夜守コウは間違えたい――「よふかしのうた」1話レビュー&感想

Ⓒ2022コトヤマ小学館/「よふかしのうた」製作委員会
夜空へ羽ばたく「よふかしのうた」。1話では主人公の少年・夜守コウと吸血鬼の七草ナズナの出会いが描かれる。眠れないことに悩んでいたコウにとって、ナズナはいったいどんな存在なのだろう?
 
 

よふかしのうた 第1話「ナイトフライト」

“眠れない”中学2年生・夜守コウは、初めて夜に誰にも言わずに外に出た。昼間とは異なる雰囲気の町中を歩いていると、フードをかぶった年齢性別不詳の人物に声をかけられた。それが吸血鬼・七草ナズナとの出会いだった。
 

1.模範的少年と逢魔が時

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コウ「初めて夜に、誰にも言わず外に出た」
 
「よふかしのうた」第1話本編は、中学2年の少年・夜守コウが誰にも言わずに夜中外出する冒険から幕を開ける。冒険――それが喫煙や飲酒といったものではないことから分かるように、彼は極めて模範的な少年である。
 

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コウ(夜守コウ。14歳。中学2年。多分僕は上手くやれていた。……と思う)
 
模範的、というのはけして優等生であることを意味しない。集団の中では人間はそれぞれ求められる役割(ロール)というものがあり、それをこなすからこそ集団に受け入れられる。平凡な一少年というのもそれはそれで求められる役割であり、回想からはコウがこの役割を模範的・・・にこなしてきたことが伺える。だが、ある日下駄箱に忍ばされたラブレターから彼の立場は変わってしまった。
 

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女子「夜守くんなんであの子フッたの? 泣いてたんだから」
 
同級生から愛の告白を受けたコウは、嬉しいとは思いながらもその思いを受け入れなかった。恋愛感情というものが分からなかったからだ。しかし、その行動は他の女子からひんしゅくを買い彼は詰問される羽目になってしまった。コウが同級生を振ることは、彼に求められている役割から逸脱していたのである。
 

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告白の場面が、本作の主な舞台の夜でも学校の時間である日中でもなく夕暮れ時なのはコウの立ち位置や心象として象徴的だ。子供にとって日の当たる学校での生活は「正」、寝るはずの時間に夜更かしは「誤」であるが、夕暮れ時にはその境が曖昧になる。やりたいこともなりたいこともないからせめて正しくあろうと努力したというコウにとって、対処不能の告白を受けた夕暮れ時とは「正しさ」がかすんでしまう逢魔が時だったのだろう。
 
 

2.夜守コウは間違えたい

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コウ(眠れなくなったのは、つい最近のことだ)
 
告白への対処に失敗したコウは不登校になり、おまけに夜眠れない悩みを抱えるようになった。学校での役割=正しさを見失ったのだから、時間帯の正しさについて見失ってしまうのも自然な話ではある。彼の中では、夜は寝るものという正しさが分からなくなっている。
 

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ナズナ「眠れないんじゃないか? 少年」
 
ただ、最初に述べたようにコウはやはり模範的な少年だ。夜中にこっそり外出して自由だとか居場所だとか言っても心の底ではノリ切れていないし、ブランコから跳ぶのも上手くできない。1話終盤で言うように「踏み込む」ことができない。それでも踏み込むにはどうしたらいいか?などと考える時点で既に踏み込みは失敗しているのであり、故に彼にはこの夜間外出も目に入った飲酒も"正解"とはならない。
奇妙な話だが、間違え方にもある種の正解はある。それを教えてくれたのが偶然出会った女性、吸血鬼の七草ナズナであった。
 

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ナズナ「いっぱい飲んだか?」
トニオ「飲んだ」
カイ「飲んだ」
マツダ「飲んだ」

 

ナズナは端的に言っておかしい女性だ。見ず知らずの酔いつぶれたサラリーマンとハイタッチしたり、コウを部屋に連れ込んで一緒に寝ようとしたり、下ネタを連発する割に恋愛の話になると照れ屋だったり…… しかし同時に、彼女はそのおかしさが不快さにならない存在でもある。ハイタッチは彼女もサラリーマンも楽しんでいるし、コウは彼女と一緒に寝ることに不思議な安心感を覚えたりする。ナズナは誤りだらけだが、しかしそれは過ちにはなっていない。正しいか誤りかの二択に縛られていない。つまり自由だ。
 

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ナズナ「なあ少年、初めての夜はどんな気分だ? 日常からはみ出して何を思った? ここはお前の思う面倒やわずらわしさ、そんなものからもっとも遠い場所だ。こんなこと、続けないなんてもったいないぜ?」
 
人は普段「正しく」あろうとする。それは合理的な正しさだったり論理的な正しさだったり、あるいは倫理や役割における正しさだったりする。しかし一方でこれらの正しさはわずらわしいし面倒なものだ。栄養バランスと安さで正しい食事ばかりを繰り返してもつまらないし、話題にできる大ヒット作品ばかりが性に合うとは限らない。脂と塩気たっぷりの食べ物を炭酸飲料や酒で流し込みたくなったり、巷で酷評される作品が人生に欠かせない一作だったりするのも人間というものだろう。クラスの平凡な一少年という役割的正しさから外れてしまったコウにとってナズナの奔放さは、吸血鬼という生き方はそういう魅力に満ちたものであった。
 

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コウ「初めてなりたいものができたんだ、この気持ちをなくしたくない!」
 
本作の世界で人が吸血鬼になるには、吸血鬼に恋しその吸血鬼に血を吸われなくてはならない。コウは吸血鬼になるため自分に恋をさせて欲しいとナズナに頼むが――これがメチャクチャな頼みなのは言うまでもない。吸血鬼が人をたぶらかして吸血鬼にするというのが本来のあり方のはずであり、コウの頼みは手順として誤っている。しかしこれは自暴自棄ではないし、無理難題の過ちではないのも確かだ。彼もこの時また"自由"になっていた。
 

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かくて模範的少年は夜へ一歩を踏み出し、第一夜は彼を抱えたナズナが夜空を飛ぶ場面で幕を下ろす。空を飛ぶ彼らは重力にも上下にも、そして時間にも縛られない。
正しさも間違いも知って、そこから自分にとっての正解を選ぶことにこそ自由はある。コウにとってナズナは、夜遊びへ――間違いの先の自由へ自分を誘ってくれる存在なのだ。
 
 

感想

というわけでアニメ版「よふかしのうた」1話レビューでした。朝の割と早い時間に一度見たんですがなかなかピンとこず、言語化するのに手間取ってしまいました。これはなかなか手強そうで、同時にテーマ的に面白そう。正解を選ぶのが正解とは限らない、とは最近とみに思うことですし。
OP見るとだいぶキャラも出てくるようですが、どんな感じで捌いていくのかしらん。それぞれどんなキャラか楽しみです。
 
 

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