期 第13話(最終回)「響け!ときめき――。」

ついに迎えたファーストライブ当日。会場には虹ヶ咲学園らしい個性的な差し入れや、たくさんの応援メッセージが届いていた。期待に胸を膨らませて詰めかけたたくさんのファンたち……。みんなの想いに囲まれ、スクールアイドル同好会の13人は円陣を組む。それぞれが想いを届けるために、支えてくれた人たちに向けて感謝を伝えるために――。そして、ステージの幕が上がる。「私たちの虹を咲かせに!」
 

1.虹色のアイドル、虹色のファン

虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会の初の単独ライブ「with You」が舞台となる最終回は、これと言って深刻なピンチなどには陥らない回だ。トラブルと言えば「璃奈ちゃんボード」の故障や過去の経験で緊張する者が出るくらいで、それもさして大きな問題にはならずに解決されていく。基本的にはひたすらライブ、ライブ、ライブ……ただ、だからといって今回が単調な話というのも誤りだ。歩夢を始め個性あふれるスクールアイドル達の歌は1つとして同じものはなく、歌う者が変わる度にステージは異なるライブのように姿を変えている。"虹"は多くの色を含む光学的な現象であるから、このバラエティの豊かさは確かにニジガクらしいライブと言えるだろう。だが、個性豊かなのはスクールアイドルだけだろうか?
 
これまで12話かけてスクールアイドルの物語を描いてきた本作は、彼女たちだけでなくその関係者にもスポットを当ててきた。近江彼方の妹の遥、宮下愛の幼なじみの美里、栞子の姉の薫子、そしてニジガクの他の部活や他校のスクールアイドルなど……ライブでは歩夢達の歌う様子だけでなくこうした関係者の反応も多々描かれており、それがバラエティ豊かとはいえ極論「歌ってるだけ」のこの13話を退屈にさせずにいる。虹のように姿を変えているのはスクールアイドルだけではなく、観客席やモニタ越しにそれを見るファン達*1も同様なのだ。
 
歌う者の熱気は自然とステージ全体に響くものであり、スクールアイドルと観客もまた鏡合わせの関係にあると言える。そして、身だしなみを整えるのに使われるのと同様、鏡は覗き込む者に自分の姿を見せてくれるものだ。
 
 

2.世界は虹色の鏡

ライブの幕間の時間、同好会の一員である侑は歩夢達に呼ばれ控室を訪れる。そこで見せられたのはなんと、ファンからの自分宛ての贈花――歩夢達に曲を作ったりSIF(スクールアイドルフェスティバル)でピアノを披露したとはいえ、自ら歌ったり踊ったりするわけではない侑に向け贈られた花とメッセージカードであった。
 
かすみ「さすがわたし達のファンです、分かってますねえ」
 
繰り返すが、侑は別に自ら歌ったり踊ったりするわけではない。同好会の一員とはいえ、その存在は一般的にはスクールアイドルには分類されないものだ。けれど一方、彼女は虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会に欠かせない存在でもある。1期で廃部となったスクールアイドル部が同好会として再出発するきっかけを作ったのは侑だし、SIFを発案したのも侑。この2期でも嵐珠の問題提起に応えたり栞子が再びスクールアイドルを目指すきっかけを作ったりと、彼女の存在がなければ物語はその姿を大きく変えていたことだろう。ならばファンが同好会の鏡たり得るには、その見えない大黒柱にもまたスポットを当てねばならない。
 
同好会の部長であるかすみが「さすがわたし達のファンです、分かってますねえ」と侑宛の贈花を誇るのは、前回語られた「仲間だけどライバル、ライバルだけど仲間」であるスクールアイドルとファンの関係がここにもしっかり現れているからだ。今回のライブの名称である「with You」がファンを示すものなのは言うまでもないが、ファンはファンで負けじとそれを「with 侑」へ読み替えてみせた。
 
璃奈「……ありがとう!」
 
しずく「嬉しくて泣いちゃいそうです」
 
スクールアイドルはその一挙手一投足でファンを魅了する。だが、ファンはけして一方的に与えられるだけの存在ではない*2。今回にしても、ボードの故障でライブ中に表情を表せなくなった璃奈に、ファンはサイリウムで自分達をボード代わりにして心の内の笑顔を描いてみせた。開催にあたって寄せられたメッセージの数々は、同好会の面々にとって泣きそうなほど嬉しいものだった。
 
魅了も元気や勇気を与えるのも、スクールアイドルとファンの関係の間で相互に交わされるからこそ成り立つものだ。故に、最後の歌で虹を作るように一緒にステージに立ったスクールアイドルに対し、ファンが見せたのもまたサイリウムによる虹であった。
 
人は鏡を見ることで自分をより深く知ることができる。しかし鏡に映るものは逆さまでそのままの自分ではないし、また鏡を通して私達は自分の背後にあるものにも目を向けられるなど、鏡の性質もけして一様ではない。「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」2期は全13話を通して、実に多様な鏡の姿を――まるで虹のように色彩豊かな鏡の姿を――描いてきた。
同好会での活動で歩夢達が短期留学や生徒会長就任、芝居など新たな興味を広げたように、鏡を見ることで人は自分の可能性を広げることができる。仲間とライバルも、スクールアイドルもファンも、向かい合えば全てのものは相手の鏡になる力を秘めている。
 
物語は最後、歩夢に留学先から写真を送られた侑が虹を見て微笑む場面を幕を閉じる。空に架かったその橋が持ついくつもの色のように侑達の未来は可能性に満ちていて、それは彼女達に魅せられる私達ファンにも可能性が満ちている証明でもある。
いかに美しくとも虹はしょせん、単なる光学現象に過ぎない。けれど虹を見れば私達の心には希望が生まれるものだし、それは私達の奥底の願いが世界に反射されたからこそ生まれる心の働きだ。虹に美しさを感じる時、何より美しいのはそれを感じる私達の心である。
 
侑「次は、あなたの番!」
 
世界は私達の心でいかようにもその景色を変える。故に、世界とは私達の心を映す虹色の鏡なのである。
 
 

感想

というわけでニジガク、アニガサキの2期最終回13話レビューでした。ファンがスクールアイドルの鏡、というだけではちょっと書ききれないな……と思いながら視聴を繰り返していたところ「世界は虹色の鏡」というワードが浮かび、後はレビューを書いていく中で具体的になっていきました。作家の吉川英治は「われ以外みなわが師」というのが座右の銘だったそうですが、そこにも通じるお話かもしれません。
 
1話で鏡の概念が使えそうだな、と思いついて以来ほぼほぼそれに基づいてレビューを書き、全体に統一感のある視聴時間となりました。多様だけどまとまりのある、そんな2期だったのではないかと思います。スタッフの皆様、示唆に富んだお話をありがとうございました。
 
 

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*1:もっと言えば、バックステージで他のメンバーの歌に触発されている時、スクールアイドル達もまたファンとなっている

*2:これは1話の嵐珠の問題提起への最終回答でもある