無明の導き――「まちカドまぞく 2丁目」2期12話レビュー&感想

©伊藤いづも・芳文社/まちカドまぞく 2丁目製作委員会
暗中模索の「まちカドまぞく 2丁目」。2期最終回12話ではミカンの呪いを巡る騒動のてん末が描かれる。あーだこーだなんだかんだの解決から見えるのは、ある種の運命の存在である。
 
 

まちカドまぞく 2丁目 第12話(最終回)「闇夜の儀式!まぞく新たなる仲間!!」

ミカンに憑いている悪魔、ウガルルと話をつけるため、シャミ子と桃はミカンの心の中に潜入!そこにいたのはドス黒い瘴気を漂わせたミカンだった。ウガルルに説得を試みるも瘴気によって阻止されてしまい、シャミ子は魔力を使い果たしてしまう!後を託された桃はミカンを救うべく、ひとりでウガルルの説得を試みるが…。
 

1.頼れるものなど何もなく

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リリス「視界の悪さはミカンのエーテル体に溶け込んだ呪いの成分のせいだろう。勘でワープするのは難しそうだな、まずは目視で問題のありそうな箇所を探すのだ」

 

感情が大きく動くと周囲に天災を起こしてしまうミカンの呪いを解決するべく、彼女の心の中に潜ったシャミ子と桃。だが呪いの影響で心の中は視界が悪く、二人はワープなども使えず周囲を確認して歩く他ない。シャミ子はナントカの杖を「方向決めの杖」に変形させてどちらに向かうか決めるが、これも実際は気休めに過ぎない。
 

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桃「お前、ここ早急に出て自由の身。要求これのみミカン悩みなくなる。俺たち皆パーリー」
シャミ子「桃、ラッパーみたいになってます」

 

これらアバンから見えてくるのは、12話における頼れるものの乏しさだ。シャミ子達は幸運にも呪いの本体・ウガルルと対面することができたがウガルルは当初視覚も聴覚もない混沌となっていて話が通じないし、シャミ子はナントカの杖を天の沼矛(泡立て器)に変えてウガルルを人型にする代わりに力尽きたため、その後の交渉はトークの不得手な桃が行わなくてはならなくなってしまう。最終回なのだからシャミ子がどんと存在感を示しても良さそうなものだが、今回は不明瞭な視界そのままなんとも安定感に欠けているのだ。
 

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ウガルル「俺外見えない、ミカンの心震えた時全部攻撃! ミカン安全俺エラい! 俺出来る子!」
桃「駄目なんだよそれじゃ!」

 

外界を認識する手段に乏しい中で、無理に既存のやり方に頼ろうとすればかえって弊害を招く。桃はつい得意の肉体言語に頼ろうと思考してしまうがそれでは交渉にならないし、またこれはウガルルの存在がミカンにとって呪いとなっている理由にしても同様だった。彼女は元はミカンを守る使い魔として呼び出されたが、儀式が不十分だったため不安定かつ外部を認識できない存在になってしまった。それでも自分の存在意義であるミカンの守護を果たそうとした結果が、ミカンの感情が揺さぶられるのを全て攻撃と判断しての周囲へ天災を発生させることだったのだ。てっきり役に立てているとばかり思っていたその行為がひどい迷惑だったと知ったことは、ウガルルにとってアイデンティティを喪失させるに十分なショックだった。
 

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シャミ子「ウガルルさん! なんかすごい勢いで崩れてないですか!?」
桃「使い魔の役割への執着が消えたからか!」

 

人にとってやり方、スタイルといったものの果たす役割は自覚以上に大きい。青春や生活をかけて取り組んできたものから離れざるを得なくなった時は虚脱感に襲われる人は少なくないし、ベテランにとって新しいやり方への適応が難しいのはそこに自分の人生の記憶が込められているからでもある。自分がミカンを守るどころか迷惑をかけていたと知ったウガルルはショックで再び混沌に戻りかけるが、これはけして大げさなことではない。やり方やスタイルを喪失した時、人は自分を固められなくなってしまう=定義できなくなってしまうのである。
 

2.無明の導き

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シャミ子「すごいです! ほんとに一晩でできちゃいました」

 

ウガルルがけして悪意で呪っていたわけではないと知ったシャミ子達、そしてミカンは、ミカンの体外に出れば消えてしまうウガルルを再召喚・保護すべく新たなよりしろと役割を用意しようとする。12話の後半で描かれるこの「多魔市でウガルル再雇用プロジェクト」で面白いのは、前半と裏腹に何もかもがトントン拍子に進む点だ。
 

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小倉さん「で、残念なお知らせなんだけど必要なものを今夜中に揃えるのは無理だと思う」
 
シャミ子の泡立て器でウガルルは混沌から人型になったが、これは一時的なもので長くは維持できない。何度もミカンの心に潜ることもできないから一晩の内によりしろを用意しなければならないが、方法をまとめたシャミ子の級友、小倉しおんは実質無理だと言う。
 
・上質な食材を用い、マエストロ級の手による魔力の込められた料理
・幻獣の尻の毛
・よりしろの材料となる霊脈の土
 
……儀式に必要なこれらは本来、どれも一朝一夕で手に入るものではない。やろうと思えばそれぞれで1話を費やしてもおかしくないものだ。しかしそれにも関わらず、本作では一晩の内に集まってしまう。
 

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シャミ子「うちのバイト先の店長、動物系まぞくです!」
白澤店長「僕悪いバクじゃないよ!」

 

居合わせたもう一人の級友・杏里の家が精肉店だから上質な肉は用意できるし、シャミ子のバイト先の純喫茶あすらには魔力を込めた料理の達人リコがいる。またあすらの白澤店長は幻獣だから尻の毛は彼からもらえるし、霊脈の土は以前に隠し泉に行った時にシャミ子が持ち帰っていた。そもそもこれらの方法をまとめられる小倉がシャミ子を追いかけ回してすぐ近くにいたこと、桃の姉・桜が同じようなことを考えメモを残していたから小倉がすぐまとめられたことも含め、この再雇用プロジェクトは全てがあつらえたように必要なものが揃っていた。誰が裏で企んでいたわけでもないのに、だ。
 

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ナレーション「マスターがしっぽの毛をむしられている間、きれいな菊の花の絵をお楽しみください」
 
もちろんこれに対し、作者の企みでしょとツッコミを入れる人は多いだろう。だがコミスペ!でのインタビューによれば、作者である伊藤いづもは役に立ちそうな素材をバラまいておいてキャラクターに自律的に拾わせる形で作劇しており、プロットはガチガチなものではないのだと言う。つまり12話後半の高速進行はご都合主義ではなく、作者の思惑すら超えたところにある「天の配剤」とでも呼ぶべき運命的な導きで出来上がった代物なのだ。シャミ子達が何に頼ったわけでもないのに、である。
 
 

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ウガルル「仕事見つける仕事……? 困る、またバグりそう」
ミカン「そこを頑張るのが人生なのよ」

 

世の中は混沌に満ちていて、いかなる時も絶対に上手くいく方法などはない。私達は結局、いつも暗闇の中を手探りで、行きあたりばったりで進んでいくことになる。もはや使い魔とは言えない存在に成長したウガルルにミカンは「新しくやりたいこと(仕事)を見つける仕事」を言い渡しウガルルはその複雑さ途方もなさに頭を抱えるがこれもつまりは暗中模索の連続であり、ミカンが言うようにそれは人生そのものなのだろう。
しかし一方で、その何にも頼れない生き様は不思議と理想や先人に似ていくものだ。ウガルルが消えないよう手立てを講じようとしたシャミ子の姿はウガルルにとってボス=シャミ子の目指すところの闇の女帝として認められるものだったし、桃はシャミ子のやり方が自分の姉である千代田桜に似てきたと言う。よく知らない桜をシャミ子が真似るわけはないが、それでも似るのはこれもまた天の配剤……いや、運命と呼んでいいものなのではないか。
 

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桃「いいんじゃない? 姉のやり方とちょっと似てきたよ」

 

世界に同じものは2つとなく、全ては私達の手に負えないところにある。しかし一方で世界はよく似たものにあふれていて、偶然にこそ必然が宿っている。シャミ子はこれからもまちカドを、ごく小さなものを救っていく。そして、小さいものを大切にするその姿こそは大きなものを救う道筋を導いていくことだろう。
この無明の世界に頼れるものなど何もありはしない。それでも私達は、何かに導かれて生きているのだ。
 
 

感想

というわけでまちカドまぞくのアニメ2期レビューでした。最終回も1日遅れになってしまいました、すみません。天の沼矛やウガルルのボスの指摘から「見えないものを形にする」みたいなのでどうかなと思ったのですがそれでは全体が拾えず、悩んでは見てを繰り返してこんな感じになりました。
 
本作は通常非とされるものが実は是とされる逆説「まぞく的発想」が肝なのでは……と思いつき途中までは上手く行ったのですが、後半になるとそこに拘泥してレビューが上手く書けないということがしばしばでした。事実上の二部構成だったので、二部だけで通じる何かを見つける必要があったのではないかと今になっては思います。とはいえ、全体にいつも柔らかな雰囲気をまとうことを忘れないのがとても素敵な作品でした。
 

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個人的にはリコがとてもいい味を出していたと思うので、できれば3期で彼女の活躍をもっと見たいなあ。スタッフの皆様、お疲れ様でした。
 
 

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