オニサプリは9人目の劇薬――「ラブライブ!スーパースター!!」2期5話レビュー&感想

©2022 プロジェクトラブライブ!スーパースター!!
最後の星が異彩を放つ「ラブライブ!スーパースター!!」。2期5話では9人目のメンバーとなる(予定の)鬼塚夏美の本格登場ときな子達1年生の悩みが描かれる。今回はきなこ達との比較を軸に、夏美の「オニサプリ」ぶりを考えてみたい。
 
 

ラブライブ!スーパースター!! 2期 第5話「マニーは天下の回りもの」

新たに四季とメイが加入し、8人になったLiella!。
そこに、Liella!の人気をかぎつけた1年生、鬼塚夏美が現れる。夏美は動画配信事業を行っていて、CEOも務めているのだという。そこで今回、Liella!の宣伝を動画で手伝いたいと名乗り出た。
宣伝をメンバー以外の人に任せれば、Liella!は練習に専念できるので悪い話ではない。
Liella!は夏美の話に乗ることに。しかし、すみれは夏美の行動を怪しんでいて──。

公式サイトあらすじより)

 

1.きな子達の対極に位置する少女

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かのん「えー!? 入部希望じゃないの?」
 
最初に述べたように今回はLiella!9人目のメンバー(予定)の鬼塚夏美の本格登場回である。高校1年にして株式会社オニナッツのCEO、半ばから薄桃色の金髪や「ですの」口調、加えてこれまでの回では株価に落胆したりバイトに勤しんだりととにかくインパクトの強いキャラクターだ。ただ、彼女ときな子達他の1年生(あるいはかのん達2年生まで含め)の最大の違いはこういったところにはない。夏美を新メンバー最後の一人に相応しい難敵に仕立て上げているもの――それはスクールアイドルになることへの(少なくとも現時点での)関心の乏しさだろう。
 

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可可「ではもしかして、スクールアイドルの動画を見て家で練習したことが?」
四季「それは……」
かのん「恥ずかしがらなくても大丈夫。ここにいる皆、全員やってるから」

 

2期でLiella!に新加入したきな子達に共通していたのは、スクールアイドルへの強い関心だった。かのん達のライブに魅せられたり、強面のようでLiella!の大ファンだったり、そんな友人をきっかけに自分でもダンスを真似してみたり……きな子、メイ、四季の1年生3人はいずれも自分もやってみたい気持ちが強くあり、それに素直になれるかが問題だった。しかし夏美は違う。
 

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夏美「あの3人がスクールアイドル部に入ったことで1年生からの人気が急上昇中。私ともあろうものがとっとと利用すべきでしたの」
 
夏美はスクールアイドルやLiella!を知らなかったわけではない。3話ではフェスに居合わせていたし、この回では学校でのライブに1年生も皆来ていることが語られている。今回SNSでのLiella!のフォロワー数増加に「いつの間にかこんなにフォロワー数が増えていたとは」と反応している点からも、全くのノーチェックだったわけではないのだろう。知っていて、かつさほど興味を抱かなかったのだ。
 

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夏美「我が社でLiella!さんのプロデュースを担当させていただきたいんですの!」
 
実際、今回夏美はLiella!に接近するが目的は入部ではない。動画配信を中心とした業務を行っている自分にLiella!をプロデュースさせてほしいと商談を持ちかけに行ったに過ぎない。これらの点から分かるように、スクールアイドルが大好きなきな子達とは対極に位置しているのが鬼塚夏美という少女なのである。
 
 

2.きな子達の悩み

きな子達と夏美は対極に位置している。このことは、今回両者が抱える悩みからも見て取ることができる。
 

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メイ「とは言ったものの」
四季「やっぱり2年生はすごい人ばかり」
きな子「っすね……」

 

この5話できな子達は壁にぶつかっている。それは自分達1年生がかのん達2年生に遠く及ばない現状についての悩みだ。前回のラブライブ!優勝グループであるサニーパッションが認めるかのん達の実力は相当なもので、彼女達が軽々とこなす練習メニューにきな子達は息も絶え絶えになってしまう。
 

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かのん達と同じようにできないからと言って、きな子達が全く何の能力も持っていないわけではない。四季はスクールアイドルの動画を見て真似した経験からダンスが上手く、メイはピアノを弾けることから作曲できる可能性があり、きな子もまだ歌詞になってはいないが思いついた言葉をノートに書き溜めていたりする。2年生になる頃にはきっと、1年生を引っ張れるようになっていることだろう。あくまで現状から予想される成長曲線がかのん達に遠く及ばないだけで、しかしそれがきな子達には悩ましい。
 

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メイ「来年の今頃になれば、先輩達みたいになれてるのかな」
四季「とうてい、無理」
きな子「うう……」

 

この2期1話、大会優勝などの結果という絶対的な座標をまだ得られないかのん達に対し、きな子達1年生は先輩後輩という相対的な座標を与えて自分達を前進させてくれる存在だった。しかしその相対的な座標は今回、きな子達の苦悩の理由になっている。どれだけ前進できているとしても、相対的に見た時かのん達は遠くなるばかりだからだ。相対的な座標はどんな時でも救いになってくれるわけではないのである。
1年生の中でただ一人、夏美だけはきな子達と同じ苦悩に囚われていない。当然だろう、Liella!に未加入の上スクールアイドルへの関心も乏しい彼女がそんなことで悩む理由は全くないのだから。
 
 

3.オニサプリは9人目の劇薬

夏美はきな子達と同じ悩みを抱えていない。しかしもちろん、だからと言って夏美に悩みがないわけではない。
 

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夏美「うう……全く再生数が全く伸びな、痛っ! 引っ越しのバイトは鬼ですの」
 
夏美の目下の悩みは、自分の配信する動画チャンネルだった。再生数は3桁で伸び悩み、歌唱や時事ネタなど色々やってみても視聴者は見向きもしてくれない。再生数を伸ばすにはどうしたらいいか、頭を抱えていた彼女が思いついたのがLiella!の知名度の利用であった。
 

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すみれ「『報酬は受け取らない。ただし制作費の実費として、動画収入を株式会社オニナッツが受け取ることとする』……って、これOKしたの!?」
かのん「うん。別に私達お金儲けしたいわけじゃないし」

 

先に触れたように夏美はビジネスとしてかのん達にプロデュース(企画と宣伝)を持ちかけたわけだが、そのやり方はなかなか商魂たくましい。動画製作自体の報酬は受け取らないが動画収入の全てがオニナッツ側のものとなるように契約書を作り、お金儲けに興味のないかのんもそれを承諾してしまう。Liella!の日常を撮影した動画は呆気なく再生数5万回を突破したが、これまでは苦労しても3桁止まりだったのがおそらくさほど編集もせず5桁を突破したのだから夏美としては笑いが止まらないところだろう。彼女は絶好の商売道具を見つけたのだ。
 

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すみれ「ちゃんと説明してもらえる? ショウビジネス的にはありえない話なんだけど」
 
宣伝のためと称して強引に撮影を迫るこのやり方はメンバーの疑念を呼び、夏美はすみれや四季から金儲けだけが目的なのではと指摘されてしまう。何か理由があるのではと考えたかのんのとりなしで追い出されたりはしなかったが、かと言って反省した様子も見受けられない。
 

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夏美「マニーですの。この世は全てマニーですのー」
 
夏美は悩んでいるが迷ってはいない。なぜか? それはおそらく、彼女に絶対的な目標があるからだ。「この世は全てマニーですの―」……そう、「マニー」である。
 

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夏美「オニナッツー! あなたの心のオニサプリ、鬼塚夏美ですの!」
(中略)
かのん「すごいテンションだね……」

 

夏美は株の購入やアルバイトにも勤しんでいたし、動画再生についても承認欲求に対する言及はなかった。それらの目的な全てが「マニー」だ。「マニー」こそは夏美の不動のセンターであり、そのためならやり方はどうとでも変えられる相対的なものに過ぎない。そして相対的な部分に悩まされていない点で、彼女はやはりきな子達と対極的なのだろう。
 

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夏美「思いつきましたの。私達は全員1年生、皆さんにちょっとご相談がありますの」
 
きな子達の実力はけして低いものではない。けれどかのん達には遠く及ばないという、相対的な部分にこそ彼女達の悩みはある。一方の夏美は相対的な部分に悩まないがマニーという絶対的な目標が強過ぎ、それ故に手段を選ばないきらいがある。両者は対極的であり、逆に言えば互いが互いの欠点を埋め合わせる可能性を秘めている。そして、そのためにはかのん達は一時的でも行動を共にしない方がいい。彼女達がいれば、きな子達はどうあってもそれに引っ張られてしまうのだから。夏美は夏休みの間1年生が2年生と別行動を取ることを提案し、これは単なる善意ではなくやはり「マニー」のためのようだが、結果的にはきな子達や夏美、そしてLiella!全体にとってプラスに働くことだろう。
 

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夏美「気になる人はチャンネル登録、アーンド高評価お願いですの。それが夏美の心のサプリですのー」
 
スクールアイドルにとって9は絶対数だと可可やメイは言う。それがラブライブ!シリーズにおけるレジェンドの資格であることは私達もよく知るところであり、故にその鍵となるキャラクターは単に加入の順番が最後というだけでは務まらない。何から何まで異端の9人目である夏美は一筋縄ではいかず、しかしそんな彼女の登場はLiella!を良い意味で不安定にしていくことだろう。
鬼塚夏美はオニサプリである。Liella!がひとつ上のステージに進むために必要な、起爆剤の如き劇薬なのだ。
 
 

感想

というわけでスパスタ2期5話のレビューでした。今回は悩ましかった! なんだかんだで1話完結のレビューを書くのに馴されちゃってるのを感じました。よろしくない。鬼塚夏美という癖の強いキャラをどう捉えるか、それをきな子達の悩みとどう関連付けたらこの5話の一貫したレビューとして書くことができるかずいぶん頭を悩ませられました。両者が対極的というだけではちょっと観念的過ぎたはずで、書いていく内に最後に「オニサプリ」にたどり着けて良かったです。
 
結論はもちろん来週も待ってからするべきですが、鬼塚夏美というキャラの立ち位置が私なりに推定できたように思います。賑やかで表情豊か、かわいい彼女の加入が非常に楽しみになりました。
 
 

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