宙ぶらりんな星――「ラブライブ!スーパースター!! 」2期1話レビュー&感想

©プロジェクトラブライブ!スーパースター!!
新道を行く「ラブライブ!スーパースター!! 」。2期1話では2年目を迎えた結ヶ丘でかのん達と新入生の出会いが描かれる。それは宙ぶらりんな者同士の出会いだ。
 
 

ラブライブ!スーパースター!! 2期 第1話「ようこそLiella!へ!」

新学期が始まった結ヶ丘女子高等学校。
いつも通りLiella!が屋上で練習をしていると、その声に惹かれる一人の少女の姿が。
彼女の名は、桜小路きな子。今年から結ヶ丘に入学する新入生だ。
どうしても屋上から聞こえてくる声が気になったきな子は、学校に侵入し、声の元へ向かう。
そこには息の合ったパフォーマンスをするLiella!の姿が。こっそり覗くきな子だったのだが──。

公式サイトあらすじより)

 

1.宙ぶらりんな星

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可可「フォロワーが倍になりました!」
 
前回のラブライブ!で強豪サニーパッションを超えられず、次回こそ優勝をと誓った主人公・かのん達のスクールアイドルグループ「Liella!」。2年目を迎えた彼女達に向けられる目線はしかし、かつてと異なっている。全国優勝を果たしたサニーパッションが一番の強敵にLiella!の名を挙げたことで、SNSのフォロワーが倍増し10万人を越えるなど一気に注目されるようになっていたのだ。ただ、これは必ずしも良いことばかりとは言えない。
 

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恋「でもわたくし達、大会でまだ何も結果を残せていませんよね」
 
全国大会で優勝したグループがライバル視する実力の持ち主といえば聞こえはいいが、Liella!自体は大会での優勝といった実績を持たない。盛名に実績が伴っているとは言えない。またかのん達が高い実力を持っているのは確かなもののそれは新入生を気後れさせる要因ともなっており、彼女達のスクールアイドル部には入部希望者が一人もやってこない。メンバーの一人である千砂都が「名前だけ独り歩きしてもね」と言うように、Liella!はスターになろうとしているがまだ自分で空に輝けているわけではないのだ。
例えるなら今のLiella!は、まだ空に浮かんでいるだけの「宙ぶらりんな星」である。そして、宙ぶらりんなのはけしてかのん達だけではなかった。
 
 

2.宙ぶらりんなきな子

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きな子「東京はなんでこんなに暑いんすか……溶ける……」
 
本作は「ラブライブ!」及び「ラブライブ!サンシャイン!!」と異なり、2期から9人体制になるという新たなスタイルを採っている。2期生となるのはかのん達の結ヶ丘女子高等学校に新たに入学した4人だが、今回スポットを浴びるのはその一人・桜小路きな子という少女だ。
 

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きな子「ここは……ここはいったいどこっすか――!?」
 
きな子は高校入学に伴い北海道から上京してきた子で、彼女の特徴はその経歴通り劇中の中心的世界を「知らない」ことにある。東京がどんなところかネットで調べてはいるが実知識ではないから迷いに迷うし、スクールアイドルもLiella!のことも何も知らなかった。都会に憧れてやってきたときな子は言うが、彼女はその先でどうするかの展望を全く持っていない。
きな子は「何もないようなところで、家を出る時はまだ雪で真っ白だった」と実家について語るがこれは彼女の心の中そのものであり、だから道に迷ってしまう。東京をさまようきな子は物理的にも心理的にも「宙ぶらりん」であり、この両面で「家」を、帰属する先を求める状態にあった。
 

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かのん「もしかして、新入生!?」
 
東京をあちこち歩いたきな子は結ヶ丘女子高等学校にたどり着き、屋上で練習していたかのん達と出会う。これが偶然なのは言うまでもないだろう。だが同時に、共に宙ぶらりんな両者の出会いにはチャンスが秘められている。偶然のまま終わらせてはいけない、必然として結ぶべき縁が隠されている。
 
 

3.宙ぶらりんから脱するために

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千砂都「どうやら、送ってあげた方が良さそうだね」
 
道に迷ったきな子を、かのんは家まで案内する。かのんを通して知ったスクールアイドルの存在は、家に限らず迷っていたきな子にとって一つの道標になるわけだが――道標を得るのはきな子だけではない。
 

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可可「後輩! 後輩ですよね!? かわいいです……!」
 
かのん達にとってこれまで、自分が高校何年生であるかはさほど大きな意味を持っていなかった。新設校である結ヶ丘にはかのん達1年しかいなかったのだから当然だろう。音楽科と普通科の対立などはあったがそれも途中で収まり、基本的に彼女達は上下を伴う関係とは無縁な立場でいられた。過ぎ去った1年間、かのん達はどこにいてもかのん達だった。いや、かのん達でしかいられなかった・・・・・・・
 

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かのん「レベルが高そう、か……」
 
人間は究極的には孤独な個々人に分解されるが、実際の世の中はもっと大雑把なくくりによって動いてもいる。性別、職業、役職、学年、エトセトラエトセトラ……そして、それらは大雑把なものでありながら意外と人間の自己規定に強く影響している。究極的な個々人としての自分など一生かけても分かるか分からないかの難題だから、そうではなく大雑把なくくりに帰属することで人は自分が何者なのか手っ取り早く確認し安心することができるのである。
 
「私は私」でしかいられなければ、その難しさ故に人は自分が何者なのかを逆に見失ってしまう。「宙ぶらりん」に、劇中のすみれの言葉を借りれば「自己満足」になってしまう。この2期1話当初、無冠のスターとして持て囃されるかのん達Liella!はそういう状況に陥りつつあった。
 

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かのん「くぅーーーっ! なんかむず痒いけどいいよね、その響きっ!」
 
きな子に「先輩」と呼ばれたかのんは、彼女に訝しがられるほど喜び浮かれる。なぜか? それは、この呼び方が学年の上下によって自分の座標を相対的に定めてくれるものだからだ。宙ぶらりんの状態を解消してくれるものだからだ。
先輩と呼ばれたことは、Liella!をいつの間にか5人だけのものとしてしまっていたかのんの心に風穴を開けてくれた。きな子との出会いはかのんにとってある種の運命、天啓にも思えるものだったのだろう。それを与えてくれた存在だから、かのんはきな子を新メンバーに欲するのだ。
 
 

4.言葉を超えて

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かのん「わたし、きな子ちゃんと話している内に思ったんだ。新入生と一緒に頑張りたいって」
 
きな子がかのんにもたらした神秘的な、天啓にも等しい気付き。しかしこれは実際のところ、共有するのはひどく難しいものだ。当然と言えば当然だろう、神秘はそれを見た人間の心の中に生じるものであって、分かりやすく共有できるような代物ではない。どれだけ言葉を尽くしても、それは言葉にした段階でボロボロと剥がれていってしまって全てを伝えることができない。だが、私達は言葉でしかコミュニケーションできないわけではない。
 

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一緒にやりたいとかのんに直接誘われてなお、きな子はその一歩を踏み出せない。彼女には歌や踊りが上手いだとか幼少から研鑽を積んできただとかいった、かのん達のような強みはない。言葉にできるような分かりやすい強みはない。向いてなさそう、と彼女が考えるのは無理もないことだ。だが一方、それでもきな子がスクールアイドルに興味を持っているのも確かなのだ。やってみたい気持ちだけが「宙ぶらりん」の状態で彼女の中にあって、それを解消する方法は彼女がかのんに与えた気付きの中で既に示されている。そう、相対的な座標の決定だ。
 
求めているのは「新入部員」ではなく「桜小路きな子」なのだとかのん達が伝えることで、きな子の興味は座標を獲得できる。そして、スクールアイドルにとってその最上の方法とはもちろん、ライブを観てもらうことに他ならない。
 
 

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Liella!が歌う「Welcome to 僕らのセカイ」は歌でありきな子に向けたメッセージであり、曲中にきな子の驚きが取り込まれているように既に彼女の存在を取り込んだものだ。言葉で伝えられるものを遥かに超えた、ある種の「世界」とでも呼ぶべきものがそこにある。そんなものを浴びたきな子の心に、感動より先に驚きが生まれるのも無理はない。そして、驚いた時点で彼女の心はもうLiella!に捕まっている。もう「宙ぶらりん」ではない。
 

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かのん「これがスクールアイドルの魅力、皆と結ばれて作る新しい未来! ようこそLiella!へ!」
 
いまや世界に言葉は満ちていて、しかしだから伝わらない思いにあふれている。スクールアイドルとして歌い踊ることでおそらく、かのん達はその先へ行くのだ。音楽や芸能と縁深いとは言い難い面々の多い新メンバーを加えることで、それはより強度を増していくことだろう。きな子に言葉を超えて思いを届けることで、かのん達はその第一歩を踏み出した。
 
今のLiella!はまだ宙ぶらりんな星に過ぎない。しかし、だからこそ彼女達の物語は私達の宙ぶらりんな心を救う啓示になる可能性を秘めているのである。
 
 

感想

というわけでラ!ス!!の2期1話レビューでした。うへえ、完全に1日潰れてしまった。これ来週以後月曜にレビュー書けるのかしらん。Liella!ときな子が「宙ぶらりん」ではないかと思いつくまでは良かったものの、その先で止まってしまって結論がなかなか出ませんでした。
 
1年越しの2期ですが、色々と新しいことをやっていて面白いなと思います。これまでのシリーズだと学年の枠を越えた関係になることが多かったですが、本作は逆にその枠を強調する方向になっていくのかな。新メンバー4人がどんな風になじんでいくのか、楽しみに見守りたいと思います。
 

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平安名すみれは相変わらずギャラクシーに一分の隙もないかわいさ美しさ。
 

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それぞれの「スピカ」。
 
 

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