汗と涙で吐き出して――「Gのレコンギスタ IV 激闘に叫ぶ愛」感想

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前作Ⅲから1年後、完結編となるⅤと連続での公開が始まった「Gのレコンギスタ IV 激闘に叫ぶ愛」。レビューというほどまとめるのはちょっと難しそうなので、メモ的に感想を書いておきたいと思います。
 

 

フォトン・バッテリーを運ぶ長距離輸送船クレッセント・シップにたどり着きそのエンジンを動かしたところで幕を閉じた前作。その続きとなる本作は清潔さが重要視されるクレッセント・シップに受け入れてもらうために主人公ベルリ達がひたすら運動をさせられる場面から幕を開けます。別に意地悪というわけではなく、宇宙船の被爆対策や体内の老廃物を吐き出すためのものなのですが――こんな風に汗をかいたりして「吐き出す、流す」というのが本作では大事にされているように感じました。運動を命じているのはトワサンガレジスタンスの一員……と見せかけてビーナス・グロゥブの人間だったフラミニアで、彼女の正体を知らなかった人間の一人は走りながら「よくも今まで騙してくれたな」などと言ったりもしますが走り終えるともう文句は言わなかったりする。汗と一緒にそういう気持ちは老廃物として流れていっているわけです。

 
体に、心に溜まっているものはしばしば老廃物となるもので、適度に流したり吐き出してやらないと毒物のように私達の生を阻害します。例えばアイーダビーナス・グロゥブで見聞きしたもので意識を改めていきますが、そのためにはノレドに注意されたように「アメリア人としての考え」をいったん忘れる必要があった。それを老廃物として吐き出さなければ、きっと彼女はビーナス・グロゥブの人間が突然変異を起こしているといった事実を受け止めることはできなかったでしょう。もちろんその上で彼女が受けた衝撃はやはり大きくて、だから彼女は「今は泣きたいんです!」と玉ねぎをたくさん刻んで涙を「流して」それを消化したりする。
 
汗でも涙でもなんでも使って人は溜まったものを流さなければならないし、それを上手くやらないととんでもないことになる。それを体現しているのが本作序盤~中盤でベルリ達が戦うジット団で、彼らは金星方面のビーナス・グロゥブから地球への帰還を望む気持ちを抑えられなくなった面々で、故にその行動は暴走気味だったり見境がなかったりする。団長のキア・ムベッキはベルリの操るG-セルフを執拗に攻撃したことでシー・デスクの底を傷つけてしまい、あふれて「流れる」海水を止めるべく自らの機体を穴を埋める栓に変えて命を落とします。自分の不始末を自分の命で埋め合わせることになった彼の最後は、そういう老廃物の処理に失敗した場合の一つの結末のように感じました。
 
現代より遥かに未来の本作の世界でも人は悟りを開けているわけではないから迷ったり争いを続け、常に老廃物を溜め込んでいる。それはベルリ達が金星方面へ出かけている間も戦いを続けていたドレット軍、アメリア軍、キャピタル・アーミィはもちろんベルリ自身も同様で、彼はG-セルフの新装備フォトン・トルピードで混沌とした戦場に文字通りの風穴を空けますが、爆発もなく周囲のものを削り取るその圧倒的に冷たい破壊力に恐怖します。聞こえるはずのない人々の断末魔まで感じ取り、ほとんど戦いを放棄してしまう。キャピタル・アーミィのマスクはそんな彼を「殺人者!」と罵倒し襲いかかり、二人の戦いがこのⅣのクライマックスの一つとなっていますが、それは戦いが二人にとって「吐き出す」「流す」行為になっているからのように感じました。先述したようにフォトン・トルピードは圧倒的に冷たい兵器で、大量破壊を巻き起こすにも関わらずベルリにも周囲の人間にもそれを実感させません。ひどいことが起きた、やってしまったのだと頭で理解できても手応えがなく、故にいっそう強い恐怖がある。だからそんな状況でマスクがベルリを責めたことは、またそれによってベルリが彼との戦いに必死にならざるを得なくなったことは、互いにとって「吐き出す」「流す」ためにとても重要な効果を発揮したように思うのです。
 
人は生きていく限り老廃物を溜め込んでいくものだしそれを無視してはやってはいけず、だからそれらを吐き出し流すために汗や涙がある。本作の間ベルリ達と行動を共にしていたマニィが愛するマスクのところへ戻った際に流す涙には万感の思いが込められていて、だからそれまでのわだかまりといった老廃物が全て吐き出され流されていく。私達はたぶん、キア・ムベッキのような破滅を迎えないようほどよい形で老廃物を吐き出し流す方法を求めていくしかないのではないか。「自分の目で確かめる」ことの意義は、正解を掴むことよりもそういった自分の中での処理を適切に行う方法としての意味が大きいのでしょう。なら、ベルリ達はそれをどのように行っていくのか。近々公開の完結編、Ⅴを楽しみに待ちたいと思います。
 
 

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